Introduction
人手不足の深刻化や働き方の多様化が進むなか、企業経営においてバックオフィスの在り方が大きく問われています。経理・人事・労務・総務などのバックオフィス業務は、これまで「止まらず正確に動くこと」が重視されてきましたが、アナログな業務形態のままでは限界を迎えつつあります。
このような課題を解決する手段として注目されているのが「バックオフィスDX」です。
この記事では、バックオフィスDXの基本的な考え方や取り組み例、導入によって得られるメリットなどを紹介。さらに進める際の注意点、そして失敗しない進め方も具体的に解説します。
目次
バックオフィスにおけるDXとは

バックオフィスにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、経理・人事・労務・総務・法務などの、企業活動を裏側から支える業務にデジタル技術を取り入れ、業務のやり方そのものを変革していく取り組みを指します。
単に紙を電子化したり、ツールを導入したりすることが目的ではなく、「業務の効率化」「コスト削減」「働き方の改善」「経営判断の迅速化」など、企業全体の競争力を高めることが本質的な狙いです。
これまでバックオフィス業務は、「正確であればよい」「現場を止めないことが最優先」とされ、アナログな業務フローが長年維持されてきました。しかし、近年は社会環境や働き方が大きく変化し、従来のやり方では対応がむずかしくなっています。そのため、バックオフィス領域においてもDXの必要性が急速に高まっているのです。
DXについてはこちらもご覧ください。
>>DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?なぜ必要なのか、進め方もあわせて解説のページへ
DXの定義とバックオフィスにおける役割
DXとは、デジタル技術を活用して業務や組織、ビジネスモデルを変革し、企業価値を向上させる取り組みのことです。経済産業省の定義でも、「単なるIT化」ではなく、「競争上の優位性を確立するための変革」である点が強調されています。
バックオフィスにおけるDXの役割は、大きく分けて次の3点です。
・業務の生産性向上
定型的で繰り返しの多い業務をデジタル化・自動化することで、担当者の負担を軽減し、より付加価値の高い業務に時間を使えるようになります。
・経営の見える化と意思決定の迅速化
会計データや人事データがリアルタイムで集約されることで、経営層は最新の状況を把握しやすくなり、的確な判断を迅速に行えるようになります。
・全社DXを支える基盤づくり
バックオフィスは全社員が関わる領域であり、ここがデジタル化されることで、営業や現場部門のDXも進めやすくなります。バックオフィスDXを進めることは、企業全体のDXを下支えする重要な役割を担っています。
バックオフィスDXが求められる背景
バックオフィスDXが強く求められる背景には、いくつかの社会的・経営的な要因があります。ここでは、バックオフィスDXが求められる背景についてご説明します。
・労働人口の減少と業務負荷の増大
少子高齢化が進む日本では、今後も人手不足が深刻化すると見込まれています。一方で、法改正への対応やコンプライアンス強化など、バックオフィスに求められる業務量は増え続けています。このような状況のなかで限られた人材で業務を回すためには、DXによる効率化が不可欠です。
・急速に進む働き方の多様化
テレワークやハイブリッドワークが広がるなか、紙書類や押印を前提とした業務フローでは業務が滞りやすくなります。場所に縛られずに業務を進めるためにも、バックオフィス業務のデジタル化が求められています。
・アナログ業務の限界と「2025年の崖」への対応
老朽化した基幹システムや属人化した業務を放置すると、将来的に大きなコスト増や事業リスクに繋がる可能性があります。これを回避するためにも、バックオフィスから計画的にDXを進める必要があります。
このように、バックオフィスDXは「余裕がある企業だけが取り組むもの」ではなく、これからの企業経営において避けては通れない重要なテーマとなっていることがわかります。
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バックオフィスDX推進の具体例
「バックオフィスDXといわれても、何からはじめればよいのかわからない」と感じる経営層の方も多いかもしれません。ここでは、多くの企業で実際に進められている代表的な取り組み例を紹介します。
ペーパーレス化・電子契約・脱ハンコの推進
バックオフィスDXの第一歩として、多くの企業が取り組んでいるのがペーパーレス化です。
請求書、契約書、申請書、稟議書などを紙で管理している場合、印刷・押印・郵送・保管といった作業に多くの時間とコストがかかります。このような紙媒体による管理ではなく、電子契約やワークフローシステムを導入することで、押印のために出社する必要がなくなり、承認スピードも向上します。特にテレワークを導入している企業では、脱ハンコは業務継続の観点からも重要な施策です。
また、書類を電子データとして一元管理することで検索性が向上し、過去資料の確認も容易になります。監査対応や内部統制の強化につながる点も、経営層にとって大きなメリットといえるでしょう。
RPA・AIによる定型業務の自動化
バックオフィスには、毎日・毎月繰り返される定型業務が数多く存在します。たとえばデータの転記、請求書処理、勤怠データの集計、給与計算の補助作業などです。
