深層学習における「ドロップアウト」とは?過学習対策の仕組みやメリットなどを解説

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深層学習における「ドロップアウト」とは?過学習対策の仕組みやメリットなどを解説
株式会社SHIFT マーケティンググループ
著者 株式会社SHIFT マーケティンググループ

Introduction

深層学習(ディープラーニング)は、AI(人工知能)のなかでも特に高い精度を誇る技術として、画像認識や自然言語処理、音声認識など多くの分野で活用されています。
深層学習を活用するうえで、訓練データの過度な適合によって起きる「過学習」の問題は避けて通れません。過学習とは、学習データに対しては高い精度で対応できるにもかかわらず、未知のデータにはうまく対応できず同様の精度を出せない問題のことです。過学習が起こることで、推論(テスト)時に期待した精度が得られないこともあるのです。
この過学習の問題を防ぐために開発されたのが「ドロップアウト」という手法です。本記事では、ドロップアウトの仕組みや効果、メリット・注意点について解説します。
※なお、ドロップアウトは学習時と推論時で挙動が異なるため、補正を行わない実装では両者で出力の期待値がずれてしまう点に注意が必要です。ただし実務では、多くの深層学習フレームワークがインバーテッドドロップアウト(学習時にスケーリングして推論時にずれが出ない)方式を採用しており、通常は学習時と推論時で期待値がずれないように実装されています。

目次

ドロップアウトとは

ドロップアウトとは

ドロップアウトとは深層学習(ディープラーニング)の過程で起こる「過学習」という問題を解決するために行われる手法のことです。

ここでは、過学習とは何か、ドロップアウトとは何かについてご説明します。

ニューラルネットワークにおいて、過学習を防ぐためニューロンの一部をランダムに無効化するテクニック

深層学習とは、人間の脳の神経回路を模倣したニューラルネットワークを用いて、大量のデータからパターンや特徴を学習する機械学習の手法のことです。深層学習を活用することで、画像認識音声認識自然言語処理などの複雑な処理を高い精度で行うことが可能です。

しかし、学習がうまくいきすぎることで「過学習」という問題が発生することがあります。過学習の概要及び悪影響については冒頭の通りとなります。

過学習は、特定の学習データによる学習が過剰に行われる、データに偏りが生じるなどの問題によって起こります。過学習により学習データにフィットしすぎてしまいデータの全体的な傾向や特徴をつかめず、未知のデータに対応できなくなってしまうのです。

このような問題を解決するために、2012年に最初のドロップアウトに関する論文が発表され、2014年にトロント大学の研究者らによって正式論文として採択されました。

ドロップアウトとは、ニューラルネットワークの学習中に、ランダムに一部のニューロン(神経細胞)を一時的に無効化する技術のことです。これにより、特定のニューロンや特徴に過度に依存せず、より汎用的で安定した学習が可能になります。

イメージとしては、スポーツチームが練習中に特定のメンバーを休ませ、他のメンバーに自分で考えてプレイするよう指示するようなものです。これにより特定メンバーがいなくても戦えるようになり、チーム全体の実力が向上して強いチームをつくることができるでしょう。

深層学習でドロップアウトの手法を使うことで過学習を抑制でき、モデルの汎用性能を高めることが可能です。現在では多くのディープラーニングモデルで標準的に採用されています。

▽あわせて読みたい▽
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ドロップアウトはなぜ必要?過学習が引き起こす問題の具体例

ここからはなぜドロップアウトが必要なのかを、過学習とは何かを含めて具体例を交えながら詳しくご説明します。

過学習とは、AIが学習データを「丸暗記」してしまう現象といえます。たとえば、猫の画像を判別するAIモデルをつくる場合、特定の猫の模様や背景、照明の条件など、学習データの細部まで覚えてしまうと、別の場所や環境で撮影された猫をうまく認識できません。つまり、「新しいデータ」に対する応用力が失われてしまうのです。

