Introduction
AIやディープラーニングの活用が、企業の競争力を左右する時代になっています。しかし、「AIに関する専門知識がむずかしそう」「導入に時間やコストがかかりそう」と感じ、なかなか一歩を踏み出せない企業も多いのではないでしょうか。
Keras(ケラス)は、このような課題を解決するために生まれたディープラーニング用ライブラリです。シンプルで直感的な設計により、短期間でAIモデルの試作や検証が可能となり、ビジネスへの適用可否をすばやく判断できます。
この記事では、Kerasの基本的な考え方から特徴、具体的にできること、導入方法、実際の活用事例までをわかりやすく解説します。
目次
Kerasとは

まずはKerasとはどのようなものなのか、他のライブラリとの違いなどについて解説します。
Pythonで記述された高レベルのニューラルネットワークAPI
Kerasとは、ディープラーニング(深層学習)を効率よく開発するためのライブラリです。ディープラーニングは画像認識や音声認識、需要予測など、近年のAI活用の中核となる技術ですが、その開発には高度な専門知識と多くの工数が必要でした。
Kerasは、このような課題を解消するために生まれた仕組みで、AI開発をできるだけシンプルに、わかりやすく行えることを目的としています。
Pythonというプログラミング言語で記述された高レベルのニューラルネットワークAPIですが、Pythonは文法が平易で読みやすく、エンジニア以外にも理解しやすい言語として世界的に広く利用されています。そのためKerasも比較的学習コストが低く扱いやすいという特徴があります。
「高レベルAPI」とは、細かい内部処理を意識せずに、目的に集中して操作できる仕組みを指します。通常、ニューラルネットワークを一から実装する場合には、数式や重みの更新処理などを詳細に記述する必要があります。しかしKerasでは、「どのようなAIを作りたいか」を指定するだけで内部処理が自動的に実行され、必要なAIを開発することが可能です。
この仕組みにより、Kerasには以下のメリットがあります。
・AI開発の試作が短期間で行える
・実験と改善を繰り返しやすい
・人材育成や引き継ぎの負担が小さい
経営判断において重要な「スピード」と「再現性」を両立しやすい点が、Kerasの大きな価値といえるでしょう。
ディープラーニング(深層学習)についてはこちらもご覧ください。
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画像認識についてはこちらもご覧ください。
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音声認識についてはこちらもご覧ください。
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バックエンドライブラリとの連携
Kerasは単独で高度な計算を行うのではなく、「バックエンド」と呼ばれる計算エンジンと連携して動作します。代表的なバックエンドとしてはTensorFlowがあげられます。
バックエンドとは、AIモデルの学習や推論を高速に処理するための基盤技術です。Kerasはその「操作画面」のような役割を担い、実際の計算はバックエンドが担当します。この分業構造により、Kerasは使いやすさと高性能を両立しています。
現在では、KerasはGoogle社が開発したTensorFlowを主要なバックエンドとして統合されており、「TensorFlow Keras」として利用されるケースが一般的です。これにより、Googleのクラウド基盤やGPU・TPUなどの高速計算環境も活用しやすくなっています。(2023年11月にリリースされたKeras 3.0では、TensorFlowの他にもJAXやPyTorchをサポートしています)
TensorFlowについてはこちらもご覧ください。
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AIモデルに関してはこちらもご覧ください。
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他のディープラーニングライブラリとの違い
ディープラーニングの代表的なライブラリには、TensorFlow(テンソルフロー)やPyTorch(パイトーチ)があります。Kerasはそれらと比較して、「使いやすさ」と「理解しやすさ」を最優先して設計されている点が特徴です。
TensorFlowはGoogle社が開発した深層学習のフレームワークです。非常に高機能で大規模なシステム開発に向いていますが、コードの記述が複雑になりがちです。
一方、PyTorchは比較的新しい深層学習フレームワークで、Facebook(現Meta)のAIグループによって開発されました。柔軟性が高く研究用途で人気がありますが、一定の専門知識が求められます。
これに対してKerasは、
・コード量が少なく直感的
・学習コストが低い
・試作や小規模開発に強い
という特性をもっています。そのため、AIをはじめて業務に取り入れる企業や、新規事業の検証フェーズに特に適しています。
Kerasの特徴
Kerasが多くの企業や開発現場で選ばれている理由は、その「扱いやすさ」と「実務への適用しやすさ」にあります。ここでは、企業が導入する際に押さえておくべきKerasの主な特徴について解説します。
シンプルで直感的なAPI
Keras最大の特徴は、シンプルで直感的なAPI設計です。AIモデルの構造を、部品を積み上げるような感覚で定義できるため、複雑な数式や専門用語を深く理解していなくても開発を進められます。
また、開発したAIモデルの仕組みがブラックボックスになりにくい点もメリットです。結果として開発者同士だけでなく、企画担当者やマネジメント層とも共通認識をもちやすくなります。その結果、開発作業が属人化しにくく、チームでの運用や引き継ぎがしやすいというメリットを得られるでしょう。
