Introduction
近年の生成AI技術の進化には目覚ましいものがありますが、そのなかでも注目を集めているのがVAE(変分オートエンコーダー)という技術です。
VAEとは、人工知能が「新しいデータを生み出す」ために使われる生成モデルの一種です。主に深層学習(ディープラーニング)の分野で活用され、画像・音声・文章など、さまざまなデータをもとに「本物に近い新しいデータ」を生み出す技術として注目されています。
この記事では、VAEとはどのような技術なのか、その仕組みや特徴、ユースケースなどについて解説します。
目次
VAE(変分オートエンコーダー)とは

VAE(Variational Autoencoder:変分オートエンコーダー)とは、具体的にどのような技術なのかを解説します。
深層学習で使用される生成モデルであり、データの潜在的な構造を学習し新しいデータを生成する技術
VAEとは生成モデルの一種で、データを圧縮して特徴を学習することで新しいデータを生成するAI技術です。生成モデルとは、大量のデータからその背後にある「共通パターン」や「ルール」を学習し、それをもとに新しいデータを生み出すAIのことです。
VAEはデータを圧縮して特徴を抽出し、その特徴をもとにデータを復元することで新しいデータを生成します。データを圧縮する際に確率分布を用いることで、単なるデータの復元ではなく、新しいデータを生成することが可能です。
たとえば1万枚の製品画像を学習させると、VAEは「形の特徴」「色の分布」「傷が出やすい位置」など、人が言葉で説明しにくい細かな特徴まで自動で学習します。そして、その学習結果をもとに、「新しい製品の画像」をつくり出すことができるのです。
このときVAEが学習しているのは、データの「潜在的な構造(潜在変数)」です。これは、人の目には直接見えないものの、データの本質を決めている要素のことです。
VAEはこの潜在構造を数学的に整理し自由に操作できる形に変換できるため、以下のようなことを得意としています。
・異常データの発見
・欠損データの補完
・シミュレーション用データの生成
オートエンコーダーとの違い
VAEを理解するためには、「オートエンコーダー(Autoencoder)」との違いを知ることが重要です。
オートエンコーダーとは、入力データを圧縮し、そこから元のデータを復元するAI技術です。データの圧縮、ノイズ除去、特徴の抽出などを実現できます。
一方、VAEはこのオートエンコーダーを発展させた技術で、「復元する」だけでなく「新しく生成する」ことができる点が大きな違いです。
通常のオートエンコーダーは、入力データをそのまま再現することが得意ですが、新しいデータをつくるのは苦手です。これに対してVAEは、データを「確率分布」として扱い、あいまいさを持たせながら学習します。その結果、現実世界に自然に存在しそうな新しいデータを連続的に生成できるようになります。
VAEを構成する基本の仕組み
VAEは一見するとむずかしそうな数式の世界の技術ですが、仕組み自体は「情報を圧縮して、そこから再び生成する」という非常にシンプルな考え方に基づいています。
VAEの基本構造は以下のとおりです。
- エンコーダーによる潜在空間へのデータの圧縮
- ランダムサンプリング
- デコーダーによるデータの復元
- 損失関数による最適化
ここでは、VAEで行われているプロセスの流れについて解説します。
①エンコーダーによる潜在空間へのデータの圧縮
エンコーダーは、実際のデータを潜在空間へ変換する役割をもっています。画像・音声・文章などの複雑なデータはそのままでは扱いにくいため、VAEではまずエンコーダーによって情報を圧縮します。
ただし、VAEのエンコーダーの圧縮は通常の圧縮とは少し異なります。単に1つのベクトル値(固定長のベクトル)に変換するのではなく、「このあたりにありそうだ」という「確率分布(平均とばらつき)」として表現します。
これにより、以下のようなことが可能になります。
・同じようなデータでも微妙に違う表現を許容できる
・データの「あいまいさ」をうまく保持する
また、VAEの中核となる考え方が「潜在空間」です。これは、実際のデータの特徴をより単純な数値の世界に写しとった空間のことです。
わかりやすく「人の顔写真」を例にして考えてみましょう。人の顔には、目の大きさ、輪郭、鼻の高さ、口の形など多くの要素があります。VAEはこれらをそのまま扱うのではなく、「顔の特徴を表す数値の組み合わせ」として整理し直します。これが潜在空間です。
