GAN(敵対的生成ネットワーク)とは?その仕組みから活用事例、課題までを解説

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GAN(敵対的生成ネットワーク)とは?その仕組みから活用事例、課題までを解説
株式会社SHIFT マーケティンググループ
著者 株式会社SHIFT マーケティンググループ

Introduction

AI技術は近年大きく進化を遂げており、次々と新しい技術が生み出されています。技術の発達により十分な量と質のデータをAIに学習させることができるようになり、画像認識や画像生成の精度が大幅に高まりました。

なかでも画像認識や画像生成、音声合成などの分野で応用が進んでいる技術として、GAN(敵対的生成ネットワーク)があります。

この記事では、GANとはどのようなAI技術なのか、その仕組みや活用事例、今後検討すべき課題などについて解説します。

目次

GAN(敵対的生成ネットワーク)とは

GAN(敵対的生成ネットワーク)とは

まずはGANがどのような技術なのか、その仕組みについて簡単にご説明します。

二つのニューラルネットワークに競争させながら学習させ、より高品質なデータを生成する仕組み

GAN(Generative Adversarial Network)は「敵対的生成ネットワーク」と訳されます。その名称のとおり、二つのニューラルネットワークの「生成器」と「識別器」が互いに競い合いながら結果を生成する仕組みとなっています。

生成器が本物に似せたデータを生成し、識別器はそのデータが本物か偽物かを判別します。これを繰り返していくことで生成器が生成するデータの精度が上がっていく、という仕組みです。

GANの技術は画像生成、音声合成などの分野で大きな成果を上げており、さまざまな分野で活躍の場が広がっています。

一方で、「GANの学習プロセスは不安定になりやすい」という課題があるため、細かい調整力や高い計算能力などが求められています。また、フェイク画像を生成して悪用されるなどの倫理的な問題も指摘されています。

課題も多いですがGANの応用範囲は非常に広いため、今後の技術革新への期待が高まっています。

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GAN(敵対的生成ネットワーク)の基本的な仕組みと学習プロセス

GANには「Generator(生成器)」と「Discriminator(識別器)」という二つの要素が存在し、互いが競争することで生成するデータの精度が向上していく仕組みです。

生成器が本物に近い偽物のデータを作り出し、識別器が本物か偽物かを見破ろうとします。生成器は識別器をだませるような精巧な偽物を生成し、識別器はその嘘を見破ろうとする…これを繰り返し学習していくことで、次第に生成されるデータは本物に近づいていくのです。最終的に、生成器が生成したデータが本物なのか偽物なのか区別がつかない状態になることで、学習は成功です。

たとえば、猫の画像を生成する場合の学習プロセスは以下のとおりです。

生成器が猫の画像を生成し、識別器が本物の画像と比較してどちらが本物かを判断します。識別器は猫の色、形、質感などを判定してスコアを出力します。

識別器が偽物と判断した場合、生成器は「どうすれば本物の猫に近づけられるか」を学習します。耳や鼻の形が不自然だと判定された場合には、本物に近づくように修正します。

識別器が本物と判断した場合、識別器は「なぜ騙されたのか」を分析し、次に騙されないように学習します。

この流れを繰り返すことで、生成されるデータはより精巧になっていきます。最終的に生成器は本物に近い猫の画像を生成できるようになり、識別器も猫の画像の真偽を判定できるようになります。

GANのこのような学習プロセスは、高度な数学モデルによって実現しています。「損失関数」という指標で最適化されますが、この学習プロセスは不安定になりやすいという問題をはらんでいます。この問題を解決して実用化するためには、パラメータの調整やモデルの設計の改善などが必要です。

代表的なGAN(敵対的生成ネットワーク)の種類

技術革新が進むなかで、次々と新しいGANモデルが登場しています。ここでは、GANの代表的なモデルについてご説明します。

バニラGAN

もっとも基本的なGANモデルで、識別器の勾配を生成器が受け取って学習を進めます。

条件付きGAN(CGAN)

条件(ラベルやテキストなど)で生成と識別を条件付けして、指定条件に整合するサンプルを生成します。指定した条件にあった画像を生成する場合などに用いられます。

深層畳み込みGAN(DCGAN)

GANをベースとしてCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を組み込んだものです。従来のGANと比べ、安定性が高く精細な画像を生成できます。高解像度でリアルな画像生成を実現できるため、写真のような画像を生成することも可能です。

高度な画像生成技術であるDCGANはアート分野だけでなく、医療、自動運転などの分野で高精度なシミュレーションデータの生成に役立っています。

CNNについてはこちらもご覧ください。
>>CNN(畳み込みニューラルネットワーク)とは?構造や活用例をわかりやすく解説のページへ

スタイルGAN(StyleGAN)

「スタイル変調」と呼ばれる技術を取り入れ、GANの技術をさらに発展させたモデルです。画像の各レイヤーのスタイルを制御し、生成した画像の細部を自在に調整できます。

たとえば、人物の顔の写真の髪型を変える、年齢を変化させるなどが可能です。ディープフェイク技術のなかで重要な位置を占めており、ファッション業界、デザイン業界をはじめゲーム業界、VRコンテンツなどの開発にも応用されています。

一方で、本物と見間違えるようなリアルな画像を生成できるため、倫理的な問題や悪用のリスクが問題視されています。

ディープフェイクについてはこちらもご覧ください。
>>ディープフェイクとは?活用例や悪用された場合のリスク、対策について解説のページへ

サイクルGAN(CycleGAN)

