BPRとは?
BPRとは「Business Process Re-engineering」の略で、業務改革のことを意味しています。
ここでは、BPRについて、ほかの概念との違いや注目されている背景などを解説します。
既存の組織・制度・業務などをプロセスの視点で見直すこと
BPR
「BPR」とは、業務本来の目的に向かって既存の組織や制度を抜本的に見直したうえで、現在の職務、業務フロー、管理機構、情報システム等をプロセスの視点で再設計することをいう。
上記のとおり、BPRとは、目的に向かって業務を仕組みから変えていくことです。既存の仕組みに問題や不備があることを確認し、長期的な視野に立って、組織のあり方や業務の進め方などを見直していきます。そのなかで、不要な業務を廃止する、一部の業務を丸ごとアウトソーシングするなどの業務改革を行うのです。
BPRを進める際には、組織を横断したプロジェクトチームをつくることもあります。既存の組織の考え方にとらわれずに、業務フローや業務システムなどを改善していくことで、大きな成果を得られるでしょう。
BPOとの違い
BPOとは「Business Process Outsourcing」の略で、業務の企画や設計から実行までを一括して、外部の企業に委託することを指します。業務内容や業務の進め方などについて、細かく指示を出すのではなく、業務内容をそのまま委託するという特徴があります。作業の進め方や作業結果の分析なども含めて、丸ごと外部委託するのがBPOです。
BPOは、BPRを進めていく際のひとつの方法として選ばれる場合があります。BPRを行い、業務プロセスや業務の必要性を見直す際に、業務全体を丸ごと外部に委託するBPOの手法を用いるなどです。
つまり、BPOはBPRのひとつの手段であるといえます。
BPRが注目されている背景
BPRの概念が生まれたのは1990年で、米国のマサチューセッツ工科大学教授マイケル・ハマー博士が提唱しました。1993年に出版された著書により世界中に広まり、日本でも紹介されています。そのあとは、バブル崩壊で不景気に苦しむ企業の経営再建の手法として注目されましたが、当時社会現象となったリストラなど、悪い面も出てしまう結果となりました。
しかし、近年の生産年齢人口減少にともなう人手不足や働き方改革推進、DXの推進などにより、BPRの概念が再注目されはじめました。深刻な人手不足の解消、働き方改革やDXの推進を実現するには、既存の業務プロセスでは対応しきれなくなっています。そのため、あらためてBPRの取り組みが必要とされているのです。
BPRのメリット
BPRを推進することは簡単ではありませんが、業務改革を行うことで得られるメリットもあります。ここでは、BPRを推進するメリットについて解説します。
企業全体の業務を可視化・最適化できる
業務プロセスを見直すためには、全体の業務を可視化する必要があります。可視化することで、無駄な業務や見直すべき作業などを発見できます。そのあと、業務フローを見直して再構築することで、業務全体を最適化することが可能です。
このように、BPRを行うことで業務の可視化、最適化が進み、生産性の向上やコストカットなどにつながります。
意思決定のスピードがあがる
BPRの推進により、業務の最適化が行われることで、業務の効率化が進みます。業務が効率化されると生産性が向上し、意思決定のスピードがあがっていくことも期待できます。
社内コミュニケーションが活性化される
BPRを進めていくなかで、組織や部署を超えた話しあいが行われることにより、社内のコミュニケーションが活性化される可能性もあります。組織や部署の壁にとらわれず、従業員同士が同じ目的に向けて、仕事を進められるようになるでしょう。
顧客満足度・従業員満足度が向上する
業務の効率化が進むことで、顧客から受けられる注文数が増える、サービスの質が向上するなどの効果も期待できます。その結果、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
また、無駄な業務や効率の悪い業務の見直し、不要なルールの排除などを行うことで、従業員の満足度の向上にもつながります。
コスト削減につながる
BPRの推進により業務の効率化が行われれば、コストの削減にもつながります。人件費やシステムの運用管理コストなどを削減できる可能性もあるでしょう。
BPRのデメリット
BPRを推進して業務改革が成功すれば、大きなメリットを得られる一方、その際に多大な手間やコストがかかるなどのデメリットもあります。ここでは、BPRを進める際に知っておくべきデメリットについて、解説します。
多大な手間・コストがかかる
BPRを進めるためには、多大な手間やコストがかかります。
全社的な業務改革を進めるために、プロジェクトチームを立ち上げ、業務全体を可視化して業務フローの見直し、必要に応じてシステムの改修や導入などを行います。このような大規模なプロジェクトを実行するためには、人件費やシステム改修費用などのコストが必要です。
従業員から不満が出る可能性がある
BPRを行うことで、業務や組織が大幅に変更されることがあります。その結果、従来の業務フローや業務システムに慣れている従業員から、大幅な見直しや変更を行うことに不満が起こる可能性も考えられます。そのため、BPRを進める際には、BPRの目的や重要性などを全社的に共有して、従業員からの理解を得ることが重要です。
BPRの具体的な手法
BPRを進めるための具体的な手法について、いくつかご紹介します。
業務仕分け
まずは既存の業務を可視化し、それぞれの業務の重要性を見極める必要があります。そのためには、業務の流れ、各部署との連携、業務内容などを洗い出し、業務に関する情報を得ます。その情報をもとに、優先順位をつけて仕わけしていくという流れです。
アウトソーシング(BPO)