過学習が発生すると、AIの実運用時に予測精度が大きく落ちてしまいます。企業が導入したAIに過学習が起き予測精度が落ちることで、実害が出てしまうこともあるでしょう。

たとえば商品の需要予測AIが過学習を起こすと、過去の販売パターンには強い精度を示すものの、季節の変動やトレンド変化への対応が遅れるという事象が起こります。その結果、正しい予測結果を得られず需要を予測して用意した商品が売れ残るなどの、ビジネス上の損失につながることもあります。

この過学習を防ぐために開発されたのがドロップアウトです。ドロップアウトは学習中に一部のニューロンを無効化するというシンプルなアイデアですが、これにより過学習を劇的に抑制できることが確認されました。現在、このドロップアウトの技術は多くのディープラーニングモデルで標準的に採用されています。

ドロップアウトが過学習を抑制する基本的なメカニズム

ドロップアウトが過学習を抑制する基本的なメカニズム

ここでは、ドロップアウトが過学習を抑制する主要な3つのメカニズムを紹介します。

ニューロンの共依存関係の解消

ニューラルネットワークでは、複数のニューロンが協力して出力を生成します。しかし、一部のニューロンが常に強く反応してしまうと、他のニューロンが依存的になり学習のバランスが崩れてしまいます。

ドロップアウトによって特定のニューロンがランダムに無効化されることで、それぞれのニューロンは独立して有用な特徴を学習するようになり、その結果モデル全体の汎用性能が向上します。

アンサンブル学習の効果

ドロップアウトは、見方を変えると「多数の異なるニューラルネットワークを同時に学習している」のと似た効果を生み出します。

ランダムに異なるニューロンが無効化されるため、毎回異なるサブネットワークが訓練され、最終的にそれらの「平均的な知見」がモデルに反映されます。これは、複数の異なるモデルを組み合わせて精度を高める「アンサンブル学習」に似た効果をもたらし、その結果予測の安定性と精度が高まることが期待できます。

特徴量の多様性の促進

特定のニューロンが常に有効なままだと、ネットワークは限られた特徴しか学習しません。ドロップアウトを導入することで、さまざまなニューロンが異なる特徴を抽出しようとするため、モデル全体で扱える情報の幅が広がります。これにより、未知のデータに対しても柔軟に対応できる「汎化性能」が高まります。

【補足】インバーテッドドロップアウト(Inverted Dropout)とは

インバーテッドドロップアウト(Inverted Dropout)とは、深層学習におけるドロップアウト手法を改良した仕組みの一つです。

通常のドロップアウトでは、学習中にランダムで一部のニューロンを無効化して過学習を防ぎます。このとき、学習時と実際に推論を行う時の出力のスケールが変わってしまうという問題が起きます。学習中は一部のニューロンが働かないため出力が小さくなり、すべてのニューロンを使う推論時には出力が大きくなってしまいます。その結果、推論の精度が落ちてしまうのです。

この出力スケールのズレを解消するのがインバーテッドドロップアウトです。学習中にドロップアウトを適用する際、無効化されなかったニューロンの出力を保持率の逆数でスケーリングして補正します。たとえば、50%のドロップアウト率なら、残ったニューロンの出力を2倍にします。こうすることで、学習時と推論時で出力の平均値をそろえられ、推論時に特別な補正を行う必要がなくなります。

つまり、インバーテッドドロップアウトとは、「学習時にスケール調整を済ませておくスマートなドロップアウト」といえます。これにより、ネットワークの安定性が増しシンプルな実装になるため、現在のディープラーニングフレームワーク(たとえばTensorFlowBERTなど)では、この方式が標準として採用されています。

TensorFlowやBERTについてはこちらもご覧ください。
>>TensorFlowとは?特徴や仕組み、できることなどをわかりやすく紹介
>>BERTとは?Googleの自然言語処理モデルがもつメリット、活用例を解説

