Introduction
「CPUは知っているけれど、TPUについてはあまりよく知らない」、「CPUやGPUとの違いが実はよくわかっていない」という方も多いのではないでしょうか?
CPUはパソコンやサーバーなどに搭載されている頭脳にあたる汎用的なプロセッサであり、GPUは画像処理やAI処理に長けたプロセッサです。これに対し、TPUはGoogleが開発したプロセッサで、機械学習やディープラーニングに特化し、非常に高性能な計算処理能力をもっています。
AI技術の実現には膨大な量のデータ処理が求められるため、同時にコンピューターのスペックも高めていく必要があります。そんななか、GoogleはAI分野に特化したプロセッサであるTPUの開発を続けています。
この記事では、TPUとは何かから、CPUやGPUとの違い、TPUが適した作業などまでわかりやすく解説します。
目次
TPUとは

まずはTPUとはどのようなものなのか、TPUが誕生した背景や2025年10月時点の最新バージョンについてご説明します。
Googleが開発した、機械学習、特にニューラルネットワークの計算に特化したハードウェアアクセラレーター
TPU(Tensor Processing Unit)とは、Googleが開発した機械学習に特化したプロセッサです。Tensor Processing Unitの「Tensor(テンソル)」とは、多次元配列を一般化した数学的な概念のことであり、TPUは大規模な多次元配列の計算を高速で行えるように設計されています。
TPUは従来のCPUやGPUに比べると、機械学習に必要な行列演算やテンソル演算などを高速かつ効率よく実行可能です。TPUの登場により、AIモデルの学習や推論処理などにかかる時間とエネルギー消費を大幅に削減できるようになりました。
TPUの大きな特徴として、並列処理能力が高いということがあります。大規模な行列計算を同時に処理できるため、複雑なニューラルネットワークの学習を高速化することが可能です。また、処理速度だけではなく電力効率も向上しているため、AIモデルを運用する際のコスト削減にもつながっています。
このように、TPUの登場によって機械学習に必要になる膨大な量の計算処理を効率よく、かつコストを抑えて実行できるようになりました。TPUは機械学習分野の技術の進化に欠かせない存在といえるでしょう。
機械学習についてはこちらもご覧ください。
>>機械学習とは?AIやディープラーニングとの違い、活用事例などを解説のページへ
TPUが誕生した背景
GoogleがTPUを開発するに至った背景について見てみましょう。
Google社がTPUの開発を始めたのは2014年で、これはGoogleへのアクセスが今後増大することが判明したことが発端です。ユーザーが1日に30秒間音声で検索するようになると、Google社のデータセンターを2倍に増設しなければならない、という試算結果が出たのです。このままの設備や技術ではいずれ破綻してしまうため、音声認識に特化したチップが必要になり、TPUの開発につながりました。
AIが画像や音声データを扱う場合、「Tensor(テンソル)」と呼ばれる多次元配列の形式でデータを処理します。テンソルという数学的な概念と、処理を行うユニットという言葉を組み合わせてTensor Processing Unit(テンソル処理ユニット)、TPUとなりました。
その後、TPUの開発は以下のように進みます。
・v1(2016年):推論専用の初代TPU
・v2(2017年):学習機能の追加、商用提供開始
・v3(2018年):液体冷却の導入により大規模化、性能が8倍に向上
・v4(2021年):光学I/O技術の導入、チップ間通信の大幅改善
・v5e(2023年)、v5p(2023年12月):コスト効率と性能の両立、バリエーションの展開
・v6(2024年5月):大幅な性能向上とエネルギー効率の改善
・v7(2025年4月):推論特化への回帰、超大規模クラスター対応
【2025年10月時点】最新チップは第7世代TPU「Ironwood」
TPUの2025年10月時点での最新バージョンは、2025年4月9日の「Google Cloud Next 2025」で発表された第7世代TPUで、名称は「Ironwood」です。2025年後半にGoogle Cloudで提供開始予定となっています。
「Ironwood」の1チップあたりの性能は4614TFLOPS(テラフロップス)、前世代の「Trillium」と比較すると消費電力あたりのパフォーマンスが約2倍に向上、1チップあたりの広帯域幅メモリ容量は192GBと「Trillium」の6倍、チップ間相互接続帯域幅は1.5倍となりました。
上記でご説明したとおり、TPU v1は推論専用でしたが、v2以降は学習機能が追加されました。しかし、最新のv7では再び推論特化に回帰しています。AIの開発競争は新たなフェーズを迎え、推論の計算量が増加していることを受けてとのことです。
CPU・GPUとTPUの違い
次に、TPUがCPUやGPUとどのような点で異なるのかについて説明していきましょう。
CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置はコンピューターの頭脳にあたり、演算と制御を行う重要な部分です。コンピューター内のメモリ、HDD、キーボード、マウス、ディスプレイなどの制御を行っています。
GPU(Graphics Processing Unit)は画像処理装置ですが、近年は機械学習やビッグデータの処理などにも利用されています。
すでにご説明したとおり、TPU(Tensor Processing Unit)はGoogleが開発した機械学習の大規模な行列演算に特化したプロセッサです。
CPU、GPU、TPUの違いについて、以下のとおり表にまとめました。以下の表からどれが一番優れているということはなく、それぞれ用途や得意分野が異なることがわかります。
|
|
CPU |
GPU |
TPU |
|
用途 |
汎用的な計算 |
画像処理、AI学習 |
機械学習、AI推論 |
|
アーキテクチャ |
逐次処理に最適化 |
並列処理に最適化 |