この潜在空間の優れた点は、
・似たデータ同士が近くに集まる
・少し数値をずらすだけで特徴が少し変わる
という性質を持つことです。
その結果、「少し若くした顔」「太った顔」などを好きなようにデータを調整して生成できます。これが、VAEが単なる復元AIではなく、「創造できるAI」と呼ばれる理由です。
②ランダムサンプリング
VAEが「新しいデータを生み出せる」最大のポイントが、ランダムサンプリングという仕組みです。
エンコーダーは、潜在空間上の「ここにデータがありそうだ」という範囲(確率分布)を出力します。その中から、毎回少しずつ異なる場所をランダムに選び出す処理がランダムサンプリングです。
この仕組みによって、以下のような効果を得られます。
・同じデータからでも毎回少しずつ違う結果が生まれる
・まったく同じコピーではなく、自然なバリエーションがつくれる
その結果、「実データに限らず、無限に近いパターンの疑似データを安全につくれる」という非常に大きな強みにつながります。
③デコーダーによるデータの復元
次に、デコーダーが潜在空間の数値を再び元のデータの形に戻します。
たとえば、画像データなら「新しい画像」、音声なら「新しい音」、文章なら「新しい文章」として、実際に人が扱いやすい形に戻してくれます。
このとき、VAEのデコーダーは「なるべく元データに近づける」ように学習されています。これにより、ランダムでありながらも、違和感の少ない自然なデータの生成が可能になります。
④損失関数による最適化
VAEの学習では、主に次の2つを同時に最適化しています。
・再構成誤差:元データをどれだけ正確に再現できたか
・正則化:潜在空間がきれいな確率分布になっているか
これにより、生成されるデータの精度の向上につながります。
VAEの特徴とメリット

VAEは数ある生成AI技術の中でも、「実務で扱いやすく、安定して使える」という点が大きな特徴です。ここでは、VAEの代表的なメリットを4つご説明します。
新しいデータ生成が容易
VAEの最大の強みは、学習したデータの特徴をもとに自然な新しいデータを簡単につくり出せる点です。
たとえば製造業であれば、以下のようなものをVAEで人工的に大量生成できます。
・実際にはまだ発生していない不良パターン
・検証用の製品外観データ
これにより、以下のような効果が期待できます。
・テストデータ不足の解消
・品質検証の精度向上
・検査AIの学習効率アップ
また、画像・音声・文章など幅広いデータ形式に対応できるため、
・商品デザイン案の自動生成
・広告用素材の生成
・FAQ文章のバリエーション作成
など、マーケティングやコンテンツ制作の分野でも活用しやすいです。
VAEは、「データが足りないからAIが使えない」という制約を取り除いてくれる技術といえるでしょう。
欠損データの補完に強い
VAEは、データの一部が欠けていても、全体の特徴から自然に補完できるという強みももっています。
現実の業務データでは、たとえばセンサーの不具合、入力ミス、通信トラブルなどにより、どうしてもデータの欠損が発生します。このような不完全なデータが多いと、通常のAIでは精度が大きく低下してしまいます。
しかしVAEは、「このデータなら、本来はこのような値になるはず」という確率的な推測ができるため、欠損部分を自然な形で補完できます。
これは医療画像やセンサーデータなど、欠損が起こりやすいデータを扱う業界にとって非常に大きなメリットとなります。データ品質を保ちながらAI活用を継続できる点は、VAEならではの強みです。
学習が比較的安定しやすい
生成AIの代表例として「GAN(敵対的生成ネットワーク)」がありますが、GANは「学習が不安定になりやすい」、「調整が難しい」という課題があります。
一方、VAEは「確率にもとづいた理論設計」、「学習目標が明確」という特徴により、比較的安定して学習を進めやすいという利点があります。
そのため、経営視点で見ると以下のような実務的なメリットにつながります。
・PoC(実証実験)がやりやすい
・開発が長期化しにくい
・外注・内製どちらでも扱いやすい
このように、VAEは学習のしやすさにより実際の業務システムに組み込みやすい点が大きなメリットといえるでしょう。
GAN(敵対的生成ネットワーク)やPoCについてはこちらもご覧ください。
