エプソンアヴァシス株式会社様 導入事例
エンジニアリング力強化の中心を担うエンジニアリング改革部にCATを導入
業務効率化から分析・戦略立案まで幅広く活用
Summary
セイコーエプソン株式会社のグループ企業として、組み込みシステム開発、サービス開発・運用、業務システム開発・運用などを主軸に事業展開している、エプソンアヴァシス株式会社様。
本インタビューでは、エプソンアヴァシス社における課題とCAT導入前後の活動や変化について伺いました。
■話し手
エプソンアヴァシス株式会社 エンジニアリング改革部
- 平賀 薫 様
2000年、エプソンコーワ株式会社(現エプソンアヴァシス株式会社)に入社。以来15年近く、プリンター関連のソフトウェア開発およびリーダーを担当。出産・育児休業を経て、かねてより関心を持っていた品質・ソフトウェアテストの領域へキャリアチェンジする。現在はテストエンジニアとして培った強みを活かしつつ、全社横断部門のマネージャーとして、自社のエンジニアリング力向上に尽力。社外では、個人の活動としてNPO法人ASTERの調査研究事業、教育事業に携わる。
- 菅野 浩司 様
1998年から、派遣エンジニアとしてセイコーエプソン株式会社の製品におけるソフトウェア開発・テストに従事。その後、2005年にエプソンアヴァシス株式会社に転職。現在は全社横断部門に所属し、開発プロセスの改善・改革に携わる。ソフトウェア品質向上を目的とするSQiP研究会で論文を執筆したり、ASTERが運営するテスト設計コンテストに参加したりするなど、社外でのキャッチアップも実施。
■目次
- 強みは、製品を熟知した信頼性の高い開発。業務イノベーションが生んだ新製品も
- 目指すは、より強みを発揮しやすい環境。実践を通じた知見共有が組織づくりのカギ
- 表計算ソフトとの親和性が高いCATでプロセスの統一を図る
- 業務効率化から分析・戦略立案まで。CATで広がる情報活用
強みは、製品を熟知した信頼性の高い開発。
業務イノベーションが生んだ新製品も
貴社はどのような製品を取り扱っているのですか?
当社は、「驚きと感動のデジタルサービスを創る」というミッションのもと、セイコーエプソン株式会社の製品を、当社の強みであるソフトウェアで支えています。具体的には、プリンターやスキャナー、プロジェクター、産業用ロボットなどのアプリケーション、ドライバー、ファームウェアについて開発からテストまで自社で一貫して行っています(以下、コア事業)。イノベーション領域では、保健指導プログラムや乾式オフィス製紙機「Paper Lab」のソフトウェアも取り扱っています。何十年にもわたり製品や事業に関わっており、取り扱うあらゆる製品を熟知していることが当社の強みですね。
今、会社として 新たにチャレンジしていることはありますか?
自社製品として、2023年7月に、消防団向けアプリケーション「コミュたす」をリリースしました。
コア事業を第一としつつ、新しいことにもどんどん挑戦していこうという思いをもって、既存業務を効率化することによって得られた時間を、新たなチャレンジや価値を生む活動に充てる「SIP活動 (Software Innovation Project)」を、2020年から始めています。「コミュたす」は、この活動から生まれたサービスの一つで、地域の消防団員として活躍する社員が主体となり地元の消防団関係者の協力を得てつくったアプリケーションです。
SIP活動がスタートして数年が経ちますが、社内にも浸透し、いくつかサービス化しそうなアイデアも生まれています。
目指すは、より強みを発揮しやすい環境。
実践を通じた知見共有が組織づくりのカギ
お二人が所属されているエンジニアリング改革部は、どんなミッションを持った組織なのでしょうか?
私たちの強みであるソフトウェアエンジニアリング力向上の加速と磨き上げを目指し、2023年4月にグループとして発足、10月に部へ昇格しました。
当社はこれまで製品開発と品質保証の精度や厳密なプロセス管理を大切にしてきました。加えてこれからは、環境変化に柔軟に対応しながら、いかにスピード感をもった価値創造をし続けられるかという視点も取り入れる必要があると考えています。エンジニアリング改革部では、そのスピードを加速するために、①仕事の進め方を下支えする「仕組みと継続的なカイゼン」、②自ら学ぶマインドを醸成する「経験や学びのフィードバックループ」、③方法論としての自動化・CI/CDといった「技術」の三本柱を軸とした支援に取り組んでいます。
具体的にはどんな組織体制なのですか?
