Introduction
企業がシステムの開発をシステム開発会社に依頼する際には、自社にあった開発会社を選ぶことがとても大事です。プロジェクトによっては開発が長期にわたることもあり、発注先の選択を間違ってしまうと、初期の構想から大きな乖離が出てしまうこともあります。「柔軟性がなく、妥協があるプロダクトになってしまった」「最初から自社で開発したほうがよかった」などということが起こらないように、自社にあったシステム開発会社を慎重に選びたいところです。
システム開発会社を選ぶ際には、どのような点に気をつければよいのでしょうか?今回は、システム開発会社に発注するメリット・デメリットや選び方、選ぶ前にやっておきたいこと、依頼の流れなどについて詳しく解説します。
目次
システム開発会社の役割と発注するメリット・デメリット

選び方についてご説明する前に、システム開発会社がどのような役割を持っているかをご説明します。そのうえで、システム開発会社に発注するメリットとデメリットについて解説します。
システム開発会社に依頼するとどのようなメリットがあるのか、逆にデメリットは何かを知ることで、自社にあった依頼先が明確になるでしょう。
システム開発についてはこちらもご覧ください。
>>システム開発とは?工程や手法、依頼時のポイントまでわかりやすく解説のページへ
システム開発会社が持つ役割
システム開発会社といっても、「システムを開発する」だけが役割ではありません。以下は役割の一例ですが、企業のニーズを分析するコンサルティングやシステムの保守などの役割を持っていることがわかります。
・コンサルティング
企業のニーズを吸い上げ分析し、課題整理から要件定義までを行う。事業目標・KPI・制約条件を踏まえてIT戦略と上位設計を策定し、その結果として「何を作るか(要件)」を明確化する。
・システム開発
コンサルティングで定義された要件を設計し、実装して検証する。要件を適切にプロダクトに落とし込むために、必要に応じてコンサルティングやクライアントと連携をとる。
・システム保守・運用
システムの保守、運用を行い安定的な稼働をサポートする。
・技術サポート
システム開発に必要な専門知識や人材が足りない企業に、ノウハウや人材を提供する。
システム開発会社に発注するメリット
システム開発会社に開発を発注することで、以下のようなメリットを得られます。
・自社にノウハウがなくても開発できる
自社にシステム開発のノウハウがなくても、開発ノウハウと実績をもつシステム開発会社に依頼すれば高品質なシステムを構築できます。企業内でIT人材や技術が不足している場合には、大きなメリットといえるでしょう。
・運用サポートを受けられる
システムを開発した後にも、安定的に稼働するための運用・保守フェーズが必要であり、トラブルが発生した際に迅速に対応できる体制も求められます。自社内で運用・保守まで手が回らない場合には、システム開発会社に依頼することで安定的な運用ができます。
・会社によっては柔軟な対応が可能
システム開発会社によっては、ニーズに応じて柔軟に対応してもらえる可能性もあります。たとえば、独自の業務プロセスにマッチしたシステムにカスタマイズする、独自のデータ形式に対応するなどです。自社にあったシステムを開発することで、業務効率や生産性の向上につながります。
システム開発会社に発注するデメリット
システム開発会社に発注する場合のデメリットにも注意が必要です。ここでは、発注する際のデメリットについて解説します。
・コミュニケーションに工数が発生する
自社が抱える課題やニーズ、環境の制限など、多くのことを開発会社に伝える必要があります。開発会社と密にコミュニケーションをとらず丸投げしてしまうと、求める機能が実装されていなかった、課題を解決できていない、使い勝手が悪いなどの問題が起きる可能性があります。
そのため、プロジェクトの進行中は頻繁に開発会社と連絡をとったりミーティングしたりする必要があり、コミュニケーションのために工数が発生します。
・社内にノウハウが蓄積しにくい
開発会社に開発や運用などを任せてしまうことで、社内にノウハウが蓄積しにくいという問題もあります。自社でシステムを管理できないと、システムの改善やトラブル対応ができなくなる可能性もあります。そのため、設計書やマニュアルなどを整備し、システムに関する技術やノウハウを社内に残すなどの対策が必要です。
・想定よりもコストがかさむ場合がある
事前の想定よりもコストがかさんでしまい、社内でシステムの開発や運用を行うよりも費用がかかってしまった、というケースもあります。さまざまな要因により技術者の人件費などが当初の計画よりもかさんでしまい、コストが大きく膨らむことも考えられます。また、運用サポートを継続的に受ける場合には、長期的なコストについても考慮が必要です。
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システム開発会社を選ぶ前にやるべき準備
システム開発会社を選定する前に、自社内で準備しておくべきことについて解説します。
目的と課題を明確にする
まずは、システム開発の目的、社内で抱える課題を明確にします。
たとえば、業務の効率化が目的だった場合、どの業務をどれくらい効率化したいのか、〇〇業務の作業時間〇%削減、などできるだけ具体的にします。そのためには、業務プロセスを洗い出して問題点を明確にする必要があります。
