Introduction
日々の業務の効率化を目指す企業にとって、業務プロセスの可視化は必須の取り組みといえます。業務プロセスの詳細が見えていなければ、改善などのPDCAサイクルを回すことができません。まずは業務全体を把握して、問題点や改善点を「見える化」していきましょう。
この記事では、業務プロセスの可視化とは何かから、その重要性やメリットなどまで詳しく解説します。
目次
業務プロセスの可視化とは?

企業が日々行っている業務は、複数の部署や担当者が関わり、さまざまな手順や判断を経て進められています。こうした業務の流れを「業務プロセス」と呼びます。しかし、実際の現場ではその全体像を把握できていないケースが多く、「どの工程で時間がかかっているのか」「どこにムダがあるのか」が見えにくくなりがちです。
このような状況を解消するのが「業務プロセスの可視化」です。業務プロセスの可視化とは、業務全体の構造を俯瞰し、価値の流れや、どこでコスト・遅れ・品質低下が発生しているかなどの業務の状態を図やデータによって「見える化」することを指します。これにより、経営層や現場担当者が共通の理解を持ち、業務の課題を明確にできるようになります。
たとえば販売管理の業務プロセスを可視化する場合、受注から納品・請求・入金までの一連の流れ(業務フロー)を、「なぜこの工程で行っているのか」「どの工程を改善すれば顧客満足度が高まるのか」、「どの工程がコスト増や遅延を生んでいるのか」といった視点で分析していきます。これにより単に手順を把握するだけではなく、プロセス全体の価値創出構造を把握・改善することが可能になります。
つまり、業務プロセスの可視化とは現状の整理にとどまらず、「どこを改善すれば企業としての成果につながるか」を発見するための経営・業務改善の基盤となるのです。
業務プロセスと業務フローの違い
業務プロセスと業務フローは混同されやすい言葉ですが、業務プロセスは業務フローよりも広範な概念です。
業務フローとは、ある業務を行う際の手順や流れを図で表したものです。たとえば、請求書の発行手順や、顧客対応の流れなど、比較的細かな業務単位で扱われます。
一方、業務プロセスはより広い概念で、企業活動全体のなかで「その業務がどのように価値を生み出しているか」を俯瞰して捉えるものです。たとえば「顧客満足を高めるための一連の業務プロセス」には、マーケティング・営業・カスタマーサポートなどの複数の業務フローが含まれます。
つまり、業務プロセスは大きな枠組み、業務フローはそのなかの細かな手順という関係といえます。業務プロセスの可視化を行う際には、まずは個々の業務フローを明確にしたうえで全体像を把握することが重要です。
業務プロセスの可視化の目的と重要性
業務プロセスを可視化する最大の目的は「業務改善」です。業務のどこにムダや非効率があるのかを把握し、よりスムーズに、より生産性の高い形に変えていくことを目指します。
可視化によって得られる情報は、システム導入や自動化の検討に欠かせないものです。たとえば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIツールを導入する際も、現状のプロセスが整理されていなければ、どの作業を自動化すべきか判断できません。
また、業務プロセスの可視化は業務改善だけでなく、内部統制の強化やリスク管理の向上にも役立ちます。たとえば、属人化していた業務を見える化することで、担当者が変わってもスムーズに引き継ぎができ、ミスや情報漏れを防止できます。さらに経営層にとっても、現場の実態を正確に把握できる可視化は意思決定の質を高める武器になるでしょう。
「なぜこの業務に時間がかかっているのか」「どこを改善すべきなのか」などを客観的に把握することで、全社的な業務の改革を進めやすくなるのです。
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業務プロセスを可視化するメリット
ここからは、業務プロセス可視化がもたらす具体的なメリットを4つ解説します。
課題やボトルネックの早期発見
業務フロー図では、手順の流れはわかっても「価値の流れ」までは見えにくいという問題があります。そこで業務プロセスを可視化することで、「どの工程でコストが発生しているか」「どこで遅れが生じているか」「価値を下げている要因は何か」などを把握できます。
具体的には業務プロセスを可視化することで、
・価値を生む工程
・付加価値のない工程
・遅延やコストの原因となる工程
などの「プロセス構造の問題点」を特定できます。
顧客対応プロセスを分析することで、たとえば「顧客からの問い合わせ受付後の内部確認に遅れが発生しており、結果として顧客満足度を下げている」などの課題が明確になります。
これにより、経営層は感覚ではなく「データに基づく改善指示」を出せるようになります。
属人化の解消
多くの企業で課題となっているのが、「特定の担当者にしかわからない業務がある」という属人化の問題です。