所属メンバーは19名(2024年4月現在)で、コア事業に深く関わりながら業務プロセスの改革を実践していく部隊と、品質や開発・スクラム・CI/CDなどさまざまな専門家を集めた部隊、自社製品の開発に関わる部隊で構成されています。この体制は、私たちが各開発現場にアドバイザー的な立ち位置のみで関わるのではなく、現場の中により入り込んで価値を提供しながら、そこで得られた知見を持ち帰り、ほかの現場にも活かすというフィードバックループをまわせるように設計しています。そのためにそれぞれが現場の一員として実践者でもあるということにこだわっています。
昨年度は、プロセスや仕事のやり方をカイゼンする必要性を改めて社内に根付かせていくということをテーマに活動していました。2024年度は、開発現場との連携を強め、ソフトウェアエンジニアリング力の向上と更なる磨き上げを目指し、全社巻き込み型の活動をさらに強めていきます。
表計算ソフトとの親和性が高いCATで
プロセスの統一を図る
多くの製品を扱う中で、どのようなテストを行っているのですか?
まず前提として、私が担当する業務では製品を出荷する前の第三者検証業務を中心に行っています。
エプソングループでは、製品の品質を担保するためにソフトウェアデザインレビューを行っており、設計・開発・テストの各フェーズにおいて完了基準を設けています。テストにおいてはテスト開始・終了基準が設定され、テストの活動情報をもとにした品質のモニタリングが必要となります。障害の収束状況の可視化や障害発生数の予測との乖離(かいり)を見ながら、テスト完了の条件を満たせるかどうかを日々判断していきます。
テストの方法は製品ごとに異なります。事業所内にテスト対象の機器を持ち込んでテストすることがほとんどですが、私が以前担当したラージフォーマットプリンターのアプリケーション開発では、遠隔地にある製品の操作・情報を収集して検証を行うということもありました。
近年、それぞれの機器が対応する規格や機能が増えることで、テストしなければいけない非機能の範囲もかなり広がっています。技術が進化するスピードに合わせて私たちも進化する必要があります。そのスピード感の中で、テスト資産を素早く取り出して、必要なテストをいかに効率的に実施するかといったことも考える必要があり、仕組みづくりが難しいところでもあります。
厳しい品質要求に対応する技術を磨くためにはどのような取り組みをしていますか?
セイコーエプソン株式会社のテスト技術や品質管理に関する事業部横断活動に当社も参加し、情報交換をしています。私たちからも情報発信をしており、この活動の管理者ツール分科会では、CAT導入の内容やノウハウもフィードバックしました。ほかにはテスト自動化やテスト設計の分科会も立ち上がっています。かつては事業部ごとに壁があったこともありましたが、今は取り払われ、事業・部をまたいだ交流が活発になってきています。
CATを導入した際、どのような課題感がありましたか?
私が、あるプロジェクトのリーダーになったとき、表計算ソフトを利用してテストをしていた現場の担当者がいくつかの課題を感じていました。
- 進捗や品質の情報をタイムリーに拾いきるのが難しい
- 進捗の悪いところが見えていても、その原因はヒアリングをしないとつかめない
- テストケースの構成管理、派生開発の資産化がプロジェクトメンバー任せでテストケースの情報管理が難しい
これらを解決するために、いくつかのテストマネジメントツールを導入検討したのですが、当初現場で作成していたテスト仕様書をいかせるツールが見つかりませんでした。そんなとき、JaSST※に出展していたSHIFTのブースでCATの説明を受けました。CATが、表計算ソフトとの親和性を意識したツールであることを知り、進捗管理の課題解決やテスト設計プロセスの統一ができるのではと考えて、導入に至りました。
※JaSST :NPO法人ASTER (ソフトウェアテスト技術振興協会)主催のソフトウェアテストシンポジウム
業務効率化から分析・戦略立案まで。
CATで広がる情報活用
CAT導入時、苦労はありましたか?
