小田急電鉄株式会社 様 導入事例
予防型QAが切り拓く
小田急のMaaS品質戦略。
安定運営を実現する、
テストを超えた取り組み


Summary
小田急電鉄様が推進する次世代モビリティ事業「MaaS(Mobility as a Service)」。その中核を担うアプリ「EMot」は、コロナ禍でのローンチから事業ピボットを経て成長をつづけるなかで、マルチベンダー体制における品質確保という課題に直面しました。
SHIFTはQAパートナーとして、開発プロセスへの深い関与を通じてサービスの品質向上を支援しています。
デジタルチケットと複合サービスを展開する「EMot」の挑戦
今回対象となるプロジェクトの概要について教えていただけますか。

小田急電鉄では、鉄道事業を中核としながら、沿線開発やデジタル領域まで含めた、総合的な都市交通サービスを展開しています。
私たちのチームは、交通領域のデジタル化を担う「次世代モビリティチーム」という組織で、MaaSプラットフォーム「MaaS Japan」と、フロントサービスである「EMot」のプロダクト開発および運営を担当しています。
プラットフォーム層にあたる「MaaS Japan」では、チケッティングや特急システムとの連携などの基盤機能を担い、一方、フロントサービスである「EMot」では、お客様が直接利用されるサービスを提供しています。
MaaSサービスのなかでも、特に注力されている点はどこでしょうか。
交通サービスにおいて重要なのは「購入から利用までの一貫性」です。
以前は磁気券や紙のチケットを改札機に投入して利用する流れが主流でしたが、現在は購入から利用までをデジタル化し、スマートフォン一つで完結できる体験を提供しています。「EMot」では、この体験を主要な価値として磨き込んできました。
コロナ禍を経て進化した
MaaSサービスと利用者の広がり
サービス開始後の変遷についてもお聞かせください。

「EMot」は2019年にローンチしましたが、その直後にコロナ禍に直面しました。「移動を活性化するサービス」としてはじめたにもかかわらず、社会全体が「移動するな」という状況になったのです。
そのなかで、事業の形態を柔軟に見直し、チケット機能を中心に据えるなど、徐々にピボットを重ねてきました。コロナの収束とともに人の移動が回復し、インバウンド対応やWeb版の提供も進め、現在の形に至っています。
アプリとWebの使いわけも特徴的ですね。
はい。通勤などの日常利用ではアプリを、観光利用や一見のお客様にはWebストアを使うなど、商品特性に応じて利用がわかれています。これにより、ユーザー体験の最適化につながっていると考えています。
マルチベンダー体制における
品質確保のむずかしさと障害リスクへの危機感
事業が拡大するなかで、QA体制を強化しようと考えられた背景を教えてください。

「MaaS Japan」と「EMot」はマルチベンダー体制で開発を進めており、商品数や連携先の増加に伴って、品質を管理する対象や範囲が広がってきました。これまでも自分たちで品質確保に取り組んできましたが、より高い品質を担保するため、より専門的なQAの必要性を感じるようになりました。
特に、ロマンスカー関連をはじめとする影響度の高い機能も含め、不具合が発生した場合の影響も大きく、これまで以上に計画的かつ確実な品質確認が求められていました。そうした重要機能を見据え、リスクを事前に予防するための取り組みとして、QA体制を強化する判断をしました。
QAパートナーとしてSHIFTを選定された決め手は何だったのでしょうか?
鉄道システムの開発では、高い安定性が求められるケースが多く、品質を重視した進め方が取られることが一般的です。一方で、当社が取り組んでいるMaaSのような新規事業においては、変化に柔軟に対応しながらスピード感をもって改善を重ねる必要があります。SHIFTさんは、こうした事業特性の違いを踏まえ、それぞれに求められる品質水準や進め方を理解されていました。また、単にテストを担うだけでなく、開発プロセス全体を俯瞰しながら品質向上につなげる視点をもたれていた点も印象的でした。こうした点が、QAパートナーとしてSHIFTさんを選定した大きな理由です。

ありがとうございます。鉄道業界がこれまで大切にされてきた文化を尊重しながら、MaaSに必要なスピードや品質も決して妥協しない。 その両立を実現するために、SHIFTの知見が貢献できると考えました。
複雑な仕様を構造化・可視化し
網羅性を担保したテスト設計
SHIFTメンバーが現場でプロジェクトにどのように貢献しているか教えていただけますか?
非常に助けられています。特に特急システムとの連携など、複雑な仕様の整理において、加藤さんが作成される資料が心強い存在になっています。 私たちが口頭や断片的な情報で伝えた内容を、パターン表(Excel)として構造化してくださるので、「そういえばこの観点が漏れていた」という気づきを多く得られています。

ありがとうございます。特急連携など新規対応箇所では、テスト設計から関わらせていただきました。複雑な連携仕様だからこそ、テストケースを羅列するだけでなく、全体像がわかるマトリクス形式などで可視化することを意識しています。三島さんとの認識合わせをスムーズにし、網羅性を担保するには、まず「構造」を整理することが重要だと考えています。
加藤さんとご一緒することで、検討の網羅性や精度をさらに高めることができたと感じています。異なる視点を取り入れることで、より多角的に整理・確認を進めることができました。
鉄道サービスは一度不具合が起きると影響範囲が大きいため、「どこまで確認できているか」「どこが未確認か」をチーム全体で共有できる状態を作ることも意識しています。
QAとして網羅性を担保するだけでなく、開発や運用の方が安心して判断できる材料を提示することが、自分たちの役割だと考えています。
仕様書の範囲外にある「違和感」を拾うユーザー視点の検証力
テスト実行を担当する藤々木の現場での関わりについて、教えていただけますか?

