Introduction
AIや機械学習について調べていくと、MLP(多層パーセプトロン)という言葉が出てくることがあるでしょう。MLPとは、機械学習やニューラルネットワークを理解するうえで欠かせない、基本となる技術です。
ここでは、MLPとは何か、その仕組みや実現できること、課題、今後の動向などについて解説します。
目次
MLP(多層パーセプトロン)とは

MLP(Multi-Layer Perceptron)とは「多層パーセプトロン」と訳され、複数の層を重ねたニューラルネットワークの基本モデルのことです。現代のディープラーニング技術は、このMLPの考え方を基盤に発展してきました。
ここでは、MLPの特徴について解説します。
複数の層からなるニューラルネットワークの一種で、特に深層学習の基礎となるモデル
MLPは、「入力層→中間層(隠れ層)→出力層」という構造をもつニューラルネットワークです。特に、中間層が複数あるモデルはディープラーニングの中核であり、MLPはその基本形といえます。
MLPの特徴は以下のとおりです。
・複数の層を通してデータを変換し、より高度な特徴を抽出する
・単純な機械学習より複雑なパターンを学習できる
・画像・音声・テキストなど多様なデータにも応用可能
現在の機械学習の多くは、MLPを拡張したものが使われています。
ディープラーニングについてはこちらもご覧ください。
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パーセプトロンの概要と単純・多層の違い
MLPの前身である「パーセプトロン」は、1950年代に誕生したもっとも基本的なAIモデルです。
単純パーセプトロンは、複数の入力を受け取って重みづけされた合計値を活性化関数に入力し、結果を得るという単純な構造です。単純パーセプトロンには、直線で区切れる単純な分類、つまり線形分離できる問題しか扱えないという弱点があります。
そこで、多層パーセプトロン(MLP)は中間層を増やすことで、複雑な分類・予測ができます。中間層を挟むことで非線形な問題を扱えるようになり、複雑なパターンの学習が可能になりました。
AIモデルについてはこちらもご覧ください。
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MLPの仕組みと構成要素
MLPは、入力→中間層→出力という三つの層を持つニューラルネットワークです。人間の脳の働きを模倣するように設計されており、複数の層を重ねることで複雑な学習を行うことが可能になっています。
ここでは、MLP仕組みとその構成要素について解説します。
ニューラルネットワークはたくさんの〇が線で繋がれているように表されますが、この〇が「ニューロン」と呼ばれるものです。1つのニューロンは1つの数字をもっており、ニューロンからニューロンへ数字が送られていきますが、その際に重み、バイアス、活性化関数が以下のように作用します。
このとき、各層で「重み」「バイアス」「活性化関数」を使ってデータを変換し、最終的に分類・予測などの結果を出します。
【入力層・中間層・出力層の役割】
・入力層(Input Layer)
分析対象のデータを受け取る部分です。
・中間層(Hidden Layer)
MLPの「頭脳」ともいえる層で、入力データを複数段階で変換します。層を深くするほど、データの特徴をより高度に抽出できます。
・出力層(Output Layer)
分類結果や数値予測などの最終的な結果を出力します。
【重み・バイアス・活性化関数】
・重み(Weight)
入力データがどれくらい重要かを表す数値です。学習が進むと「重要な特徴には大きな重みがつく」ようになります。
・バイアス(Bias)
判断基準を微調整するための補正値です。
・活性化関数(Activation Function)
前の層の出力に重みをかけ、バイアスを足す計算を行いますが、その結果に対して活性化関数により変換を行い、次の層に渡します。
これらの仕組みを組み合わせることで、MLPは単純なモデルでは扱えない複雑な問題を扱えるようになっています。
【順伝播(Forward Propagation)】
順伝播とは、入力されたデータが各層の計算を経て最終結果へ進む、以下のような流れのことです。
- 入力層でデータを受け取る
- 入力×重み+バイアスを計算
- 活性化関数で変換
- これを中間層で繰り返し、出力層まで伝える
- 結果として「予測値」が出力される
【誤差逆伝播(Backpropagation)】
誤差逆伝播とは、出力層が出力した結果から誤差を割り出し、入力側にさかのぼってパラメータを調整する方法です。MLPが賢くなるための学習方法ともいえます。
その流れは次のとおりです。
- 予測結果と正解を比べる
- その差(誤差)を計算する
- 誤差を元に重みとバイアスを調整する
- 「誤差が小さくなる方向」にパラメータを更新
- これを大量データで繰り返すことで精度向上
・損失関数(Loss Function)
機械学習モデルが予測した値と正解の値との誤差を評価するための関数です。損失関数の値が小さければ、それだけモデルの予測が正確であることを表しています。
・勾配降下法(Gradient Descent)
損失、つまり、予測値と正解値の誤差がもっとも小さくなる方向へパラメータを調整する仕組みのことです。
MLPと機械学習・ディープラーニングの関係
