Introduction
近年、生成AIは企業活動において欠かせない存在となりつつあります。文章作成、要約、問い合わせ対応、画像生成など、幅広い業務をAIがサポートでき、企業の業務効率の改善や顧客満足度の向上に繋がっています。一方で、「AIをもっと自社にあわせたい」「業界特有の用語や文体を理解させたい」などの課題もあります。
その解決策として注目されている技術が「ファインチューニング」です。この記事では、ファインチューニングの仕組み、種類、メリット、注意点、活用例までをわかりやすく解説します。
目次
ファインチューニングとは

ファインチューニングとは、AI分野における非常に重要な技術です。ここでは、ファインチューニングとは何か、利用が増えている背景について解説します。
すでに学習済みのAIモデルを特定のタスクやデータセットに合わせて再調整する技術
ファインチューニングとは、すでに大規模なデータで学習済みのAIモデルを、特定の目的やデータにあわせて再調整する技術のことです。
生成AIは非常に高性能ですが、そのままでは、たとえば「企業固有の業務ルール」「専門用語」「自社独自の文体」などは必ずしも反映されません。そこで、企業が持つ問い合わせ履歴、商品情報、議事録、社内規程などの独自データを追加で学習させることで、AIを自社の業務によりフィットさせることが可能になります。イメージとしては、「すでに優秀な人材に対して自社のやり方や専門知識を教えて、さらに活躍できるようにする」というようなものです。
これにより、高精度で企業にマッチした業務支援ができ、AIをビジネスに導入する効果が大きく高まります。
AIモデルについてはこちらもご覧ください。
>>AIモデルとは?学習方法ごとに分類やつくり方、課題について解説のページへ
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ファインチューニングの利用が増えている背景
ファインチューニングが注目され、導入が進んでいる理由は大きく以下の2点です。
・生成AIの高度化
近年の生成AIは、文章・画像・音声など多様なデータを扱えるようになり、ビジネス活用の幅が急速に拡大しています。その結果、企業ごとに「もっと精度を上げたい」「もっと自社らしい表現にしたい」というニーズが増え、ファインチューニングの重要性が高まっています。
・企業内DXの加速
多くの企業では、DXの推進による業務効率化が急務となっています。特に「ナレッジの属人化」や「人手不足」は深刻であり、AIを企業固有の知識を活用できるデジタル人材として育てる動きが広がっています。
そこでファインチューニングを導入すれば、AIが自社の業務を深く理解したパートナーとなり、業務の標準化や効率化、品質向上に大きく貢献します。そのため、企業DXの中心的な技術としてファインチューニングを導入するケースが増えているのです。
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関連サービスについて
ファインチューニングの基本的な仕組み
ファインチューニングのベースとなる大規模モデルは、すでに一般的な言語知識や推論能力を持っているため、企業は必要な部分だけに追加調整を行えば短期間で高精度なモデルを得られます。
ここでは、ファインチューニングの種類、周辺技術との違いについて説明します。
大規模モデルについてはこちらもご覧ください。
>>LLM(大規模言語モデル)とは?文章を作成する仕組みや種類について解説のページへ
ファインチューニングの種類
ファインチューニングは、狙いによって「タスク精度の改善」「特定ドメインへの適応」「出力形式やトーンの統一」など、いくつかの方向性で使い分けられます。
タスク特化型
分類、要約、翻訳などの特定のタスクを高精度に実行させるための調整です。
具体的には以下のようなタスクがあります。
・お問い合わせ文から返信文を自動生成する
・長文の自動要約
・テキスト分類(クレーム内容の判定、カテゴリわけなど)
・翻訳の精度向上
上記のように、特定のタスクの正確さを上げたい場合に有効です。
ドメイン特化型
法律、医療、金融、製造などの業界特有の用語、ルール、文体をAIに理解させるための調整です。
具体的には以下のような業界に特化した調整があります。
・法律文書の表現
・医療カルテの専門用語
・金融リスク関連の語彙
・製造業の工程や規格
専門領域は一般的なモデルの苦手分野になりやすいため、多くの企業が採用しはじめています。
スタイルチューニング
文章トーンやブランド表現など、企業ごとの固有の文章スタイルをAIに身につけさせるチューニングです。
具体的には以下のようなスタイルチューニングがあります。
・広報用のブランドトーン
・カスタマーサポートの丁寧な話し方
・SNS向けのカジュアルな文体
・経営層向けの硬質なビジネス文体
どんなに賢いAIでも、そのままでは「企業ごとのらしさ」を再現できません。スタイルチューニングは企業ブランド統一という目的でも効果が高い手法です。
転移学習との違い
「ファインチューニング」と「転移学習」は近い概念ですが、以下のような違いがあります。
・転移学習
あるタスクで学習済みのモデルを別のタスクに再利用する枠組み全般を指します。具体的には、学習済みモデルの特徴抽出部分(入力層・中間層)を固定したまま新しい出力層(ヘッド)のみを学習する方法や、必要に応じて一部または全層を追加学習(微調整)する方法などです。
・ファインチューニング
転移学習の一手法であり、学習済みモデルの一部、または全体のパラメータを新しいデータで追加学習(微調整)することを指します。