高速なプロトタイピング
Kerasは、AIモデルの試作を非常に短時間で行える点が強みです。数十行程度のコードで基本的なモデルを構築できるため、「まずは試してみる」というアプローチが現実的になります。
この特性は、新規事業開発やPoC(概念実証)において非常に有効です。企業がAIを導入する際には、「本当に業務に使えるのか」「投資に見合う効果があるのか」を早期に判断する必要があります。そこでKerasを使えば、仮説検証のサイクルを高速で回すことができます。
結果として、
・無駄な開発投資を抑えられる
・意思決定のスピードが向上する
・市場変化への対応力が高まる
などの経営上のメリットにつながるでしょう。
柔軟な拡張性
Kerasはシンプルでありながら、必要に応じて高度なカスタマイズが可能です。標準機能だけでなく、独自の処理やアルゴリズムを組み込むこともできます。
初期段階ではKerasの標準機能を使って素早くAIを構築し、事業が成長した段階でより高度な処理へ拡張する、といった段階的な活用が可能です。この柔軟性により、スモールスタートから本格運用への移行がスムーズに行えます。
経営的には「最初から完璧を目指さず、成長に合わせて投資を拡大できる」という点で、リスクを抑えてAIを導入できるというメリットを得られるでしょう。
クロスプラットフォーム対応
KerasはCPU、GPU、TPUなどの異なる計算リソースに対応し、またクラウド環境にも対応しています。そのため、開発初期は手元のPCで検証し、本番運用ではクラウド上の高性能環境に移行するなども実現可能です。
このクロスプラットフォーム対応により、
・初期コストを抑えた検証
・利用状況に応じたスケールアップ
・インフラ投資の柔軟な最適化
なども実現できます。
ITインフラに大きな変更を加えずに導入できる点は、経営判断において大きな安心材料となるでしょう。
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複数バックエンドエンジンに対応
Kerasは現在TensorFlowとの統合が主流ですが、TensorFlowをはじめとする複数のバックエンドエンジンに対応してきました。この設計思想自体がKerasの強みを表しています。
この設計によりバックエンドを意識せずに開発できるため、技術の進化や環境変化に柔軟に対応できます。将来的により高性能な計算基盤が登場した場合でも、Kerasを使った開発資産を活かしやすい構造になっています。
これは特定技術への過度な依存を避け、長期的なIT投資の安定性を確保するという点で、経営層にとって大きなメリットとなるでしょう。
Kerasでできること

Kerasは、ディープラーニングを用いたさまざまなAI活用を実現できるライブラリですが、具体的に何を実現できるのでしょうか?ここでは、Kerasでできることについて解説します。
画像認識
Kerasは画像データを分析し、画像の内容を自動で判別するAIを構築できます。代表的な用途としては、画像分類や物体検出があります。
たとえば、
・製品画像を自動で分類する
・工場の検査工程で不良品を検出する
・防犯カメラ映像から特定の対象を検知する
などの活用が可能です。人の目で行っていた確認作業をAIが担うことで、作業の省力化や品質の均一化が期待できます。
人手不足への対応や業務効率化、品質向上などの課題解決に直結する技術といえるでしょう。
音声認識
Kerasを使えば、音声データを分析し、人の話し言葉を文字データに変換する音声認識システムも構築できます。これはコールセンターや会議記録の自動化などに活用されています。
具体的には、
・顧客との通話内容を自動で文字起こしする
・問い合わせ内容を分析し、改善点を抽出する
・音声入力による操作性を向上させる
などの使い方が考えられます。
音声データはこれまで活用がむずかしい領域でしたが、AIにより「分析可能な経営資産」へと変わりつつあります。
文章の生成
Kerasは、テキストデータを学習させることで文章を生成したり、文章の特徴を理解したりするAIの開発にも利用できます。これは自然言語処理と呼ばれる分野です。
たとえば、
・レポートや要約文の自動生成
・商品説明文の作成補助
・大量の文章データから傾向を把握する
などの活用が可能です。文章作成業務の一部をAIが支援することで、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるでしょう。
情報処理スピードの向上や業務生産性の改善につながる点が重要なポイントです。
チャットボットの作成
Kerasを活用すると、自動応答型のチャットボットを構築することも可能です。チャットボットは、Webサイトや社内システムでの問い合わせ対応に広く使われています。
チャットボットの導入による具体的な効果としては、
・24時間対応による顧客満足度向上
・問い合わせ対応コストの削減
・社内ヘルプデスク業務の効率化
などがあげられます。単純な質問対応をAIに任せることで、人はより高度な対応に集中できるようになるでしょう。
時系列データの予測
Kerasは、LSTM(Long Short-Term Memory)などのモデルを用いて過去のデータから将来を予測するAIを構築できます。これは時系列データの予測と呼ばれ、ビジネスとの親和性が非常に高い分野です。
たとえば、
・売上や需要の予測
・在庫量の最適化
・設備故障の予兆検知
などの活用が可能です。経験や勘に頼っていた判断を、データに基づく意思決定へと進化させることができます。時系列データの予測は、リスクの低減と利益の最大化を支援する重要な技術といえるでしょう。
LSTM(Long Short-Term Memory)についてはこちらもご覧ください。