業務プロセスを可視化すれば、手順や判断基準を明文化でき、担当者が不在でも他のメンバーがスムーズに対応できるようになります。また、可視化したプロセスは教育資料やマニュアルとしても活用できるため、新人育成の効率化にもつながります。
結果として、組織全体の知識が共有され、属人化リスクの少ない「強い組織」をつくることが可能です。
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コスト削減とリソースの最適化
業務プロセスの可視化により実現できるのは、「無駄な作業を探すこと」だけではありません。「どの工程が収益に寄与していないのか」「どこに余計なコストが発生しているのか」「顧客満足度を下げている要因は何か」などの経営視点で業務を分析することが可能になります。
具体的な改善ポイントの例
・価値の低い工程を削減することで、コストを大きく削減できる部分の特定
・重複する作業や必要以上のチェック工程の発見
・プロセス全体の流れを見て、過剰な人員配置の偏りを是正
・顧客が不便に感じている要因を分析し改善
たとえばRPA・AIなどにより業務の自動化を検討する際に、「どの業務を廃止、統合、集約、並列化すればよいか」「どこを自動化すればもっとも費用対効果が高いか」を判断する基準として大きく役立ちます。
また、プロセス全体の最適化は、リソース管理の最適化にもつながります。業務プロセス改善の結果、最適な人員配置を行うことで顧客満足度をより高めていくことが可能です。
情報共有・チーム連携の強化
業務プロセスを可視化することで、部門を超えた情報共有や連携が可能です。
たとえば、在庫管理システムでリアルタイムに在庫確認ができるようになれば、他店舗の在庫確認などもスムーズになり、在庫不足による販売機会の損失を防げます。また、CRM(顧客関係管理)の導入により店舗や部門を超えた顧客情報の連携ができれば、顧客に発信する情報の質が向上し、顧客満足度の向上につながります。
特にリモートワークや分散型組織が増える現代において、可視化は組織の情報共有に貢献します。また情報共有が円滑になることで、現場からの改善提案が出やすくなるという効果も得られます。
業務プロセスを可視化する手順

業務プロセスの可視化を成功させるためには、明確な手順を踏んで進めることが大切です。闇雲に業務を図にするだけでは、課題の発見や改善にはつながりません。
ここでは、6つのステップで効果的に可視化を行う方法をご紹介します。
STEP1:可視化する業務プロセスを明確にする
対象範囲が曖昧なまま業務プロセスの可視化を進めてしまうと、意味のある改善につながりません。まずは、「どの業務プロセスを分析するのか」を明確にします。
設定すべき範囲の例
・顧客獲得〜受注〜対応までの一連の価値創出プロセス
・請求〜入金〜債権管理までの財務プロセス
・問い合わせ対応プロセス全体
ここで重要なのは、「部門単位」、「作業単位」ではなく「価値の流れの単位」で範囲を決めることです。たとえば「営業部門だけ」ではなく、
・マーケティング
・営業
・カスタマーサクセス
・アフターサポート
といった「顧客価値全体につながるプロセス」を包含して可視化する方が、改善効果が高くなります。
STEP2:業務を構造化・分類する
次に、洗い出した業務を「どのような目的で行われているか」に基づいて分類します。
たとえば、「顧客対応」「販売管理」「経理処理」「人事管理」など、業務の目的別に整理することで全体像がつかみやすくなります。構造化することで業務の関連性や優先順位を明確にでき、次に行う作業がスムーズになります。
STEP3:現状を分析する
業務の洗い出し、分類ができたら、以下のような手法を用いて現状がどうなっているかを詳細に分析します。
・As-Is分析
ビジネスや業務の「現状(As Is)」を客観的なデータや事実に基づいて詳細に把握・可視化する分析手法です。この分析を通じて、現在のプロセスの問題点、非効率な部分(ボトルネック)、課題などを明確にし、次に設定する理想の姿(To-Be)とのギャップ(差)を特定します。
・To-Beモデル
企業や組織が目指すべき「あるべき姿」や「理想の状態」を指すモデルです。現状(As-Is)とのギャップを分析し、理想を実現するために取り組むべき課題を明確にする際に活用されます。
・ロジックツリー
一つの大きなテーマや問題を、木が枝分かれするように論理的に要素に分解し、構造化して可視化する思考のフレームワークです。複雑な課題の全体像を把握し、根本原因の特定、問題解決策の検討、アイデア出しなどに活用されます。
このような手法を用いて、経営層などのステークホルダーが課題や投資対効果を見極めやすい状態にすることが重要です。
STEP4:問題点を把握する
現状分析ができたら、次は問題点の特定です。ここが最重要ポイントであり、ここで正しく問題点を把握できれば、あとは適切な対策を講じるだけです。
特に分析すべき視点は次のとおりです。
・ボトルネックはどこか?
・重複している作業はないか?
・属人化している工程はないか?
・価値を生まない工程が紛れ込んでいないか?
・自動化・システム化すれば削減できる工程はないか?
・前後の工程の整合性は取れているか?
