Introduction
DXの推進やIT活用の高度化により、多くの企業でプロジェクトの数と複雑さが急速に増しています。その中で、プロジェクトの成否を大きく左右する存在がPM(プロジェクトマネージャー)です。どれほど優れた戦略や技術があっても、プロジェクトを適切に管理・推進できなければ、期待した成果を得ることはできません。しかし、即戦力となるPMは市場でも不足しており、外部採用だけに頼ることには限界があります。
こうした背景から、近年では「PMを社内で育成すること」が重要な経営課題として注目されています。この記事では、PMの基本的な役割やPLとの違いから、PM育成が求められる理由、必要なスキル、具体的な育成ステップ、成功のポイントまでを体系的に解説します。
目次
PM(プロジェクトマネージャー)とは

PM(プロジェクトマネージャー)とは、プロジェクト全体の責任者として計画から実行、完了、そしてその後の事業成果や運用・改善までを統括・把握する役割を担う人材です。ITシステム開発やDX推進に限らず、新規事業の立ちあげや業務改革など、近年ではあらゆる分野でPMの重要性が高まっています。
PMの最大の役割は、「プロジェクトを成功に導くこと」です。そのために期限・コスト・品質という三つの要素のバランスを取りながら、関係者をまとめ、意思決定を行います。単に作業を管理するだけではなく、経営層の意図を現場に伝え、現場の状況を経営層に正しく報告する「橋渡し役」でもあります。
企業経営の視点で見ると、PMは「現場の実行力を左右する存在」といえます。どれほど優れた戦略や計画があっても、それを実行するプロジェクトが失敗すれば、期待した成果は得られません。そのため、PMの力量はプロジェクト単体の成否だけでなく、企業全体の競争力にも直結します。
PL(プロジェクトリーダー)との役割の違い
PMと混同されやすい役割に、PL(プロジェクトリーダー)があります。両者は似た立場に見えますが、担う責任の範囲と視点が異なります。
PMはプロジェクト全体を俯瞰し、最終的な成果に対して責任をもつ立場です。スケジュールや予算の管理、リスク対応、ステークホルダーとの調整など、経営的な視点を含めた判断が求められます。一方でPLは、主に現場の実行責任者としてチームメンバーをまとめながら日々の業務を推進する役割を担います。
たとえば、PMが「このプロジェクトをいつまでに、いくらで、どの品質でどこまでもっていくか」を決める立場だとすると、PLは「その方針をもとに、現場でどう動くか」を考え、メンバーを導く存在です。PMは外部や経営層との調整が多く、PLは内部メンバーとの関わりが中心になる傾向があります。
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PMの育成が必要な理由
近年、多くの企業でPM(プロジェクトマネージャー)の育成が重要な経営課題として認識されるようになっています。その背景には、IT活用の高度化や事業環境の変化などにより、従来のやり方ではプロジェクトを成功させにくくなっている現状があります。
ここでは、PMの育成が必要な理由について解説します。
IT人材不足
PM育成が求められる大きな理由の一つが、深刻化するIT人材不足です。IT活用の高度化が急速に進み市場全体でITエンジニアが不足しているなか、豊富な経験とマネジメント力を兼ね備えたPMは、さらに希少な存在となっています。
即戦力としてPMを担える人材を外部から採用しようとしても、採用コストが高く、採用自体が難しいケースも少なくありません。また採用できたとしても、自社の業務や文化に適応するまでには一定の時間がかかります。そのため、多くの企業では「社内人材を育ててPMにする」方針へとシフトしているのです。
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DXの推進による需要増加
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も、PM需要が急増している理由の一つです。DXは単なるシステム導入ではなく、業務プロセスやビジネスモデルそのものを変革する取り組みであり、多くの関係者を巻き込む大規模なプロジェクトになりやすい特徴があります。
このようなDXプロジェクトでは、ITの知識だけでなく業務理解や部門間調整、経営視点での意思決定が不可欠です。その中心に立つのがPMであり、適切なPMがいなければプロジェクトが迷走したり、期待した成果が得られなかったりするリスクが高まるでしょう。