「業務スピードが上がるシステムが欲しい」などのざっくりした目的ではなく、目的や課題をできるだけ明確にしておくことで、スムーズに開発を依頼できるでしょう。
要件と依頼範囲を整理する
システム要件や依頼する範囲を整理しておくことも重要です。ここがあいまいなままだと、開発範囲が広がりすぎてコストが大きく膨らむ可能性があります。
上記でご説明したとおり目的と課題を明確化することで、ある程度要件や依頼範囲が見えてくるでしょう。
予算と納期の目安を設定する
予算と納期の目安を具体的に設定しておくことも大事です。依頼された開発会社は指定された予算の範囲内でできることを提案してくるので、そこから具体的なすり合わせができます。また、運用開始日が決まっている場合には、そこから逆算して運用準備期間なども考慮した納期を指定する必要があります。
運用・保守も含めた長期視点で考える
システムは開発するだけで終わりではなく、長く使いつづけるために適切な運用・保守を行わなければなりません。そのため、定期メンテナンスやトラブル時の対応などの運用・保守フェーズについても、開発前に計画しておく必要があります。
開発を依頼した開発会社に運用を依頼するのか、自社内で運用する場合にはマニュアル作成などをどうするか、トラブル対応時の取り決めなどについて、あらかじめ検討しておきましょう。必要に応じてアジャイル開発の要素を取り入れるのも効果的です。
システム開発会社を選ぶ上でのチェックポイント
システム開発会社を選定する際に確認しておきたい、重要なチェックポイントについてご説明します。
得意分野・技術領域がマッチしているか
システム開発会社によって得意分野や技術領域は異なります。たとえば業務システム開発、Webサービス開発、スマホアプリ開発などさまざまな種類があり、Web系なのか、AIを活用するのかなどによっても必要な技術は大きく異なります。
そのため、システム開発会社の得意分野や技術領域を比較検討して、依頼する内容にあった会社を選ぶことが重要です。
類似システムの開発実績があるか
過去に類似システムの開発実績がある開発会社を選ぶと、よい提案を受けられる可能性が高まります。
たとえばPOSシステムの開発実績が豊富である、AI技術には定評があるなど過去の類似システムの開発実績を確認して、依頼内容とマッチした会社を探すことをおすすめします。
担当者のコミュニケーション・提案力はあるか
開発会社の担当者のコミュニケーション能力や提案力を確認することも重要です。求めるシステムを開発するためには、開発会社と十分に意見をすり合わせる必要があります。
その際に、担当者がしっかりとヒアリングしてくれるか、自社の事業について理解しているか、提案力があるかなどを見極めることが大事です。
運用・保守体制が整っているか
システムの運用・保守も依頼する場合には、開発会社側に体制が整っているかも確認しましょう。開発が無事終了しても運用・保守についての計画がおろそかだと、システムを安定的に稼働できません。
また、開発後しばらくは改修や設定の微調整が必要な場合もあるため、納品後の体制について取り決めが必要です。
自社開発型か下請け依存型か
依頼するシステム開発会社の開発体制が自社開発か、下請け会社を多く使っているかも確認するとよいでしょう。
下請け会社が開発に参加し複数の会社がかかわっている場合は、システムの品質にばらつきがないか、管理体制は整っているかも大事なチェックポイントになります。
会社の経営基盤と信頼性は十分か
開発会社の経営基盤や信頼性も必ず確認しましょう。
特に、長期的に運用するシステムや決済処理を含むシステム、顧客の個人情報を扱うシステムなどは、システムの運用中にトラブルが発生すると大きな問題に発展します。
経営基盤が整っていない会社に依頼した結果、運用中に開発会社が倒産してしまう、ということもないとはいい切れません。また、継続的な改善を前提とするアジャイル開発の場合も、途中で開発会社が離脱するとさまざまなトラブルに繋がるでしょう。過去に類似のシステム開発・運用を手がけた実績があり、経営基盤が整っていて信頼できる会社を選ぶことは非常に重要です。
システム開発会社の選定フローと実際の依頼までのステップ
システム開発会社を選定するところから実際に依頼するまでに何をすべきか、そのステップについて解説します。
①開発の目的と要件を整理する
まずは開発の目的を明確にし、依頼する要件を整理しておくことが重要です。ここで大事なのは、「〇〇システムがほしい」と先に求めるシステムありきで考えるのではなく、自社の課題は何か、何を目的としてシステム開発をしたいのかを明確にすることです。
そのためには、まずは現状の業務フローを洗い出して分析し、どこにどのような問題点があるのかを明確にする必要があります。ある作業に時間がかかりすぎている、ミスが多発している、顧客からのクレームが多いなどの問題点が明確になったら、優先順位をつけてどこを改善するのかを絞り込みます。
問題点が明確になれば、生成AIアプリを使った効率化や、作業ミス削減のための特定業務の自動化、などの具体的な要件が見えてくるでしょう。要件を整理して依頼内容をあらかじめ明確にしておくと、開発会社の選定や依頼をスムーズに進めやすくなります。
②複数社に見積もりを依頼する