機械学習とは、大量のデータから規則性やパターンを学習し、未知のデータに対する予測や分類を行う手法のことです。MLPとディープラーニングはどちらも、機械学習を発展させた手法です。
MLPはニューラルネットワークの基本形で「入力→中間層→出力」という構造を持ち、ディープラーニングの元になった代表的モデルです。数値やテキスト、時系列データなどに幅広く対応できます。
一方のディープラーニングは、ニューラルネットワークを多層化し、巨大なデータで学習する技術全体のことを指します。CNN、RNN、LSTM、Transformerなどの多様なモデルを含む総称で、大量の計算資源を使い、より高度なパターンを学習できます。
つまり、MLPは機械学習とディープラーニングの中間に位置する存在といえるでしょう。
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MLPを応用した代表的なニューラルネットワーク
MLPの考え方は、多くのAIモデルに応用されています。
代表的なものは以下のとおりです。
・CNN(畳み込みニューラルネットワーク):画像認識の代表モデル
・RNN(再帰型ニューラルネットワーク)・LSTM(超短期記憶):時系列データや文章の分析を行うモデル
・GAN(敵対的生成ネットワーク):画像生成などクリエイティブ分野で活用されるモデル
これらのモデルは、パーセプトロンやMLPなどのニューラルネットワークの基本概念から発展したものです。
それぞれのキーワードについてはこちらもご覧ください。
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MLPのメリット・強み

MLPはディープラーニングの基本モデルですが、その汎用性の高さ、扱いやすさなどから現在でも多くの企業システムやAIプロダクトで活用されています。
ここではMLPのメリットや強みについて解説します。
汎用性の高さと幅広い応用分野
MLPの最大の強みはデータの形式を問わず使える汎用性にあります。
たとえば、企業が日常的に扱うさまざまなデータに適用できます。
・数値データ(売上、アクセス数、購買履歴)
・テキストデータ(問い合わせ内容、レビュー分析)
・時系列データ(需要予測、株価推移)
・センサーデータ(IoTログ、設備データ)
MLPは入力形式の制約が少ないため、まずMLPで基礎モデルをつくってみることが可能です。特にDXやAIプロジェクトの初期段階では、「導入ハードルが低い」、「計算資源が比較的少なくて済む」という点から、PoC(概念実証)に最適です。
PoC(概念実証)についてはこちらもご覧ください。
>>PoCとは?意味や検証内容、実施するメリット・デメリットを解説のページへ
モデル構造のシンプルさと実装のしやすさ
MLPはニューラルネットワークの中ではシンプルな構造であり、実装難易度が低いのもメリットです。
複雑なモデル(CNNやTransformers)に比べて開発リソース、必要なデータ量、計算コストを比較的抑えられます。またMLPは、順伝播、誤差逆伝播、勾配降下法という基本的な仕組みで動作するため、学習プロセスが理解しやすいというメリットもあります。
MLPでできることや得意なタスク
MLPは機械学習モデルのなかでも非常に幅広い課題に対応できる汎用的なモデルです。ビジネス領域では、分類・予測・スコアリング・異常検知など、さまざまな用途で活用できます。
ここではMLPで実現できることや得意なタスクについてご説明します。
さまざまな形式のデータの機械学習
MLPは、数値・カテゴリ・文章・時系列・センサーなど、多彩なデータ形式に対応できます。
たとえば、ビジネスにおける以下のようなデータを学習することが可能です。
・売上データ
・顧客データ
・アクセスデータ
・問い合わせ文の分類
・クレーム内容の自動仕分け
・製造設備の稼働データ
・物流量や在庫などのデータ
MLPは入出力の形式がシンプルなため、データさえ準備できれば扱える範囲が非常に広いことが特徴です。
非線形な分類問題への対応
MLPは複雑なパターンを学習できるという点で非常に優れています。
従来の単純な機械学習モデルは、「直線で区切れるシンプルな分類」、つまり線形分離にしか対応できないものが多くありました。しかし、MLPは活性化関数や多層構造のおかげで、非線形な分類問題も扱うことができます。
たとえば、次のような問題を扱うことが可能です。
・購入する顧客/しない顧客の特徴が複雑に入り組んでいる
・画像のなかにある物体を分類したい
・単純なルールでは説明できないユーザーの行動パターン分析
・医療データや金融データのように関係性が複雑な領域
こうした「複雑な境界が存在するデータ」に対応できる点が、MLPが現在でも活用され続ける理由のひとつです。
具体的には以下のような用途に使用されます。
・需要予測(小売・物流)
・売上予測(飲食・EC)
・スコア予測(マーケティング施策の反応率)
・リスクスコアリング(金融・保険)
・在庫の最適化(製造・卸)
MLPの課題と限界
MLPは汎用性が高く、扱いやすいモデルですが、近年はより複雑なモデル(CNN・LSTM・Transformer など)に置き換えられる場面も増えています。その背景にある、MLPの「限界」や「課題」について解説します。
勾配消失問題・過学習のリスク
MLPを活用するうえで知っておかなければならないのが、勾配消失問題と過学習のリスクです。
・勾配消失問題