ドロップアウトのメリットと注意点

ここで改めて、ドロップアウトを採用するメリットと注意点についてまとめます。

ドロップアウトのメリット

ドロップアウトを採用することで、以下のようなメリットを得られます。

・過学習の防止
もっとも大きなメリットは、汎化性能の向上です。モデルが学習データに過度に依存することがなくなり、実際のデータに強くなります。その結果、未知のデータに対しても高い精度を保つことが可能です。

・汎化性能の向上
ドロップアウトにより特定のニューロンに過度に依存することを防げます。その結果、ニューロン一つひとつが独立して学習できるようになり、モデルの汎化性能の向上につながります。

・アンサンブル学習効果
すでにご説明したとおり、ドロップアウトを適用することで、複数の異なるモデルを組み合わせて精度を高める「アンサンブル学習」によく似た効果を得られます。その結果、推論性能の向上が期待できます。

ドロップアウトの注意点

ドロップアウトを適用することで以下のような注意点もあります。

・学習時間が増大する場合がある
一部のニューロンを無効化するため、同じ精度を得るためにはより多くの学習が必要です。そのため、学習が安定するまでに時間がかかってしまうこともあります。

・ドロップアウト率の検証が必要
ドロップアウトを適用する場所やドロップアウト率を誤ると、逆に学習が進まなくなる場合もあります。特に入力層や出力層など重要な層に過度に適用すると、モデルが必要な特徴を十分に捉えられなくなるリスクがあります。そのため、実際には0.5程度のドロップアウト率に設定することが多いですが、入力層では低め、中間層では高めに設定するなど、層ごとの性質に合わせて調整することが重要です。ドロップアウトは適切に使うことでAIモデルの信頼性を高める強力なツールになります。

ドロップアウトが利用されている分野

ドロップアウトは、現在のAI技術の多くで当たり前のように広く使われています。ここでは、どのような分野で使われているのかをご紹介します。

・画像認識
画像認識の分野では、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)モデルに組み込まれ、画像のノイズや照明の違いがあっても正確に物体を識別できるようにしています。
(ただし、最新のCNNでは空間的ドロップアウトが実装されているケースもあります)

・自然言語処理
自然言語処理(NLP)の世界でも欠かせません。BERTやGPTといった大規模言語モデルでは、膨大なテキストデータを学習する過程で過学習を防ぐためにドロップアウトが用いられています。これにより、未知の文章や新しい表現にも柔軟に対応できるモデルが実現されています。

・医療分野
医療分野では、学習データが限られている状況でも汎化性能を維持できるため、診断支援システムや画像解析AIの安定性向上に寄与しています。

このように、ドロップアウトは「AIを実用レベルに引き上げるための安全装置」といえる存在です。企業がAI導入を進めるうえでも、モデルが本番環境で確実に機能するための品質保証の一部として欠かせない仕組みといえるでしょう。

▽あわせて読みたい▽
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まとめ

ドロップアウトは、深層学習における「過学習防止」のための代表的な手法です。学習中にランダムに一部のニューロンを無効化することで、特定の特徴に依存しすぎない、汎用的で強いモデルをつくることができます。

企業がAIを活用する際、学習データの偏りやモデルの過学習は避けて通れない課題です。ドロップアウトは、その課題をシンプルかつ効果的に解決できるテクニックとして、AI開発の現場で広く採用されています。導入を検討している企業にとっても、AIモデルの信頼性を高めるために欠かせない仕組みといえるでしょう。

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林 栄一

監修

株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
林 栄一

組織活性化や人材開発において豊富な経験を持つ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築し、現在新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当している。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。勉強会やカンファレンス、最近では生成AI関連のイベントに多数登壇している。チームワークの価値を重んじ、社会にチームでの喜びを広める使命をもつ。

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この記事を書いた人

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著者 株式会社SHIFT マーケティンググループ

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