>>GAN(敵対的生成ネットワーク)とは?その仕組みから活用事例、課題までを解説のページへ
>>PoCとは?意味や検証内容、実施するメリット・デメリットを解説のページへ
潜在表現の可視化・クラスタリングに有用
VAEが持つ「潜在空間」は、データの特徴を整理・可視化する際にも役立ちます。
たとえば、顧客データをVAEで分析すると、
・似た購買傾向の顧客同士が近い位置に集まる
・異常な動きをする顧客が遠くに現れる
といった形で、データ全体の構造を「見える化」できます。その結果、いままで気づかなかった顧客層の開拓などにつなげることも可能です。
このように、VAEは単なる「生成AI」にとどまらず、「経営判断を支えるデータ可視化・分析ツール」としても使うことが可能です。
VAEの課題と注意点
VAEは非常に実用性の高い生成AI技術ですが、万能な技術ではなく、導入・運用にあたって理解しておくべき課題や注意点も存在します。ここでは、企業でVAEを活用する際に押さえておくべき代表的な4つのポイントについて解説します。
学習に一定の計算リソースが必要
VAEは深層学習モデルであるため、学習の際に一定以上の計算リソースが必要になります。
具体的には、次のような環境が求められます。
・高性能なGPUを搭載したサーバー
・クラウド上のAI学習環境
・大容量のメモリやストレージ
特に画像や動画データを学習させる場合は、学習に数時間〜数日かかるケースも珍しくありません。そのため、
・初期導入コスト
・クラウド利用料
・外部委託時の開発費用
といった一定の投資が必要になる点は、事前に想定しておく必要があるでしょう。
▽あわせて読みたい▽
>>ディープラーニングとは?機械学習との違いやできること、活用事例を解説のページへ
>>TPUとは?CPUやGPUとの違いや適している作業などを解説のページへ
生成される画像がボケやすい
VAEで画像生成を行った場合、画像が少しボケやすいという特性があります。
これは、VAEが
・確率分布に基づいて平均的な画像を生成する
・なめらかなデータ分布を重視する
という設計になっているためです。その結果、
・輪郭がやや曖昧になる
・細かいディテールが弱くなる
といった傾向が出やすくなります。このため、広告ビジュアル、高精細な商品画像、エンタメ向けのリアルなCGなど、見た目の美しさを最重要視する用途には、VAE単体では不向きなケースもあります。
ハイパーパラメータ調整の難易度が高い
VAEの学習では、多くのハイパーパラメータ(学習設定値)を調整する必要があります。
これらの設定が適切でないと、
・学習が進まない
・生成結果が不自然になる
・重要な特徴を学習できない
といった問題が発生します。つまりVAEは、実用レベルで活用するためには一定の専門知識と経験が必要な技術でもあるのです。
そのため、VAEを導入する際には、
・社内にAI人材がいるか
・外部パートナーと連携するか
・内製か外注か
などを十分に検討しておくことが重要です。
VAEの代表的なユースケース
VAEは「データを生成できる」「欠損を補完できる」「特徴を抽出できる」という特性から、すでに多くの業界・業務で実用化が進んでいる技術です。ここでは、ビジネスにおける代表的なユースケースをご紹介します。
異常検知(製造業・インフラなど)
製造業やインフラなどの分野において、VAEが特に注目されているのが異常検知への活用です。
VAEは、「正常なデータのパターン」を学習するのが非常に得意なため、
・いつもと違う挙動
・通常とは異なる数値
などが入力されると高精度で異常検出できます。(ただし、個人情報、機密情報を含むデータの匿名化は必要になります)
たとえば製造業では、
・設備の振動データ
・温度や圧力の推移
・外観検査用の画像
などを学習させることで、不良の兆候や設備の故障予兆を早期に発見することが可能になります。これは、
・突発的なライン停止の防止
・保守点検コストの削減
・製品不良の未然防止
につながり、経営リスクの低減と収益の安定化に直結する活用例といえます。
画像のノイズ除去・欠損補完
VAEは、画像の一部が欠けていたり、ノイズが混ざっていたりしても、自然な形で補完・修復できるという特性を持っています。たとえば、
・古い書類のスキャン画像
・監視カメラの荒れた映像
・医療用レントゲン・CT画像
などに対して、見えにくい部分を補い、判別しやすくする処理が可能です。特に医療や品質検査の分野では、
・見落とし防止