業務プロセスを可視化し現状を正しく分析することで、真の問題点を見つけることが重要です。
STEP5:改善策を検討する
問題点に対する改善策を検討します。
優先順位の高い問題点から以下のような改善策を検討していきます。
・業務プロセスの見直しとそれにともなう自動化(RPAやAIツールの導入)
・承認プロセスの簡略化など不要な作業の削減
・情報共有方法の統一
・システム間連携の強化
特に近年では、AIを活用した業務改善が注目されています。AIツールを活用すれば、業務ログや作業データを分析しボトルネックを検出できる可能性があります。
STEP6:改善後のプロセスを定着・共有する
改善策を設計・提案したら終わりではありません。新しい業務プロセスを定着させるためには、継続的なフォローと社内共有を行うことが重要です。
具体的には、以下のような対応を行うことで、効果を確認し、新しい業務プロセスを定着させていきます。
・改善後のプロセスを文書化・図式化して共有する
・定期的に効果を検証し、再度見直す
・部門間でも共有する
このように、業務プロセスの可視化は「見える化して終わり」ではなく、改善と定着までを含めた一連の流れとして取り組むことが重要です。継続することで、全社的な生産性向上と組織の強化につながるでしょう。
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業務プロセスの可視化を成功させるポイント
業務プロセスの可視化を行っても形だけで終わってしまうことがありますが、その原因の多くは、目的の不明確さや現場との温度差にあります。ここでは、可視化を成果につなげるための3つの成功ポイントについてご紹介します。
目的と範囲を明確にする
業務プロセスの可視化を始める前に、まずは「何のために可視化を行うのか」を明確にすることが重要です。
目的が曖昧なまま進めると、膨大な業務情報を集めるだけで終わり、改善につながりません。たとえば、「業務のムダを減らしたい」、「承認にかかる時間を短縮したい」、「システム化の前に現状を整理したい」などの具体的な目標設定が必要です。目標が明確になれば、調査や分析の方向性が定まります。
また、可視化の範囲を明確にすることも重要です。すべての業務を一度に可視化することは現実的ではないため、「優先度の高いところから」「顧客対応など収益に直結する領域から」など、段階的に進めることが成功のポイントになります。
現場担当者の意見を反映する
業務プロセスの可視化を進める際に最も重要なのは、現場の声を取り入れることです。
経営層や管理職だけで業務を分析すると、実際の作業手順や問題点が正しく把握できないことがあります。一方、現場の担当者は、日々の業務で「どこに手間がかかっているか」「なぜ作業が遅れているか」を肌で感じています。そのため、彼らの意見を反映することで、より実態に即した可視化ができるでしょう。
また、現場の意見を尊重することで、従業員の納得感や参加意欲が高まるという副次効果もあります。
継続的に改善・報告を行う
業務プロセスの可視化は、一度実施したら終わりではありません。
企業を取り巻く環境や業務内容は常に変化しており、数ヶ月前のプロセスが今では最適でなくなるというケースもあります。そのため、可視化した内容は定期的に見直し、改善を重ねることが重要です。
たとえば、以下のような運用ルールを設定すると効果的です。
・半年ごとにプロセスマップを更新する
・KPI(重要業績指標)を設けて改善効果を確認する
・改善結果を社内で共有し、他部門にも展開する
まとめ
業務プロセスの可視化は、単なる業務手順の整理やフローチャート作成ではありません。その本質は、「企業がどのように価値を生み、どこでムダや遅れが生じ、どこを改善すれば成果(顧客満足度)が最大化できるか」を明らかにすることにあります。
可視化を行うことで、顧客満足度を下げる原因となっている工程・ボトルネックや、ムダが多い工程・属人化している工程・改善効果の大きい工程などを客観的に特定することが可能です。その結果、業務改善や顧客満足度の向上だけでなく、投資判断・システム導入・自動化・DX推進など、企業の大きな意思決定に役立ちます。
また、部門間でプロセスの理解が共有されることで連携がスムーズになり、「どの部門の改善が全体最適につながるか」が明確になる点も重要です。
企業が今後、競争力を維持し成長していくためには、まず現状の業務プロセスを正しく理解し、改善のスタートラインに立つ必要があります。その第一歩が業務プロセスの可視化なのです。
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監修
永井 敏隆
大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。
担当講座
・コンポーネントテスト講座
・テスト自動化実践講座
・DevOpsテスト入門講座
・テスト戦略講座
・設計品質ワークショップ
など多数
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
SHIFTが事業運営において培ったノウハウを言語化・体系化し、講座として提供しており、品質に対する意識の向上、さらには実践的な方法論の習得など、講座を通して、お客様の品質課題の解決を支援しています。
https://service.shiftinc.jp/softwaretest/hinshitsu-univ/
https://www.hinshitsu-univ.jp/
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