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PMに求められるスキル
PMには、専門的なIT知識だけでなく、幅広いスキルが求められます。プロジェクトは人・組織・業務が複雑に絡み合うため、特定の能力だけでは対応できません。企業がPM育成を考える際には、「どのようなスキルを段階的に身につけさせるのか」を明確にすることが重要です。
ここでは、PMに求められる3つのスキルについて解説します。
ヒューマンスキル
ヒューマンスキルとは、対人関係や組織運営に関わるスキルのことです。PMは多くのステークホルダーと関わる立場にあるため、このスキルがプロジェクトの成否を大きく左右します。
代表的なものとして、交渉力やコミュニケーション能力があげられます。PMは経営層、現場メンバー、外部ベンダーなど、立場や利害の異なる人々の意見を調整しながら、合意形成を行う必要があります。またプロジェクトが困難な状況に直面した際には、リーダーシップを発揮し、チームの方向性を示す役割も求められます。
さらに、メンバーのモチベーション管理も重要な要素です。進捗が遅れたり、トラブルが発生したりした場合でも、冷静に状況を整理し、前向きに行動できる雰囲気をつくることがPMには求められます。課題解決力や感情面への配慮も、ヒューマンスキルの一部といえるでしょう。
テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、プロジェクトを計画・実行するための実務的な知識や手法を指します。PMは、必ずしもエンジニアのように自ら実装できる必要はありません。しかし、開発者がどのような作業を、どのような手順で進めているのか(要件定義、設計、実装、テスト、リリースなど)を理解したうえで、プロジェクト全体を管理するための基礎知識を備えておくことが不可欠です。
具体的にはプロジェクト計画の立て方、スケジュール管理、進捗管理、コスト管理、リスクマネジメントなどのためのマネジメント知識が必要です。これらが不十分だと、計画の遅延や予算超過といった問題が発生しやすくなります。また業務知識はもちろんのこと、IT関連のテクノロジー知識が求められる場合も多いでしょう。
コンセプチュアルスキル
コンセプチュアルスキルとは、物事の本質を捉え、全体像を考える能力です。PMは日々多くの情報に触れるため、表面的な事象に振り回されず、「プロジェクトの完了」だけでなくその先にある事業成果や運用・改善まで見据えて意思決定する力が求められます。
近年はアジャイル開発のように継続的に進行する取り組みや、複数プロジェクトが相互に影響し合うケースも増えており、プロジェクトを「単体で完結するもの」として捉えると判断を誤りやすくなります。こうした前提のもとで、論理的に考える力、自由な発想ができる能力、多面的な視野、柔軟性などが必要です。
たとえば、「なぜこの取り組みを行うのか」「継続運用や次の施策につながる形で、どのような価値を生み出すのか」といった視点を常にもちつづける必要があります。この視点が欠けると、手段が目的化し、プロジェクトが本来の狙いから逸れてしまうでしょう。
PM育成の流れ

ここでは、多くの企業で取り入れられている代表的な育成の流れをご紹介します。
STEP1:適する人材の選定
PM育成の第一歩は、PMに適した人材を選定することです。すべての社員がPMに向いているわけではないため、まずは候補者を見極める必要があります。
一般的に、PMに向いている人材の特徴としては責任感が強いこと、周囲と円滑にコミュニケーションが取れること、状況の変化に柔軟に対応できることなどがあげられます。また技術力の高さよりも、物事を整理して考える力や、周囲を巻き込む姿勢が重視される傾向にあります。
この段階では、現状のメンバーがどのような強みや課題をもっているのかを可視化することが重要です。上司の主観だけで判断するのではなく、業務実績や周囲からの評価を踏まえて選定することで、育成の成功確率を高めることができます。
STEP2:基礎知識の習得
PMに必要な基礎知識は、座学や研修を通じて体系的に学ばせることが効果的です。プロジェクト管理の基本的な考え方や用語、進め方を理解していないまま実務に入ると、混乱や失敗につながりやすくなります。
具体的にはOJT、社内研修、eラーニング、外部セミナーなど、企業の状況に応じた学習方法を組み合わせるとよいでしょう。特に業務と並行して学べるeラーニングは、多忙な社員にとって取り入れやすい手段です。