・診断や検査の精度向上
といった重要な役割を担っています。不完全なデータでも活用できるため、データの品質にばらつきがある現場ではよりVAEの導入効果を実感しやすいでしょう。
画像・音声・文章の生成
VAEは、以下のようなコンテンツ生成分野でも活用されています。
・商品デザイン案の自動生成
・キャラクター画像の生成
・音声の合成
・文章データの自動生成
たとえばマーケティング分野では、
・広告用の画像バリエーションを大量に作成
・SNS投稿の文案を複数パターン生成
などの使い方が可能です。これにより、
・制作コストの削減
・スピードの向上
・人手不足への対応
などの効果が見込めます。これにより、人がゼロからつくるのではなく、「AIがたくさん案を出し、人が選び、仕上げる」という形に仕事を変えていくことが可能です。
特徴抽出・データ圧縮
VAEは、大量のデータを少ない情報に圧縮しつつ、重要な特徴だけを残すことも得意です。この特性は、以下のような場面で活躍します。
・顧客データの分析
・センサーデータの分析
・売上データの傾向把握
膨大なデータをそのまま扱うのではなく、AIが要点だけを整理したデータに変換することで、
・分析の高速化
・システム負荷の軽減
・経営判断のスピード向上
につながります。
VAEの将来性
VAEはすでに多くの分野で活用されていますが、今後さらに進化し、より実用性が高まると期待されている技術でもあります。特に注目されているのが、「VAE-GAN」と呼ばれる技術です。これは、
・安定して学習できるVAE
・高精細な画像を生成できるGAN
という両者の長所を組み合わせたハイブリッド型の生成AIです。
VAE単体では、「画像が少しボケやすい」という弱点がありましたが、VAE-GANではこの課題が大きく改善され、よりリアルな画像生成、より高品質なデータ合成が可能になっています。今後は、
・製造業における設計データの自動生成
・医療分野における高精度な疑似画像生成
・メタバース・Web3領域でのアバター生成
などの領域への応用が加速していくと考えられます。経営の視点で見れば、VAEは「今すぐ活用でき、かつ将来の競争力にも直結するAI技術」として、中長期的なデジタル戦略の中に組み込む価値が十分にある技術といえるでしょう。
まとめ
VAE(変分オートエンコーダー)は、深層学習を活用した「生成AI」の中核技術の一つであり、これまでのAIとは一線を画す「新しいデータを生み出す力」を持った技術です。
従来のAIが「識別」「予測」「分類」を主な役割としていたのに対し、VAEは「創り出す」「補完する」「構造を見える化する」という、より高度で実務に直結した価値を提供します。
VAEは、「製造業やインフラにおける異常検知」、「画像・音声・文章の生成」、「ノイズ除去や欠損補完」、「特徴抽出やデータ圧縮」などを得意としており、すでに研究や一部の実運用で活用例が出てきています。さらに今後は、VAE-GANのようなハイブリッド技術の進化により、より高品質・高精度な生成AIへと発展していく可能性が高いと考えられています。
生成AIの活用が企業競争力を左右する時代において、VAEは「今すぐ実務で使える技術」であると同時に、「将来のデジタル戦略を支える中核技術」としても、極めて重要な存在になっていくでしょう。
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監修
株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
林 栄一
組織活性化や人材開発において豊富な経験を持つ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築し、現在新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当している。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。勉強会やカンファレンス、最近では生成AI関連のイベントに多数登壇している。チームワークの価値を重んじ、社会にチームでの喜びを広める使命をもつ。
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
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