MLPでは、勾配降下法という最適化アルゴリズムを用いて学習が行われます。MLPを多層にしすぎると、誤差逆伝播の計算が途中で小さくなりすぎることで学習が進まなくなる「勾配消失問題」が起こりやすくなります。
・過学習のリスク
MLPはパラメータ数が多いため、学習データに過剰に適応してしまう過学習が起こりやすいモデルでもあります。過学習が起こると、テストデータでは高精度でも実運用での予測の安定性が欠けるという問題が発生します。
過学習による問題を回避するためには、以下のような工夫が必要です。
・正則化(L2正則化、ドロップアウトなど)
・適切なデータ量の確保
・モデルの層数を調整
過学習についてはこちらもご覧ください。
>>過学習とは?機械学習で起きる原因や対策、解決方法について解説のページへ
パラメータ数の増大と計算コスト
MLPは、層や各層のノード数を増やすと急激にパラメータ数が増大するモデルです。パラメータ数が増大すると以下のような問題が発生します。
・訓練に時間がかかる
・メモリやGPUのコストが増加する
企業のオンプレ環境やエッジデバイスでは計算資源が限られることも多く、MLPが最適とは限らないケースもあります。
そのため、大規模データや高次元の特徴量を扱うときは、MLP以外のより効率的なモデルを選ぶことも必要です。
ブラックボックス性と説明可能性の課題
MLPの出力は、内部の計算結果に基づいていますが、「なぜその結果が出たのか」を説明することがむずかしいという問題もあります。これは、企業の導入現場でよく問題になるポイントです。
たとえば、以下のような説明責任が求められる業務では、特に注意が必要です。
・金融の審査
・医療診断支援
・行政サービスの自動化
・保険の査定
このような領域では、AIがどの情報を重視して判断したのかを説明できることが求められます。
MLPの最新動向と今後の可能性
ニューラルネットワークの基本形態として開発されたMLPの、今後の動向や将来性について解説します。
大規模モデル時代におけるMLPの位置づけ
大規模モデル時代になった現在ですが、大規模モデルとMLPを使いわける「すみわけ」の重要性が高まっています。
近年は巨大なデータと計算資源、複雑なタスクがある領域ではTransformerや他の高度なアーキテクチャが活用されています。しかし、すべてのタスクでそれが最善とは限りません。特に、追加コストが増大する点、過剰適合のリスク、推論コストなどを考えると、小〜中規模なタスク、または、明確な目的があるタスクではMLPを使う合理性があります。
実際、「特徴量が整理できており、すでに形式化された入力があるタスク」では、MLPはいまなお「軽くて、はやくて、安定」な選択肢です。
軽量モデル・エッジAIでのMLP活用
近年はクラウド・サーバー中心のAIから、デバイス上で動くAI、いわゆる「エッジAI」が注目されています。こうした環境では、「軽量で、計算資源・メモリ消費が小さいモデル」が求められますが、MLPはまさにこの条件に合致します。たとえば、IoTや組み込み機器など「重くなれない」「即応性が求められる」環境では、MLPが改めて注目を集めています。
エッジAIだけでなく、クラウド上であっても、計算コスト・GPUメモリ・インフラ運用コストを抑えたい場合にはMLPは非常に有効です。複雑すぎない問題であれば、重厚なモデルよりもMLPによる軽量な推論の方が導入コストが低く、運用コストも安定します。
また、既存システムとの統合も比較的容易なため、既存データやシステム構成を大きく変えずに、AI導入が可能です。つまり、MLPはPoCやスモールスタートとして使い、小さく始めて徐々に拡張するという戦略と相性がよいのです。
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まとめ
MLPはシンプルですが奥が深く、長年にわたりAI分野で使われ続けてきた理由があります。そして今後も軽量化、エッジAI、実務システムとの統合などのトレンドにおいて、価値を発揮し続けるモデルです。
AI導入を進める企業にとって、MLPは「最初に理解しておくべき基本モデル」であり、また用途次第では最もコスト効率が高い選択肢となるケースも少なくありません。
企業へのAIの導入を検討する際に、MLPについて理解を深めておくことは非常に重要といえるでしょう。
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監修
株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
林 栄一
組織活性化や人材開発において豊富な経験を持つ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築し、現在新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当している。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。勉強会やカンファレンス、最近では生成AI関連のイベントに多数登壇している。チームワークの価値を重んじ、社会にチームでの喜びを広める使命をもつ。
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
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