このような業務には、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やOCR・データ分析などのAI技術の活用が効果的です。人がPCで行っている操作をソフトウェアロボットが代行することで、作業時間を大幅に削減できます。
さらに、自動化により作業スピードが向上するだけでなく、入力ミスや計算ミスなどの人的エラーの防止にもつながります。担当者は単純作業から解放され、業務改善や分析といった、より価値の高い業務に集中できるでしょう。
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会計・人事・労務・勤怠のクラウドサービス活用
近年は、会計や人事、労務、勤怠管理などのバックオフィス業務を支援するクラウドサービスが数多く登場しています。これらのサービスを活用することで、システムの保守・運用負担を抑えながら、つねに最新の法制度に対応した運用が可能になります。
クラウド型のサービスは、インターネット環境があればどこからでも利用できるため、テレワークや拠点分散にも柔軟に対応できます。またデータが自動的に集約されることで、経営指標の可視化やレポート作成も容易になります。
バックオフィスDXで実現できるメリット

バックオフィスDXを推進することで、単なる業務効率化にとどまらず、企業経営全体にさまざまな好影響をもたらします。ここでは、バックオフィスDXによる主なメリットについて解説します。
生産性の向上と業務スピードの加速
バックオフィスDXのもっとも大きなメリットの一つが、生産性の向上です。
ペーパーレス化や業務の自動化により、これまで時間を要していた作業が短時間で完了するようになります。たとえば申請・承認業務がシステム上で完結すれば、決裁までに数日かかっていたのを数時間で終わらせることも可能です。
業務スピードが向上することで現場部門の動きも円滑になり、企業全体の生産性向上につながります。
コスト削減
バックオフィスDXは、さまざまなコスト削減効果をもたらします。特に削減効果が大きいのは、以下の3つのコストです。
・工数の削減
定型業務を自動化することで、担当者の作業時間を大幅に減らすことができます。結果として残業時間の削減や、限られた人員での業務運営が可能になります。
・紙や印刷にかかるコストの削減
紙代、印刷代、郵送費、保管スペースといった目に見えにくいコストも、積み重なると大きな負担になります。ペーパーレス化により、これらのコストを継続的に削減できます。
・人的リソースの最適化
人手に頼っていた業務を効率化することで、将来的な人員増加を抑え、採用コストの抑制にもつながります。
人的ミスの減少と正確性の担保
バックオフィス業務では、ひとつのミスが大きなトラブルにつながることも少なくありません。DXにより入力作業や計算処理を自動化することで、ヒューマンエラーを大幅に減らすことができます。
特に、経理や労務といった正確性が求められる業務では、システムによるチェック機能が有効です。ミスの発生を未然に防ぐことで、手戻り作業やトラブル対応にかかる負担も軽減されます。
多様な働き方への対応
バックオフィスDXは、リモートワークやハイブリッドワークといった多様な働き方を支える基盤にもなります。場所に依存しない業務環境を整えることで、育児や介護と仕事の両立、優秀な人材の確保といった面でもメリットが生まれます。
また、災害時や緊急時でも業務を継続しやすくなる点は、事業継続計画(BCP)の観点からも重要です。
業務の標準化・属人化の解消
業務が特定の担当者に依存している状態は、企業にとって大きなリスクです。DXを進める過程で業務プロセスを整理・標準化することで、誰が担当しても一定の品質で業務を遂行できる体制を構築できます。
これにより、担当者の異動や退職があっても、業務が滞りにくくなります。組織としての安定性が高まる点も、経営層にとって重要なメリットです。
社員満足度の向上と離職防止
煩雑で非効率な業務は、社員のストレスや不満の原因になります。バックオフィスDXにより業務負担が軽減されることで、社員の満足度が向上し、離職防止にもつながります。
特にバックオフィス部門は成果が見えにくく評価されにくい傾向がありますが、DXによって業務の価値が可視化されることで、モチベーション向上にも寄与します。
バックオフィスDXを進めるにあたっての注意点
バックオフィスDXは多くのメリットをもたらしますが、進め方を誤ると期待した効果が得られないケースもあります。ここでは、事前に理解しておくべき主な注意点について解説します。
・初期投資やランニングコストが発生する
バックオフィスDXでは、システムやクラウドの導入、ツールの利用にあたり初期費用や月額利用料などのコストが発生します。短期的に見ると「コスト増」と感じられることもありますが、業務効率化や人件費削減といった中長期的な効果を踏まえ、投資対効果の視点で判断することが重要です。
また、導入後も継続的な運用・保守費用がかかるため、あらかじめ予算を見込んだ計画が求められます。
・ツールの選定や社内浸透に時間がかかる
バックオフィスDXのためのツールを導入すればすぐに成果が出る、というわけではありません。また、自社の業務に合わないツールを選定してしまうと、かえって業務が複雑化する恐れがあります。DXを進める過程で現場の理解や協力が得られなければ、システムが十分に活用されず形骸化してしまいます。
そのため、経営層がDXの目的や意義を明確に示し、現場と丁寧にコミュニケーションを取ることが成功の鍵となるでしょう。