行列演算に特化 |
|
AI処理速度 |
低速 |
高速 |
非常に高速 |
|
電力効率 |
低い |
普通 |
非常に高い |
現在、AI開発の環境ではNVIDIA社のGPUを使用することが標準的ですが、今後機械学習に特化したTPUがどれだけ普及していくかが注目されています。
TPUが適している作業

ここからは、TPUが適している作業とは何かをご説明します。
大規模モデルのトレーニング
大規模言語モデルのトレーニングなどにおいては、膨大な計算処理が必要とされます。TPUはこのような膨大な計算処理の時間を大幅に短縮することが可能なため、モデル開発の時間短縮につながります。
大規模言語モデルについてはこちらもご覧ください。
>>LLM(大規模言語モデル)とは?文章を作成する仕組みや種類について解説のページへ
リアルタイムの推論処理
リアルタイムの検索、翻訳などにおける推論処理を行う際には、すばやいレスポンスが求められます。TPUは効率的な推論処理が可能なため、リアルタイム検索や翻訳などのレスポンス時間を短縮することが可能になり、ユーザーの利便性が向上するでしょう。
自然言語処理
文章理解、要約、翻訳、感情分析などに必要な自然言語処理には、複雑な言語モデルが必要とされます。TPUは複雑な言語モデルの処理を効率的に行い、かつ高精度の処理が可能です。
自然言語処理についてはこちらもご覧ください。
>>自然言語処理(NLP)とは?仕組みやできること、活用事例、課題について解説のページへ
医療分野での活用
医療分野でも、TPUが活用された研究・実装例が一定数存在しており、診断精度の向上などの面で今後の活躍が期待されています。
TPUの利用方法
ここではTPUの利用方法、料金形態についてご説明します。
クラウド上での利用
TPUは、GoogleのCloud TPUで利用できます。以下の手順を行うことで、TPUを利用できるようになります。
1.Google Cloudアカウントを設定する
2.Cloud TPU APIを有効にする
3.Cloud TPUにCloud Storageバケットへのアクセスを許可する
詳細な利用手順については、Google Cloudの公式サイトをご参照ください。
料金形態
Cloud TPUの2025年10月時点での料金の目安は以下のとおりです。TPUのバージョンによって料金が異なります。
|
バージョン |
評価価格 |
1年間のコミットメント |
3年間のコミットメント |
|
Trillium |
$2.7000 |
$1.8900 |
$1.2200 |
|
Cloud TPU v5p |
$4.2000 |
$2.9400 |
$1.8900 |
|
Cloud TPU v5e |
$1.2000 |
$0.8400 |
$0.5400 |
※価格の単位はすべて米ドル
詳細についてはGoogle Cloud公式サイトをご参照ください。
TPUを活用した事例
ここでは、Cloud TPUの活用事例についてご紹介します。
Geminiでの学習
Googleが開発した高性能な大規模言語モデル(LLM)であるGeminiの開発や学習には、TPUが用いられています。Geminiのような大規模言語モデルでは膨大なデータの学習が必要ですが、その際にTPUの高い計算能力や推論能力が真価を発揮します。Googleは最新のTPUを数千台規模で使用しており、効率的な学習を実現させています。
Gemini2.0モデルはTrillium (TPU v6)チップ上で学習と推論が行われています。また、2025年発表の最新のIronwood(TPU v7)は、Gemini 2.5系の高度推論にも適合しています。
広告ターゲティングでの活用
広告ターゲッティングの分野でも、TPUが使われています。
ストリーミング動画広告に特化したアメリカの広告技術企業Madhiveは、Google CloudパートナーのIT企業SADAと提携し、広告ターゲッティング分野でGoogle Cloud TPUを活用しています。Google Cloud TPUの活用により機械学習インフラを最適化し、Madhiveのプラットフォームは地域密着型の広告主に大きく貢献しました。
レコメンデーションモデルへの実装
Google Playストアのアプリレコメンデーション、YouTubeの動画レコメンデーションなど、さまざまなアプリのレコメンデーションシステムでTPUが採用されています。
また、GoogleのTPU埋め込みAPIを活用することで、大規模なデータをもつモデルのレコメンデーションシステムのトレーニングを高速化できます。これにより、レコメンデーションシステムを効率良く構築可能です。
まとめ
TPU(Tensor Processing Unit)とは、Googleが開発した機械学習に特化したプロセッサです。TPUは従来のCPUやGPUに比べると、機械学習に必要な行列演算やテンソル演算などを高速に効率よく実行可能です。TPUの登場により、AIモデルの学習や推論処理などにかかる時間とエネルギー消費を大幅に削減できるようになりました。
TPUの開発は活発に行われており、2025年の後半には最新バージョンの「Ironwood」がGoogle Cloudで提供予定です。AI開発や機械学習、ディープラーニングの分野ではGPUの利用が一般的ですが、機械学習に特化したTPUの性能にも期待が高まっています。
監修
林 栄一
組織活性化や人材開発において豊富な経験を持つ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築し、現在新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当している。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。勉強会やカンファレンス、最近では生成AI関連のイベントに多数登壇している。チームワークの価値を重んじ、社会にチームでの喜びを広める使命をもつ。
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