>>LSTM(長・短期記憶)とは?RNNとの違いや仕組み、活用事例まで解説のページへ
Kerasのインストール方法
Kerasを利用するためには、まず開発環境にKerasをインストールする必要があります。近年は環境構築が大幅に簡略化されており、専門知識がなくても比較的スムーズに導入できるようになっています。
ここでは、企業でよく採用される代表的な2つのインストール方法の概要について解説します。
Anacondaを利用したインストール
Anaconda(アナコンダ)とは、PythonとAI開発に必要な主要ライブラリをまとめて管理できる環境構築ツールです。Kerasを含む多くのAI関連ライブラリがあらかじめ整理されており、インストールやバージョン管理が容易になります。
Anacondaを利用するメリットは以下のとおりです。
・環境構築の手間が少ない
・ライブラリ同士の不具合が起こりにくい
・チーム内で同一環境を再現しやすい
特に、社内で複数人がAI開発に関わる場合や、外部ベンダーと共同でプロジェクトを進める場合には、Anacondaによる環境統一が有効です。
pip経由でインストール
pip(ピップ)とは、Pythonの標準的なパッケージ管理ツールです。すでにPython環境が整っている場合は、pipを使ってKerasを直接インストールすることも可能です。
pipを利用する特徴は、
・必要なライブラリだけを個別に導入できる
・シンプルで軽量な構成にできる
・既存システムとの統合がしやすい
などの点にあります。一方で、ライブラリの依存関係やバージョン管理には注意が必要です。そのため、ある程度ITリテラシーのある担当者が管理する前提となります。
既存のIT環境を活かしつつ、最小限の構成でAI開発をはじめたい場合に適した方法といえるでしょう。
Kerasの活用事例
ここでは、Kerasが実際のビジネスでどのように活用されているのか、代表的な事例をご紹介します。
サブスクリプションサービスのサジェスト機能
動画配信サービスを展開するNetflixでは、利用者一人ひとりに最適な作品を提案する「レコメンド機能」がサービスの競争力を支えていますが、このシステムにはKerasを含むディープラーニング技術が活用されています。このレコメンド機能は、視聴履歴、検索履歴、評価データなどの膨大なデータを学習し、ユーザーの好みを高精度で予測することが可能です。
この活用事例は、顧客満足度の向上と解約率の低下を同時に実現する施策として、AI活用の成功例といえるでしょう。
サービス提供の需要予測
配車サービスを提供するUberでは、時間帯やエリアごとの需要を予測し、効率的なサービス提供を行っています。この高精度な需要予測も、Kerasを含むディープラーニング技術が活用されています。
具体的には、過去の利用データや天候、曜日、イベント情報などをもとに、将来の需要を予測することで、
・ドライバー配置の最適化
・待ち時間の短縮
・サービス品質の安定化
を実現しています。Kerasを使えば、このような予測モデルを比較的短期間で構築・改善できます。
医療分野でのサポート
医療分野でも、医療画像の識別システムなどがKerasで開発されています。具体的には、医療画像を解析して異常の可能性を提示するシステム、過去の症例データをもとに診断の参考情報を提供するシステムなどで、医師の負担軽減と診断精度向上に貢献しています。
このような医療システムを開発することで、
・医療品質の向上
・人材不足への対応
・業務効率化
につながります。このような高度かつ責任の重い分野でも、Kerasが実用レベルで活用されている点は注目すべきでしょう。
まとめ
この記事ではKerasとは何かという基本から、その特徴、できること、インストール方法、そして実際の活用事例までを解説しました。
Kerasは、ディープラーニングという高度な技術を、ビジネスの現場で使える形に落とし込むためのライブラリです。シンプルで直感的な設計でAI開発のハードルを下げ、短期間での試作や検証を可能にします。この「スピード感」は、市場環境が急速に変化する現代において、経営判断を支える重要な要素となるでしょう。
AI導入を検討する際、重要なのは「最新の技術を導入すること」ではなく、「事業課題をどう解決するか」です。Kerasは、その第一歩として、AI活用の可能性を低コスト・短期間で見極めるための有力な選択肢です。
今後、データ活用やAI導入を進めるうえで、Kerasはますます重要な役割を果たしていくと考えられます。
ビジネスに最新のAI技術を活用したい場合は、SHIFT のAIに関する豊富な専門知識をお役立てください。
監修
株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
林 栄一
組織活性化や人材開発において豊富な経験を持つ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築し、現在新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当している。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。勉強会やカンファレンス、最近では生成AI関連のイベントに多数登壇している。チームワークの価値を重んじ、社会にチームでの喜びを広める使命をもつ。
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
SHIFTが事業運営において培ったノウハウを言語化・体系化し、講座として提供しており、品質に対する意識の向上、さらには実践的な方法論の習得など、講座を通して、お客様の品質課題の解決を支援しています。
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