AIモデルは入力層、中間層、出力層というニューラルネットワークを構成する構造をも持ち、入力層でデータを受け取り、中間層でデータを処理、計算し、出力層で最終的な結果を出力します。転移学習では出力層を追加して学習しますが、ファインチューニングでは出力層だけでなく中間層でも追加学習を行う点が異なります。データが豊富な場合はファインチューニングを、少ない場合は転移学習をそれぞれ実施するという使い分けをすることが多いです。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)との違い
RAGとファインチューニングは、その仕組みが大きく異なります。
ファインチューニングはモデルそのものを「再学習」して知識や能力を内蔵させますが、RAGは外部データを検索して取得しモデルが回答する際に利用する仕組みです。
RAGのメリットは「モデルを再学習しなくても最新情報を参照できる」、「文書管理が容易で更新にも強い」という点です。一方、ファインチューニングのメリットには、「モデルの精度が高まる」、「検索に頼らず一貫したアウトプットを生成できる」ということがあります。
それぞれのメリットを生かすため、RAGとファインチューニングを併用するケースも増えています。
RAGについてはこちらもご覧ください。
>>RAG(検索拡張生成)とは?生成AIとの関連性やメリット、活用事例を解説のページへ
プロンプトエンジニアリングとの違い
プロンプトエンジニアリングは「AIに対する指示文(プロンプト)を工夫する技術」であり、入力データを工夫する技術です。これに対してファインチューニングは、「モデルそのものを調整する」方法です。
プロンプトエンジニアリングは設定が簡単ですぐ試せますが、できることには限界があります。一方、ファインチューニングでは企業固有の知識やスタイルなどを深く学習できます。
プロンプト調整だけで十分なケースも多い一方、求める品質や一貫性が高い場合は、RAGによる根拠文書の参照、ツール連携、またはファインチューニングなど、複数の手段を組み合わせて改善することがあります。
プロンプトエンジニアリングについてはこちらもご覧ください。
>>プロンプトエンジニアリングとは?代表的な手法や実践例を解説のページへ
ファインチューニングのメリット

ファインチューニングを活用すると、企業の業務効率化や作業品質の向上に大きな効果があります。
ここでは、企業が得られる代表的な3つのメリットを解説します。
独自データによる特定タスクに対しての最適化・高精度化が図れる
ファインチューニングの最大のメリットは、自社の業務にあった形にAIを最適化できるという点です。
AIモデルは一般的な幅広い知識をもっていますが、以下のような企業特有の情報は十分に理解していません。
・自社の商品仕様
・業界固有の専門用語
・社内ルールや判断基準
・過去の顧客からの問い合わせの傾向
・企業特有のトーンや文体
これらの情報を追加で学習させることで、AIはその企業で長年働いてきた社員のように、企業について理解したうえで正確な回答や文章生成などができるようになります。
その結果、カスタマーサポート、社内FAQ、文書作成などのさまざまな場面で、精度の高いアウトプットを得られるでしょう。
既存モデル利用によってトレーニング時間を短縮できる
ゼロからAIモデルを構築する場合、膨大なデータが必要となり、計算コストも膨大です。しかしファインチューニングなら、すでに学習済みのモデルをベースとして利用できるため、必要な学習量は大幅に減ります。短期間でコストを抑えて実務レベルの精度を達成することが可能なのは大きなメリットです。
そのため、小規模検証(PoC)から本番導入までのスピードが速くなり、DXの推進を加速させることができるでしょう。
小規模検証(PoC)についてはこちらもご覧ください。
>>PoCとは?意味や検証内容、実施するメリット・デメリットを解説のページへ
少量の教師データでも結果を出しやすい
大規模モデルはすでに多くの一般知識をもっているため、追加で必要なデータは「改善したい部分に絞った少量のデータ」だけで済む場合が多いです。具体的には、「商品説明のサンプル数十件」、「過去の問い合わせ数百件」、「社内文書の例文数十〜数百件」などです。この程度のデータでも十分に効果が出るケースは多く、中小企業でも導入しやすい技術として人気が高まっています。
また、少量データでも効果が出るということは、データ準備の工数が抑えられるというメリットにもつながります。
ファインチューニングの注意点
ファインチューニングは非常に有用ですが、正しく運用しなければ期待した効果が出ないこともあります。ここでは、企業が導入する際に注意すべき3つのポイントを解説します。
過学習のリスクがある
ファインチューニングでは自社のデータなどをモデルに追加学習させますが、データ量が少なかったり偏っていたりすると、モデルが特定のデータに引きずられすぎることがあります。これを過学習と呼びます。
過学習が起きると、以下のような問題が発生することがあります。
・特定の文書には高い精度だが、少し違う文書を入力すると精度が下がる
・柔軟な回答ができなくなる
・誤った判断基準が固定されてしまう
過学習に対する対策としては、データを複数パターン用意する、データの質を改善するなどがあります。
ベースモデルの選択によって精度に大きな違いが出る
ファインチューニングでいい結果が出るかどうかは、どのモデルをベースとして選ぶかで大きく変わります。
たとえば、医療用AIを作るためには一般知識に強いモデルを選ぶのではなく、医療分野に強いモデルを選ぶ方がよいでしょう。また、日本市場向けなのに英語中心のモデルを選ぶと、日本語に関する不具合が多くなる可能性が高いです。