・情報セキュリティ対策や法改正対応が必要
バックオフィス業務では、個人情報や機密情報を多く扱います。そのため、クラウドサービスやデジタルツールを活用する際には、情報漏えいや不正アクセスを防ぐためのセキュリティ対策が欠かせません。また、電子帳簿保存法や個人情報保護法など、関連する法令への対応も必要です。
セキュリティ対策を万全な状態にし、法改正に柔軟に対応できる仕組みを整えることが、安心してDXを進めるための前提条件となります。
・既存システムとの連携課題が起こりやすい
多くの企業では、すでに何らかの業務システムを利用しています。そこに新たなツールを導入する際には、既存システムとの連携をうまく行わないと、データの二重管理や追加作業などの問題が発生する可能性があります。
そのため、全体のシステム構成を見渡しながら、段階的にDXを進めることが重要です。
バックオフィスDXの進め方
バックオフィスDXは、一度にすべてを変えようとすると失敗しやすいため、経営層が全体像を理解し、段階的に進めることが成功のポイントとなります。
ここでは、一般的な進め方を7つのステップに分けて解説します。
STEP1:目的設定とDX推進のゴールの明確化
最初に行うべきなのが、「なぜバックオフィスDXを進めるのか」という目的を明確にすることです。
単なる業務効率化なのか、人手不足への対応なのか、働き方改革なのかによって、取るべき施策は異なります。経営層がDX推進のゴールを明確に示すことで、現場も同じ方向を向いて取り組むことができます。「何をもって成功とするのか」を具体的に定義しておくことが重要です。
STEP2:現状把握と業務プロセスの可視化
次に、現状のバックオフィス業務を洗い出し、業務プロセスを可視化します。
どの業務に時間がかかっているのか、どこに無駄や属人化があるのかを把握することがDXの出発点となります。この段階で現場の意見を丁寧にヒアリングすることで、実態に即した改善ポイントが見えてきます。
STEP3:課題の抽出と優先順位付け
業務を可視化した後は、課題を整理し、優先順位を付けます。
すべてを同時に改善しようとすると負荷が大きくなるため、「効果が出やすい」「改善の恩恵を受ける範囲が広い」といった観点で取り組む順番を決めることが重要です。短期間で成果が出る施策を選ぶことで、DX推進への社内理解も得やすくなります。
STEP4:適切なツール・サービス・パートナーの選定
課題が明確になったら、それを解決するためのツールやサービスを選定します。
操作性や機能だけでなく、自社の業務に合っているか、将来的に拡張できるかといった視点も重要です。必要に応じて、外部の専門パートナーを活用することも検討するとよいでしょう。
STEP5:小規模トライアル(PoC)による検証
本格導入の前に、小規模なトライアル(PoC)を行うことで、効果や課題を検証します。
実際の業務で試すことで、想定外の問題点や改善点が見えてきます。この段階で調整を行うことで、本格導入後の失敗リスクを抑えることができます。
PoCについてはこちらもご覧ください。
>>PoCとは?意味や検証内容、実施するメリット・デメリットを解説のページへ
STEP6:本格導入と社内制度・体制整備
PoCでの検証を踏まえ、本格的にDXを導入します。
同時に、運用ルールや社内体制、教育・研修の整備も行うことが重要です。現場が安心して使える環境を整えることで、DXの効果を最大化できます。
STEP7:継続的な運用改善と効果測定(PDCA)
バックオフィスDXは、一度導入して終わりではありません。定期的に効果を測定し、改善を重ねることで、より高い成果を生み出します。
PDCAサイクルを回しながら、業務やツールを見直していく姿勢が求められます。
関連サービスについて
まとめ
バックオフィスのDXとは、経理・人事・労務・総務といった企業活動を支える業務にデジタル技術を取り入れ、業務の効率化にとどまらず、組織や働き方そのものを変革していく取り組みです。人手不足の深刻化や働き方の多様化、法制度の複雑化といった環境変化を背景に、バックオフィスDXはいまや多くの企業にとって避けて通れないテーマとなっています。
またバックオフィスDXは単なる業務改善ではなく、企業の持続的成長を支える基盤づくりでもあります。経営層自らがその重要性を理解し、全社を巻き込みながら推進することで、これからの不確実な時代にも柔軟に対応できる強い組織を構築できるでしょう。
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監修
株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
永井 敏隆
大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。
担当講座
・コンポーネントテスト講座
・テスト自動化実践講座
・DevOpsテスト入門講座
・テスト戦略講座
・設計品質ワークショップ
など多数
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
SHIFTが事業運営において培ったノウハウを言語化・体系化し、講座として提供しており、品質に対する意識の向上、さらには実践的な方法論の習得など、講座を通して、お客様の品質課題の解決を支援しています。
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