STEP3:小規模案件での実践
基礎知識を学んだ後は、実際のプロジェクトを通じて経験を積ませることが欠かせません。いきなり大規模案件を任せるのではなく、小規模なプロジェクトを任せる、サブリーダーやPMアシスタントとして参画させる、などが望ましいでしょう。
初期段階では、経験豊富なPMとペアでプロジェクトを進める「ペアプロジェクトマネジメント」も有効です。実務の中で意思決定の考え方や判断基準を間近で学ぶことで、座学だけでは得られない知見が身につきます。
徐々に権限や責任範囲を広げていくことで、本人の自信と実践力が高まり、PMとして自立できる状態へと近づいていきます。
STEP4:フィードバック
PM育成において、フィードバックは非常に重要なプロセスです。1つのプロジェクトが終わるごとに振り返りを行い、よかった点や改善すべき点を明確にします。
特に重要なのは、失敗を否定的に捉えないことです。トラブルや判断ミスが起きた場合でも、その原因や対策を整理し、知識として共有することで、組織全体の学習につながります。個人の経験で終わらせず、次のプロジェクトに活かす仕組みをつくることが、PM育成を成功させるポイントです。
PM育成のポイント
PM(プロジェクトマネージャー)の育成を成功させるためには、単に研修を実施するだけでは不十分です。育成を「仕組み」として定着させ、継続的に回していくことが重要になります。ここでは、重要なPM育成のポイントについて解説します。
PM育成の環境を整える
まず重要なのは、PMを育成しやすい環境を整えることです。個人の努力に任せるのではなく、組織として育成を支援する姿勢を明確にする必要があります。
具体的には、育成ノウハウの整理や共有があげられます。過去のプロジェクト事例やトラブル対応の記録を蓄積し、誰でも参照できる状態にしておくことで、学習効率が高まります。また研修や資格取得に対する費用補助、学習時間の確保なども、社員の成長を後押しする要素となります。
状況判断能力や思考力を養う
PMにとって重要なのは、正解のない状況でも判断を下す力です。プロジェクトでは状況によって最適な対応が異なるため、マニュアル通りに進めるだけでは対応できない場面が多くあります。
そのため育成の場では、指導者がすぐに答えを与えるのではなく、「どう考えるか」を重視する姿勢が求められます。候補者自身に状況を整理させ、複数の選択肢を考えさせたうえで判断の理由を説明させることで、思考力や判断力が鍛えられます。
このようなプロセスを繰り返すことで、経験が知識として蓄積され、応用力のあるPMへと成長していきます。
PMとしての業務を経験させる
PM育成において、実務経験は欠かせません。座学や研修だけでは、実際のプロジェクトで求められる判断力や調整力は身につかないためです。
そこで有効なのが、PMアシスタントやサブPMとして業務を経験させる方法です。責任範囲を限定しながらも、実際のプロジェクト運営に関わらせることで、リアルな課題に直面する機会を提供できます。
また、ペアプロジェクトマネジメントのように経験豊富なPMと一緒に案件を進めることで、実践的なノウハウを学ぶことができます。こうした経験を積み重ねることが、PMとしての自信とスキルの定着につながります。
PMに役立つ資格
PMの育成において資格は必須ではありませんが、知識の体系化やスキルレベルの可視化という点で有効な手段です。特に社内で育成を進める際には、共通の基準として資格を活用することで、育成の方向性を揃えやすくなります。
ここでは、PM育成に役立つ代表的な資格を紹介します。
プロジェクトマネージャ試験(IPA)
プロジェクトマネージャ試験は、情報処理推進機構(IPA)が実施する国家試験です。日本国内での認知度が高く、PMとしての知識と実務理解を体系的に問われる点が特徴です。
試験内容は、プロジェクト計画、品質管理、リスク管理、組織運営など幅広く、実務経験を前提とした設問が多く出題されます。社内でPM育成の目標設定として位置づける企業も少なくありません。
PMP®(Project Management Professional)
PMP®は、米国のPMI(Project Management Institute)が認定する国際資格です。世界的に認知度が高く、グローバル案件に関わるPMにとっては特に有用です。
PMP®を取得すれば、国や業界を問わず通用する標準的なマネジメント手法を学ぶことができます。PMとしての基礎力を体系的に身につけたい場合に適した資格といえるでしょう。
P2M資格試験