要件がある程度まとまったら、その開発内容を得意とする会社、実績のある会社を候補としてあげます。そして、それらの会社に開発の目的や要件を提示して見積もりを依頼します。
複数社を比較することで提案内容の比較や価格の妥当性の判断がしやすくなるため、複数社に見積もりを依頼することをおすすめします。
③提案内容と費用を比較する
複数社の見積もりから提案内容と費用を比較します。その際には、提案内容や価格以外にも、その会社の状態を総合的に比較して判断することが重要です。その会社の技術力やノウハウ、プロジェクト管理能力などは十分か、開発実績はあるか、納品後のサポート体制は整っているか、担当者のコミュニケーション力に問題はないかなども考慮し、自社にあった開発会社を選定しましょう。
④契約条件・スケジュールを確認する
開発を依頼したい会社を絞れたら、詳細な契約条件やスケジュールを確認します。特に、開発中に追加開発や仕様変更が発生した場合の対応については、事前に取り決めておく必要があります。契約条件やスケジュールは書面で確認することが重要です。
⑤開発開始後も定期的にコミュニケーションを取る
開発が開始した後も担当者と定期的にコミュニケーションをとり、進捗状況の確認をしましょう。
問題が発生した場合ははやめに報告してもらうことで、余裕をもって対処ができます。開発作業を任せっきりにしてしまうのではなく、定期的に確認することで開発会社との認識のずれを防ぐことが大事です。
システム開発会社選びの失敗を防ぐための心得

ここからは、システム開発会社を選ぶ際の失敗を防ぐための心得についてご説明します。
費用の安さだけで選ばない
費用はできるだけ安く抑えたいものですが、安さだけで選ぶとシステムの品質に悪影響が出る可能性があり、最悪の場合納期までに納品されないこともあります。費用が安いと将来の拡張性や保守性などを犠牲にして開発するケースも多く、長期的に見るとかえってコストがかさんでしまいます。
そのため、費用だけではなく開発内容や保守性なども確認して総合的に判断するのがよいでしょう。
要件定義があいまいなまま開発を進めない
要件定義はシステム全体が決まる重要な工程です。そのため、要件定義の内容を依頼側がしっかりと確認せず、あいまいなまま開発を進めるのは非常に危険です。
製造が終わってテスト工程などでシステムの仕様に関する認識の違いに気づくと、設計、製造、テストのやり直しが必要となり大きな手戻りになってしまいます。納期の遅れや品質の低下、追加費用の発生にもつながるため、要件定義の内容は必ず依頼側が詳細に確認しましょう。
要件定義についてはこちらもご覧ください。
>>要件定義とは?作成手順や前後の流れをわかりやすく解説!のページへ
丸投げせず担当者とこまめに連携する
開発作業開始後も丸投げはせず、担当者とこまめに連携することが重要です。進捗状況に問題はないかを定期的に確認し、問題が発生した場合ははやめに連絡してもらう体制を整えましょう。担当者との連携を強化しておけば、問題が小さいうちにはやめに対処できます。
契約形態や著作権の扱いを確認する
システム開発を外注する際には、原則としてソースコードなどの著作権は成果物を作成した側に帰属します。そのため、著作権を発注側がもちたい場合は、契約時にその旨を取り決めて契約書に明記する必要があります。
ベンダーロックイン(依存)を防ぐ意識を持つ
ベンダーロックインとは、開発を外注する場合に特定のベンダーの技術や製品に依存しすぎて他社に乗り換えが困難になる状態のことです。
ベンダーロックインを防ぐためには、システムの知識や技術、構造などを知っておく必要があります。設計書やマニュアルなどのドキュメントを整備し、社内で把握しておくことが大事です。
まとめ
この記事では、システム開発会社に発注するメリット・デメリットや選び方、選ぶ前にやっておきたいこと、依頼の流れなどについて詳しく解説しました。
自社にあったシステムを開発するためには、開発会社の選定時にこの記事でご説明したようなポイントをおさえて、複数社に見積もりを依頼することが重要です。開発内容や費用だけではなく、その会社がもつ技術やノウハウ、実績、サポート体制なども総合的に判断して選定しましょう。
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監修
永井 敏隆
大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。
担当講座
・コンポーネントテスト講座
・テスト自動化実践講座
・DevOpsテスト入門講座
・テスト戦略講座
・設計品質ワークショップ
など多数
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
SHIFTが事業運営において培ったノウハウを言語化・体系化し、講座として提供しており、品質に対する意識の向上、さらには実践的な方法論の習得など、講座を通して、お客様の品質課題の解決を支援しています。
https://service.shiftinc.jp/softwaretest/hinshitsu-univ/
https://www.hinshitsu-univ.jp/
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