教師データとなるペア画像を必要としない特徴をもち、画像のスタイルを相互変換できるモデルです。

たとえば、普通の馬の画像をシマウマの画像に変換する、逆に、シマウマの画像を普通の馬に変換するということが可能です。

応用例としては、古い写真の復元、カラー化などがあります。ペア画像が必要ないため、さまざまなケースに適応しやすいのが大きなメリットです。

GAN(敵対的生成ネットワーク)の活用事例

GAN(敵対的生成ネットワーク)の活用事例

GANは画像生成や音声合成などに活用が進むAI技術です。ここでは、具体的にどのような活用事例があるのかをご説明します。

高画質な画像を生成する

GANは高画質な画像を生成することを得意としています。技術の進化は目覚ましく、生成した画像が本物の写真と区別がつかないところまできています。さらに、人物の画像の性別や年齢、髪型、体格などを変えるなど、自由自在な画像生成が可能です。

テキストから画像を生成する

テキストを入力して求める画像を生成する技術も登場しています。与えられたテキストにある説明を理解しそのとおりに画像を生成できるため、たとえば脚本からそのままアニメーションを制作するなどということも可能です。

2D画像を異なるスタイルや3Dモデルに変換する

GANモデルを活用すれば、画像を自在に変換できます。

たとえば、写真を絵画風に変換する、アニメ風に変換する、逆に絵画を写真のように変換するなども可能です。また、2Dの画像を3Dに変換することもできます。

音声・動画・ゲームを生成する

GANは画像生成や変換だけでなく、音声合成や動画生成、ゲームの生成なども可能です。

たとえばWaveGANやSpecGANなどの音声データ生成を行うモデルを活用すれば、音楽や人間の音声の生成などができます。また、MoCoGANというモデルは動画のフレームを生成でき、リアルな動画やアニメの制作が可能です。さらに、NVIDIA社が開発したGameGANはゲームのプレイ映像から新しいゲームを制作できます。

このように、GANの技術は画像生成だけではなく、ほかの分野でも応用の場が広がっています。

GAN(敵対的生成ネットワーク)のビジネスでの活用事例

GANの技術は、デザインの効率的な制作に有効です。たとえば、ロゴやデザインなどを自動で何パターンも生成できるため、商品や工業製品、建築、看板などのデザインが可能です。また、企業ブランドにマッチした架空の人物をGANモデルで生成することで、実際のモデルを採用することなく広告やCM撮影などができます。

また、デザインの分野だけでなく、医療分野やセキュリティ分野などでも活用が進んでいます。医療分野では、CTスキャンやMRIなどの画像をGANで生成することで診断精度を高める、病気の診断支援に活用するなどが可能です。セキュリティ分野では、IDカードや通貨の偽造を防ぐためにGANで本物のデザインを学習して識別に活用しています。

このように、幅広い分野でGANの活用が進んでいます。

GAN(敵対的生成ネットワーク)がもつ課題

GANはその高度な画像生成の性能から幅広い分野で活躍していますが、一方で課題もあります。ここでは、今後解決していくべきGANの課題について解説します。

モード崩壊

モード崩壊とは、生成器側が特定のデータに偏ることで多様なデータを再現できなくなる現象のことです。

たとえば、モード崩壊が起こると人物の顔の画像を生成させようとしても、特定パターンの顔の画像しか生成しなくなることもあります。

モード崩壊を防ぐためには学習アルゴリズムや損失関数の調整が有効といわれていますが、完全に解決するまでには至っていません。(2025年10月時点)

生成データの品質評価基準が主観的

GANは生成器と識別器が互いに騙しあうことでリアルなデータを生成しますが、それが正しいデータであるとは限りません。生成データの品質評価基準が明確ではないため、リアルな画像が生成できたとしても、それが正しいとはいい切れないのです。

特に問題なのは、医療分野や自動運転などの安全性が求められる分野に応用する場合です。安全性や厳密性が求められる分野に応用する際には特に、品質管理基準の明確化、標準化が求められています。

学習データへの依存性

GANモデルは学習データに依存する面が強いため、質の高いデータを収集する必要があります。偏りのあるデータを使うと生成された結果の品質が落ちてしまうため、十分な量の偏りのないデータを用意することが重要です。

ディープフェイクなどの倫理的な懸念

GANの技術を使えば本物と見分けがつかないような高精度な画像を生成できます。そのため、たとえば政治家や有名人などの画像や動画、音声を使って、本人がいっていないことをいわせるなどということもできてしまいます。これは倫理的に大きな問題をはらんでいるため、慎重に扱う必要があるでしょう。

まとめ

GAN(Generative Adversarial Network)は「敵対的生成ネットワーク」と訳されます。その名称のとおり、二つのニューラルネットワークの「生成器」と「識別器」が互いに競い合いながら結果を生成する仕組みとなっています。

GANの技術は画像生成、音声合成などの分野で大きな成果を上げており、デザインの分野だけでなく医療、自動運転など幅広い分野で活躍の場が広がっています。

またGANの技術をビジネスに活かすことで、業務の効率化やコストの削減につながるかもしれません。

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林 栄一

監修

株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
林 栄一

組織活性化や人材開発において豊富な経験を持つ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築し、現在新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当している。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。勉強会やカンファレンス、最近では生成AI関連のイベントに多数登壇している。チームワークの価値を重んじ、社会にチームでの喜びを広める使命をもつ。

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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
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https://service.shiftinc.jp/softwaretest/hinshitsu-univ/
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この記事を書いた人

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著者 株式会社SHIFT マーケティンググループ

SHIFTは「売れるサービスづくり」を得意とし、お客様の事業成長を全力で支援します。無駄のないスマートな社会の実現に向けて、ITの総合ソリューションを提供する会社です。

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