このように、ベースとするモデルとのミスマッチが起こるとAIの精度が下がってしまうことがあります。そのため、導入前にモデルの特性と目的を整理することが重要です。
使用するデータの品質に注意がいる
AIは、与えられたデータの傾向をそのまま学ぶため、データの質が悪いとAIのアウトプットも同じように質が落ちてしまいます。
品質が低いデータとは、具体的には以下のようなものです。
・誤字や脱字が多い
・情報が古い、間違っている、齟齬がある
・社内のルールや事例に反した内容である
・個人情報など不要な情報が混ざっている
特に、企業データには「属人化したノウハウ」「曖昧な表現」などが多く含まれるため、整理せずにそのまま学習させると、AIが誤った判断を覚えてしまいます。
そのため、データを整理する、文書を見直す、個人情報をマスキングするなどの前処理は、ファインチューニングを成功させるための重要な作業です。
ファインチューニングの活用例
ファインチューニングは、業務のさまざまな場面で効果を発揮します。特に「自社データを活用して精度を高めたい領域」で企業への導入が進んでいます。
ここでは、代表的な活用事例をご紹介します。
カスタマーサポートの精度向上
カスタマーサポート業務では、企業特有の製品知識や対応ルールが必要です。一般的なAIモデルでは判断が難しいケースでも、ファインチューニングを行うことで以下のような効果を得られます。
・過去の問い合わせ履歴から自社に適した回答を生成
・製品仕様に基づいた正確な案内ができる
・クレーム対応のトーンを統一する
結果として、カスタマーサポート対応の品質の向上や工数削減、顧客満足度の向上につながります。
商品説明の自動生成
ECサイトや店舗などでは、膨大な商品の説明文作成作業が負担になることがあります。そこでファインチューニングを活用することで、自社のブランドイメージや商品の売り出しポイントなどにあわせた文章を自動生成できます。
具体的には、以下のようなことを実現できます。
・自社ならではの「売り文句」や「表現スタイル」の文章を作成する
・膨大な商品説明文を自動で作成する
・国内・海外向けの文体を切り替える
これにより、大量の商品ページ更新なども効率化され、売上の向上にも繋がるでしょう。
画像生成モデルのスタイル統一
画像生成モデルを活用する際にもファインチューニングは有効です。企業独自の「ブランドイメージ」「絵柄」「色使い」などを学習させることで、統一感のある画像や映像を大量に生成できます。
具体的には、以下のようなことを実現できます。
・広告素材の画像を統一したトーンで作成する
・アニメ調・リアル調など独自の絵柄を再現する
・ブランドカラーに沿った画像を自動再生する
・SNS向けの画像や映像を量産する
これにより、デザイナーの負担を減らしながら、ブランド表現の一貫性を保てる点が大きなメリットです。
音声合成モデルの声質チューニング
ファインチューニングは音声分野でも活用されています。
たとえば、以下のようなことを実現可能です。
・コールセンター向けの「聞き取りやすい声」を生成する
・企業のキャラクターの声を生成する
・企業マニュアルや研修動画の音声を自動生成する
特に、企業独自のキャラクターボイスやブランドボイスを作りたい場合に強力な手段となるでしょう。
専門文書の自動要約・校正
法律、医療、金融、製造などの専門領域では、文章の正確さが特に重要です。ファインチューニングにより専門知識や文体を学習させることで、より高度な文章作成が可能になります。
たとえば、以下のような専門性を必要とされる業務に役立ちます。
・契約書や法律文書を自動要約する
・専門分野のレポートの校正・誤りを検出する
・医療カルテからの要点を抽出する
・マニュアルの標準化や改善を行う
このような作業は一般モデルだけではむずかしいですが、専門的なデータでファインチューニングすることで専門性の高い文書の処理を安定的に実現できます。
まとめ
ファインチューニングは、生成AIを企業の実務に最適化するための非常に重要な技術です。学習済みモデルに自社特有の業務知識や文体、専門用語などを追加で学習させることで、AIは社内で経験を積んだスタッフのように仕事ができるようになります。これは業務効率化や品質向上に直結するため、DXを進める企業にとって戦略的な投資といえるでしょう。
また、多様な業務に応用できる柔軟性の高さも魅力です。カスタマーサポート、商品説明文の生成、画像作成、音声合成、専門文書の処理など、活用範囲は年々拡大しています。一方で、過学習やデータ品質、モデル選びなど注意すべき点もあるため、適切な体制で取り組むことがDX推進の成功の鍵となります。
生成AIの進化が続くなかで、ファインチューニングは企業が競争力を維持し、顧客価値を創出するための重要な武器となるでしょう。
監修
林 栄一
組織活性化や人材開発において豊富な経験を持つ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築し、現在新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当している。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。勉強会やカンファレンス、最近では生成AI関連のイベントに多数登壇している。チームワークの価値を重んじ、社会にチームでの喜びを広める使命をもつ。
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