Introduction
ITシステムやソフトウェアの開発や運用などの業務を外部企業に委託する「ITアウトソーシング」という仕組みは、いまやなくてはならないものです。しかし、安易に外部委託してしまうと品質の低下やプロジェクトの混乱を招くこともあります。そのため、メリットとデメリットを正しく理解して自社にあった形で活用していかなければなりません。
この記事では、ITアウトソーシングとは何か、メリットやデメリット、活用のポイントなどについて解説します。
目次
ITアウトソーシングとは

ITアウトソーシングとは、自社のIT業務を外部の専門企業に委託することを指します。たとえばシステム開発、サーバー運用、保守サポート、ヘルプデスクなど、本来自社で担当するIT関連の業務を、外部パートナーに任せる形です。
近年は企業活動のあらゆる領域でITが欠かせなくなり、IT化すべき業務範囲が急速に広がっています。その一方で、社内のIT人材不足などの理由により、すべてを内製化することがむずかしくなっています。
そこで、専門的な知識やスキルを持つ外部企業を活用し、効率的かつ安定的にIT環境を維持するための手段として、アウトソーシングが選ばれるケースが増えているのです。
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ITアウトソーシングが注目される背景
ITアウトソーシングが急速に注目されている背景には、いくつかの社会的・経営的な理由があります。
まず、日本全体で深刻となっている「IT人材不足」が挙げられます。ITシステムの高度化やクラウド化が進む一方で、専門スキルを持つ人材の採用は年々むずかしくなっています。特に中小企業では、IT専任者を確保すること自体が困難なケースも少なくありません。
企業はデジタル化対応に追われており、業務のオンライン化、データ活用、セキュリティ対策など、ITに関わる領域は以前とは比べ物にならないほど広がっています。しかし、これらすべてを社内だけで対応するのは現実的ではありません。専門企業に委託することで、必要なスキルをすぐに確保できる点は大きな魅力です。
さらに、経営の観点からは「コストの最適化」が理由として挙げられます。ITシステムを内製化するためには、設備投資、人件費、トレーニングコストなど多くの負担が必要になりますが、アウトソーシングを活用すれば必要な範囲だけをサービスとして利用できます。
以上のように、人材不足、業務の複雑化、コストの問題などに対応するため、ITアウトソーシングは経営戦略上の重要な手段として注目を集めているのです。
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主なITアウトソーシングの種類
ITアウトソーシングには複数の形態があり、企業がどの範囲を外部委託するかによって、いくつかに分類されます。ここでは代表的なITアウトソーシングの種類について解説します。
システム運用
運用アウトソーシングとは、サーバー、ネットワーク、クラウドなどの「インフラ運用」を外部に任せる形態です。日々の監視、障害対応、バックアップ管理などの業務を外部に委託できます。
社内のIT人材が不足している企業や24時間体制の運用が必要な企業は、運用の領域を委託するケースが増えています。
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システム開発
システムアウトソーシングは、業務システムやアプリケーションの「構築・開発」業務を外部に委託する形態です。業務フローにあわせたシステム開発、機能の拡張、設計・テストなど、幅広い工程が対象になります。
自社にない開発スキルを必要とする場合や、既存システムのリプレイスを行う場合は、外部の技術力を活用することで大きな効率化が期待できます。
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保守・サポート
保守・サポートは、稼働しているシステムやインフラの維持管理業務を委託するアウトソーシングです。
たとえば、以下のような業務が含まれます。
・サーバーやシステム、アプリなどの不具合対応
・サイバー攻撃などのセキュリティインシデント対応
・セキュリティパッチやアップデートの適用
・定期メンテナンス
・問い合わせ対応、ヘルプデスク業務
特にセキュリティ領域は、高度な知識が必要なうえに最新の脅威につねに対応する必要があるため、多くの企業が外部専門会社のサポートを利用しています。
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フルアウトソーシング
フルアウトソーシングとは、IT部門のほぼ全業務を外部に任せる形態です。IT企画、開発、運用・保守、セキュリティ対応など、IT領域全般を外部パートナーが担います。