導入直後は、根強く残る表計算ソフトを活用する文化により、既存のフォーマットや管理体制から移行することに現場は心理的ハードルがありました。ですから、新たな運用を無理やり適用するより、まずどんなメリットがあるかを体現しながら有用性を広めていくことが必要でした。
菅野自身がトライアルで効果を立証したり、「CAT Technical Officer」という社内向け肩書を独自でつくり、技術の共有会で費用対効果も含め発表したりもしました。そうすると徐々に適用するプロジェクトが増えていきました。その際に運用や機能の使い方などを試行錯誤したので、質問や運用の相談などをSHIFTにケアしてもらえたのはありがたかったですね。
実際に導入してみて効果をどこに感じていますか?
進捗状況の可視化を効率化することを狙ってCATを導入しましたが、実際に導入直後からテストの管理工数を10%程度も削減できました。削減できた分「本来はプロジェクト内でさらに提案すべき内容」にも時間をさけるようになりました。さらに現在は、一歩進んでプロジェクト品質の分析や日々のテスト実行にかかる戦略立案などにも活用しています。登録されているテストと障害の情報を集計できる機能により、進捗や品質を細かく分析できるようになりました。
例えばテスト戦略を提案をする際に、実際にCATの分析データを見せながら「こういう状況だからこういうテストをした方が良い」など説得力をもって説明できます。導入当初は進捗を可視化することがテーマでしたが、今は提案時に欠かせないツールの一つとなっています。打ち合わせで対話しながら、その場でスライスをすぐ変えて表現する機能を多く使っています。
遠隔のプロジェクトメンバーともオンラインで会議をしながら状況がタイムリーに共有できます。報告をチャットで欲しい人、メールで欲しい人、ニーズの異なるメンバーそれぞれに、ポンと情報をすぐ飛ばすことができます。私としては、状況を共有するためのレポート作成業務から開放してもらえたのがとても大きいですね。
利用するメンバーを増やす秘訣はありますか?
CATをまだ活用できていないメンバーもいますが、単に知らないから使わない、使えないという側面もあるのだろうと考えています。そのため、CAT利用者の声を通じてツールの機能自体や活用のメリットなどを知ってもらうために、部門横断で週1回30分、自由に参加できるLT会を始めました。資料作成などの準備なしで気軽に参加できるように設計していて、3か月で効果がなかったらやめるつもりで始めましたが、現場からの継続の声に背中を押され、現在も続いています。
LT会を運営されているのですね。どのようにメンバーを集めたのですか?
私から各部のマネージャーに声掛けをしたところ、テストに関わっているメンバーが集まってくれました。かつてテスト部隊がひとつの部署にまとまっていた時代があったおかげで、さまざまな製品 の担当者と関わりをもっていることが大きいと思います。私は現場のチカラというものを信じていて、エンジニア同士のつながりを強め、現場で課題解決を加速する流れをつくりたいというのがこの活動の真の狙いで、そのためにCATという共通言語を借りているというところです。また、コア事業のメンバーと部門の枠を超えて同一プロジェクトに関わることが多いのですが、その際にCATを使ってもらうという取り組みも開始して2年目に突入しました。関わってくれたメンバーからは、ダッシュボードで進捗がいつでもグラフィカルに分かるため、モチベーションが上がる、という声もありました。
実際に使用した方からポジティブなご意見があるのは嬉しいです。
お二人はCATの使用感に点数をつけるなら、10点中何点ですか?
9点ですね。あと1点はもっと幅広いテストケースの表現力かと思います。かなり前からデータパターンなどを複雑に組んでテストケースを組んでいる場合などがあり、そういった場合でもすっと入ることができると良いと感じています。
最後に、今後、CATにどんなことを期待していますか?
私たちは、今単体で動いているツール同士をつないで、開発プロセスの中に設計・実装・テストが組み込まれている状態をつくりたいと考えています。そのためCATには他ツールとの連携をさらに強化できるようになることを期待しています。また、品質やリスクの予測といったプロジェクトへの洞察・評価も横串で対応できるようになると良いですね。例えば、プロジェクトに対して分析をしてアラートや提案をしてくれる。ある程度精度が悪くても、ポジティブな意味合いでフラットな相棒になってくれると良いなと。テストリーダーは役割上、孤独を感じやすいのでそういう双方向性があると、一人で考え込まずクリエイティブな思考につながるのではないかなと思っています。
本日はお忙しいなか、ありがとうございました!
※掲載内容は2024年2月取材時のものです。
エプソンアヴァシス株式会社様