『BPOとの違い』でご説明したとおり、BPOとは業務の企画や設計から実行までを一括して、外部の企業に委託することを指します。上記の業務仕わけで、優先順位が低かった業務を丸ごとアウトソーシングするという方法も検討します。
アウトソーシングされることが多い業務は、経理・財務、総務、情報システム、物流などです。しかし、近年は、人材育成部門やマーケティング部門などをアウトソーシングするケースも増えています。
ERP
ERPとは「Enterprise Resources Planning」の略です。経営に関する基本要素である、人・モノ・金を適切に配分して、有効活用するための考え方や情報システムを指します。ERPシステムは「統合基幹業務システム」と呼ばれ、導入すると、組織間、部署間で個別に保持していたデータやシステムを一元管理できるようになります。
ERPシステムを導入することで、業務の無駄が解消されることが期待できます。
ERPについてはこちらもご覧ください。
>>ERPとは?基幹システムの違いやメリット・デメリット、導入方法を解説のページへ
シェアードサービス
複数のグループ企業を抱える企業の場合、それぞれのグループ企業に経理・財務、人事・総務、物流などの部門が存在し、個別に情報システムを保有している場合もあるでしょう。これらの間接部門を一ヶ所に集約することで、コスト削減や業務効率の向上をはかる手法が、シェアードサービスです。
シックスシグマ
シックスシグマとは、統計学を活用して不良品率を下げて、顧客満足度を向上させるための品質管理フレームワークです。統計学に登場する標準偏差のシグマから、その名前がついています。
この手法を活用して、各業務プロセスで発生している品質のばらつきを分析し、全体の品質を保持する活動を行います。とくに、製造部門やサービス部門、営業部門などで、効果を発揮しやすいでしょう。
BPRの進め方
BPRを進める際の流れは、以下のとおりです。
1.検討
BPRを行う目的や目標を定め、対象となる業務範囲を決めます。
2.現状把握と課題の分析
業務に関する情報を収集して現状を把握し、課題を分析します。
3.ビジネスプロセスの設計
洗い出された課題から業務改革の方針を決め、ビジネスプロセスを設計します。また、設計を実現する方法を検討します。
4.実施
社内で認識を共有しながら、業務の再構築や変更作業を行います。
5.評価
実施後の状況をモニタリングし、効果の測定、問題点の把握などを行い、目標の達成度を評価します。問題があった場合には、対策を立てて改善を行います。
BPRを成功させるためのポイント
BPRを成功させるためには、いくつかのポイントをおさえておく必要があります。ここでは、そのポイントについて解説します。
ゼロから見直す必要がある
BPRを成功させるためには、いままでのやり方や考え方にとらわれることなく、ゼロからの見直しを行う必要があります。小さな改善を行うだけでなく、ときには業務の廃止なども含めて、抜本的に行うことが求められる場合もあるでしょう。
現状を把握して問題点を特定する
問題点を特定せずに業務改革を行っても、改革が成功することはありません。まずは、現状の業務に関する情報を集めて、現状を把握することが重要です。業務フローや作業タスクを洗い出し、担当者のスキルや状況なども把握して、真の問題点は何かを特定します。自社が抱えている問題点を把握できれば、対策を立てることが可能です。
対策を講じるためには経験やノウハウが必要
問題点を特定できたら、問題解決のための対策を講じる必要があります。しかし、問題解決できる対策を講じて実施するためには、豊富な経験やノウハウが求められます。
たとえば、ITシステムの導入やDXの推進などには、ITシステムや新しい技術に精通した人材が必要です。また、過去にBPRを推進した経験があり、実際に業務改革を成功させたノウハウがある人物が対応することが望ましいでしょう。そのような人材がおらず、ノウハウもない場合、BPRを成功させることはむずかしいかもしれません。
対象業務を的確に選定する
BPRを進める際に、対象業務を選定することは重要です。的確に業務を選ぶことで、BPRを成功させやすくなります。
BPRを進めやすい業務は、以下のとおりです。
・総務、人事、経理、受付などのバックオフィス業務
・コールセンター、ヘルプデスク業務
・システム運用やWebサイトの制作などIT系の業務
・マーケティング業務
・コンサルティング業務
従業員の理解を得る
全社的な業務改革を進めていくためには、その業務に関わる従業員の理解を得る必要があります。業務の進め方が大幅に変更になる、業務そのものがなくなり、ほかの業務を担当することになるなど、従業員への影響は決して小さくありません。そのため、BPRを進める目的や重要性、メリットなどを従業員に説明し、理解を得る必要があります。
まとめ
この記事では、BPRとは何か、メリット・デメリット、具体的な手法、進め方、成功させるためのポイントについて解説しました。
BPRとは、ビジネスプロセスの観点から、組織の構造、業務フロー、業務システムなどを見直して、業務を改革することを指します。単に業務を個々に改善するのではなく、全社的に業務フローの見直しを行うことで、業務の効率化や生産性の向上を目指します。一方で、BPRを進めるためには、業務を抜本的に見直せる人材や、DXを推進できるIT人材などが必要です。
BPRの推進は簡単なことではありませんが、成功すれば大きな効果を得られるでしょう。
監修
株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
永井 敏隆
大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。
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