特に以下のような企業に採用されやすい方法です。
・IT人材を社内にほとんど確保できない
・デジタル化を加速したい
・コスト構造を見直し、固定費を減らしたい
フルアウトソーシングを採用すると大きな効果が期待できる一方で、長期間にわたってIT部門全体を任せられる委託先を慎重に選ぶ必要があります。
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ITアウトソーシングを活用するメリット

ITアウトソーシングを活用することで、企業はコスト面や組織運営、企業競争力などの面で多くのメリットを得られます。ここではITアウトソーシングを活用するメリットについてご説明します。
コストを抑えられる
ITアウトソーシングの代表的なメリットが、コストを抑えられるということです。削減できるコストには「初期コスト」と「継続コスト」の2種類があります。
・初期コストの削減
ITシステムを内製化する場合、サーバー購入、ネットワーク構築、開発人員の確保など、多額の初期投資が必要です。外部委託を活用すると、これらの設備投資を大幅に抑えられます。
・継続コストの削減
効率化のノウハウを持ったアウトソーシング先を正しく選定することで、設備の維持や運用、スタッフの人件費を抑える提案を受けることができます。また、クラウド活用と組み合わせるとコストの平準化や最適化がより進みます。
コア業務に集中できる
企業にとってもっとも重要な業務は、売上や企業価値の創出に直結するコア業務です。しかし、システム開発、運用、障害対応などのIT業務は多くの時間と労力を必要とするため、コア業務を圧迫しがちです。
そこでITアウトソーシングを活用すると、「システム開発のプロジェクト管理」、「障害時の対応」、「日々の運用監視」、「社内問い合わせ対応」などの負荷を外部に移せます。その結果、社内のリソースを本来取り組むべきコア業務に集中させることが可能です。
専門性の高いスキルをすぐに活用できる
IT分野は技術の進化がはやく、必要とされるスキルも高度化していますが、必要なすべてのスキルを社内で揃えることは困難です。
そこで外部の専門企業を活用すれば、「AI、クラウド、セキュリティなど最新技術の専門家」、「さまざまなシステム構築を経験したプロフェッショナル」、「短期間で戦力となる技術者」などをすぐに確保できます。結果として、新しいシステム開発やデジタル化のスピードを大幅に向上させることができます。
組織の柔軟性が高まる
ITアウトソーシングは、以下のように組織運営の柔軟性を高める点でも有効です。
・必要なときだけ人材を追加できる
・急なプロジェクトにも対応しやすくなる
・社員の配置変更がしやすくなる
・固定的なIT要員を抱えずにすむ
特に景気変動や市場環境の変化が激しい時代において、柔軟に組織を運営できることは競争力の強化につながるでしょう。
ITアウトソーシングのデメリット・注意点
ITアウトソーシングには多くのメリットがありますが、同時に注意すべきリスクやデメリットも存在します。アウトソーシングを成功させるためには、デメリットを正しく理解し適切に管理することが大事です。
ここではITアウトソーシングのデメリット、注意点について解説します。
社内にノウハウが蓄積されない
外部に依存する度合いが高まるほど、社内にITの知識や経験が残りにくくなります。
たとえば、以下のようなことが起こる恐れがあります。
・システムの仕組みや仕様を理解できる社員が育たない
・トラブルが起きた際、外部に頼らざるを得ない
・将来的に内製化したくても困難になる
特に基幹システムなどの会社の根幹を支える領域では、社内に一定の知見やノウハウを保持しておくことが重要です。
初期コストや追加作業に対しての費用は発生する
メリット面でコストを抑えられる旨をご紹介しましたが、導入に際しITアウトソーシング特有の初期コストは発生します。また、突発的な追加作業に対しても適宜費用が発生するため、ITアウトソーシング活用による劇的なコスト削減の実現ができるかどうかはケースバイケースです。
ITアウトソーシングによって本当にコスト削減につながるかどうか、トータルでいくらの削減になるかについて、検討段階で綿密に試算することをおすすめします。
セキュリティリスクが増加する
開発や運用を任せるシステムにもよりますが、アウトソーシングでは委託先と社内の情報を共有します。そのため、以下のようなセキュリティリスクが発生する可能性があります。
・情報漏えいの可能性がある
・委託先で事故やミスが起こる
・第三者が情報扱うことで情報管理が複雑になる
特に、顧客情報や機密データを扱うシステムの場合、委託先のセキュリティ体制や運用ルールを十分に確認しておく必要があるでしょう。
品質管理のコントロールが難しい