藤々木さんの検証力には驚かされることが多いです。仕様書通りの動作確認はもちろんですが、例えばQRコード施策の際など、店舗名の表記揺れや文字の間違いといった、仕様書の範囲外にある「ユーザーとしての違和感」まで拾いあげてくださいます。
バグが出ないのはよいことですが、何も報告事項がないのはQAとして少し悔しいという気持ちもありまして(笑)。仕様をなぞるだけでなく、「ユーザーが使ったときにどう感じるか」を常に意識しています。今回の改修とは直接関係ない箇所でも、気になった部分は積極的に確認するようにしており、それが結果として品質向上に繋がればと考えています。

いまではQAが単なる下流工程ではなく、事業貢献の一翼を担う存在になってきていると感じています。
日常的に使われるサービスだからこそ、「たまにしか起きないケース」や「忙しいときの不具合」を想像しながら確認するようにしています。実際の利用シーンを思い浮かべながらテストすることで、少しでも安心して使っていただけるサービスづくりに貢献できればと思っています。
初期段階の情報からでも、仮説を立てて論点や観点を整理いただける点がありがたいです。Slackなどで展開しやすい形でアウトプットしてくださるため、チーム全体のスピード向上にもつながっています。今後は、要件定義フェーズからのさらなる関与や、プロダクト横断での知見活用にも期待しています。
お二人の存在が、開発チームの円滑な推進につながっていると感じています。

開発者会議にも参加いただいていますが、議論が行き詰まったときに、QA視点から「こうすれば解決するのでは?」と的確な解決策を提示してくださることがあります。単にテストにとどまらず、チームの一員として自律的に動き、プロダクトをよくするための提案をいただけることに、大きな信頼と安心感につながっています。
緊急対応の削減による安心感とコア業務への集中
SHIFTの導入後、プロジェクトにはどのような変化がありましたか?
安定した運営への要求が高まるなかで、品質面でも先を見据えた対応の重要性が増していました。SHIFTさんの参画後は、確認の精度や全体の見通しが明確になり、業務が立て込む時期であっても、チームとして先を見据えながら落ち着いて判断・運営できる場面が増えました。また、個別の機能に限定せず、システム全体を横断した視点で影響を確認・指摘いただけるため、必要な対応を早い段階から検討・実行できるようになりました。

継続してプロジェクトに関わらせていただいているからこそ、「ここを触るとあそこが動く」といったシステム全体の勘所が掴めてきているのだと思います。「継続は力なり」です。
緊急対応や手戻りが減ったおかげで、私たちは外部パートナーとの交渉や事業企画といった、本来注力すべきコア業務に集中できるようになりました。 また、開発だけでなく、翻訳業務などの運用面でもSHIFTさんのリソースを活用させていただいており、チーム全体の生産性が向上しています。

社内では冗談めかして“藤々木さんが2人いるのでは”といわれるほど、迅速かつ正確な対応に感謝しています。
鉄道業界全体の品質向上を見据えた今後の展望
要件定義など上流工程からの参画によるさらなる品質向上
今後の展望や、SHIFTへの期待についてお聞かせください。
今後は、要件定義を含むより早い段階から、QAの視点や知見を共有いただけると有益だと考えています。仕様が固まる前の段階からQAの観点を取り入れることで、手戻りをさらに減らし、開発効率の向上につなげていきたいですね。
また、当社のデジタル領域にとどまらず、SHIFTさんが支援されている他のプロダクトも含め、プロダクト横断での効率化にも取り組んでいきたいと考えています。類似事例や機能横断のノウハウを共有いただくことで、より高い品質とスピードを実現できることを期待しています。
鉄道業界は、品質に対して非常に高い基準をもっていますが、それゆえにアジャイル開発への適応に課題を抱えている企業様も多くいらっしゃいます。 小田急様との取り組みは、鉄道業界におけるDX推進のモデルケースになると確信しています。ここで培った「鉄道×IT×QA」のノウハウを活かし、業界全体の品質向上に貢献していきたいですね。
そうですね。私たちも、単に自社のサービスをよくするだけでなく、鉄道業界全体がデジタルシフトしていく際の一助になればと考えています。今後とも、頼れるパートナーとしてよろしくお願いします。

※掲載内容は2026年1月取材時のものです。

小田急電鉄株式会社
