P2M資格試験は、日本独自のプロジェクト・プログラムマネジメント資格です。PMC資格試験、PMSプログラム資格試験、PMS資格試験、PMR資格試験の4種類があります。
単なるプロジェクト管理にとどまらず、複数のプロジェクトを統合的に管理する「プログラムマネジメント」の考え方を学べる点は、管理職層のPM育成にも適しています。
PMOスペシャリスト認定資格
PMOスペシャリスト認定資格は、プロジェクトマネジメントを支援するPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の役割に特化した資格です。進捗管理や標準化、プロセス改善など、組織全体のプロジェクト推進力を高める視点が重視されます。
将来的に複数のPMを支援する立場や、全社的なプロジェクト管理体制を整備したい企業にとって、有効な資格といえるでしょう。
社内でPM育成ができない場合の対処法
PM(プロジェクトマネージャー)の重要性を理解していても、社内リソースやノウハウの不足により十分な育成ができないケースは少なくありません。そのような場合には、無理に内製にこだわらず、外部の力を活用することも現実的な選択肢となります。
外部のPM研修・育成サービスの活用
外部のPM研修・育成サービスを活用することで、体系化された知識を効率的に学ばせることができます。社内で一から育成プログラムを設計する必要がなく、短期間で一定レベルの知識を身につけられる点が大きなメリットです。
また、外部研修では他社事例や実践的なケーススタディに触れる機会も多く、自社内だけでは得られない視点を取り入れることができます。これによりPM候補者の視野が広がり、より柔軟な判断ができるようになります。
即戦力フリーランスPMやコンサルタントの登用
もう一つの選択肢が、即戦力となるフリーランスPMやコンサルタントを登用する方法です。豊富な経験をもつ外部人材を活用することで、すぐにプロジェクトへ参画し活躍させることができ、短期的な成果を出しやすくなります。
特に、立ちあげフェーズやトラブル対応が求められるプロジェクトでは、経験値の高いPMの存在が大きな支えとなります。また外部PMのノウハウを社内に共有することで、将来的な内製化につなげることも可能です。
ただしIT人材不足の影響もあり、フリーランスPMやコンサルタントを確保する際には、社内で育成するよりも金銭的・時間的コストがかかる場合があります。そのため、中長期的には社内育成と外部活用を組み合わせたバランスの取れた戦略が重要となるでしょう。
まとめ
PM(プロジェクトマネージャー)の育成は、単なる人材教育ではなく、企業の実行力と競争力を高めるための重要な経営施策です。DXの推進や事業環境の変化により、プロジェクトの数と難易度が増す中で、PMの質が成果を大きく左右する時代になっています。
社内だけでの育成が難しい場合には、外部研修や即戦力人材の活用も有効な選択肢となります。重要なのは、自社の状況にあった方法を選び、短期的な成果と中長期的な人材育成を両立させることです。
経営層がPM育成の重要性を理解し、明確な方針を示すことで、組織全体のプロジェクト推進力は大きく向上します。PM育成への取り組みは、将来の事業成長を支える基盤づくりであり、今後ますます重要性を増していくでしょう。
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監修
株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
永井 敏隆
大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。
担当講座
・コンポーネントテスト講座
・テスト自動化実践講座
・DevOpsテスト入門講座
・テスト戦略講座
・設計品質ワークショップ
など多数
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
SHIFTが事業運営において培ったノウハウを言語化・体系化し、講座として提供しており、品質に対する意識の向上、さらには実践的な方法論の習得など、講座を通して、お客様の品質課題の解決を支援しています。
https://service.shiftinc.jp/softwaretest/hinshitsu-univ/
https://www.hinshitsu-univ.jp/
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