システム開発や運用を外部企業に任せる場合、品質は委託先のスキルや体制に依存します。
そのため、以下のような問題が起こりやすくなります。
・期待するレベルの品質が保たれない
・要件や設計の意図が正しく伝わらない
・想定とは異なる成果物になってしまう
このような問題を防ぐためには、要件定義を丁寧に行い、定期的にコミュニケーションを取ることが欠かせません。
進捗管理を丁寧に行う必要があり工数がかかる
アウトソーシングしたからといって、完全に任せきりにするべきではありません。むしろ、進捗管理やコミュニケーションはより重要になります。
たとえば「進捗報告の確認」、「仕様や設計のすり合わせ」、「問題発生時の対処」、「誤解や認識ズレの解消」など、多くの場面で関与していくことが必要です。そうすることで、ミスや不具合などを見逃しにくくなります。
ITアウトソーシングを適切に活用するためのポイント
ITアウトソーシングは、活用方法を誤ると「品質低下」「トラブル増加」「コスト超過」などの問題を引き起こす可能性があります。
ここでは、アウトソーシングを成功させるために押さえておくべき重要なポイントについて解説します。
委託する業務範囲を明確にした上で活用する
まずは、どの業務を委託するのかを明確に定義することが重要です。委託範囲が曖昧なまま進めてしまうと、以下のような問題が発生する可能性が高いためです。
・責任の所在があいまいになる
・トラブル発生時の対応が遅れる
・委託先との認識ズレが生まれる
業務範囲を適切に切り分けて「どこまで外部に任せ、どこを自社で対応するか」を整理しておくことで責任の所在が明確になり、後々のトラブルを防ぐことにつながります。
委託先の実績やスキルを把握する
委託先選びは、アウトソーシング成功の成否を大きく左右する最重要ポイントです。委託先ができることを把握しなければ、希望する成果物を得ることはむずかしいでしょう。
委託先選びの際に確認すべきポイントは以下のとおりです。
・過去の実績(同業界・同規模の経験があるか)
・対応できる技術領域(クラウド、アプリ開発、セキュリティなど)
・会社の体制(担当者数、スキルセット、サポート体制)
・トラブル対応力
これらを把握せずに依頼すると、「実はできない業務が多かった」という場合もあります。そのため、委託先を慎重に比較し、最適なパートナーを選ぶことが大事です。
丸投げせずコミュニケーションを綿密に取る
アウトソーシングで最も多い失敗原因は「丸投げ」です。委託先は専門家ではありますが、依頼側企業の業務や文化を完全に理解しているわけではありません。
そのため、以下のようなコミュニケーションが必要不可欠です。
・定期的なミーティングの実施
・進捗報告の確認
・要件変更の共有
・リスク発生時の迅速な連絡
これらを怠ると、「品質が想定より低い」、「スケジュール遅延が起こる」、「認識違いがそのまま成果物に反映される」などのトラブルにつながります。「任せる部分は任せつつ、必要なコントロールは維持する」という姿勢が、成功の鍵となるでしょう。
まとめ
ITアウトソーシングは、企業がデジタル化を進めるうえで欠かせない選択肢です。社内にはない専門スキルを活用できる、コスト最適化や業務効率化、組織の柔軟性向上といった多くのメリットがあります。
一方で、ノウハウが社内に蓄積されにくい、セキュリティリスクが高まる、品質管理が難しいなどのデメリットも存在します。これらのリスクを十分理解したうえで、委託範囲を明確にする、委託先を慎重に選定する、密なコミュニケーションを取るなど、適切な対応が不可欠です。
ITアウトソーシングを上手に活用することで企業は自社の強みとなるコア業務に集中でき、事業成長のスピードを高めていけるでしょう。
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監修
永井 敏隆
大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。
担当講座
・コンポーネントテスト講座
・テスト自動化実践講座
・DevOpsテスト入門講座
・テスト戦略講座
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など多数
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
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https://service.shiftinc.jp/softwaretest/hinshitsu-univ/
https://www.hinshitsu-univ.jp/
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