デジタルツインとは
デジタルツインとはどのような技術なのでしょうか。ここでは、デジタルツインの定義やメタバースなどとの違いについて解説します。
現実空間のデータをもとに、対となる環境を仮想空間に構築する技術
デジタルツインとは、現実空間のデータをIoTなどのデジタル技術を用いて収集し、仮想空間(サイバー空間)に現実空間の環境をコピーする技術です。
デジタルツインは「デジタルの双子」と訳されますが、現実空間と仮想空間が双子のようにそっくりな世界になることを表しています。
総務省公式サイトの『第1部 特集 新時代に求められる強靱・健全なデータ流通社会の実現に向けて』によると、以下のように定義されています。
デジタルツイン
デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実世界から集めたデータを基にデジタルな仮想空間上に双子(ツイン)を構築し、様々なシミュレーションを行う技術である。
デジタルツインの技術は、製造現場などで活躍します。たとえば、自動車が事故を起こした際や、建物が災害に見舞われた際に、どのような状態になるのかなどを再現できます。事故や災害などの状況をつくり出すことは実際には困難ですが、デジタルツインの技術を活用すれば仮想空間のなかで容易に再現可能です。
デジタルツイン技術で現実空間をコピーした世界を仮想空間につくりあげることで、新製品の開発時のコスト削減や品質の向上に役立ちます。さらに、自然災害発生時の影響の分析や予防策の検討など、製造分野以外でも活躍しています。
メタバースやシミュレーションとの違い
デジタルツインとよく似たものに、メタバースやシミュレーションがありますが、何が違うのでしょうか。
メタバースは、デジタルツインのように現実世界をリアルに再現するものではありません。その目的は、ゲームなどでの異世界体験や、離れた場所で新しいコミュニケーションを実現することです。またメタバースでは、アバターという仮想空間内で自由に動かせる自分の分身を使って仮想空間と接続します。アバターで表情やリアクションを表現して、他者との交流を楽しめます。
シミュレーションとは、解析対象を現物またはコンピューターモデルで表現して、その挙動や効果を確認するものです。たとえば、自動車のシミュレーションでは、ブレーキを踏んで何秒後に何メートル進んで止まるかなどを解析可能です。一方、デジタルツインでは解析対象だけではなく、動作環境まで再現を試みます。たとえば、人が飛び出してきた際に、運転手が気づいてブレーキを踏む様子を解析できます。
このように、メタバースやシミュレーションとデジタルツインは、実現する仮想空間の性質や目的が異なることがわかります。
デジタルツインが注目される背景
デジタルツインが注目されるようになった背景には、IoTや5Gなどのデジタル技術の急速な進化があります。
デジタル技術の発展により、解像度の高い空間をリアルタイムに再現できるようになりました。その結果、仮想空間に現実世界を再現した方が、現実空間でシミュレーションを行うよりもコストを削減しやすいため、ニーズが高まっています。
そして、デジタルツインにより解析できる内容が圧倒的に広がることで、従来はできなかったさまざまな分析を行うことができます。これにより、新製品の開発、製造、運用保守の現場の改善などが可能になり、企業活動の可能性が大幅に広がるでしょう。
デジタルツインのメリット・実現できること
デジタルツイン技術を活用することで得られるメリットや実現できることについて解説します。
企業活動の革新
デジタルツインの技術を活用することで、製品や製造現場などが災害や事故などの場面に遭遇した際の挙動、高価な材料を使って製造した際の様子などを詳細に解析することが可能です。従来はできなかった解析ができるようになり、新製品の開発、製造現場・運用保守現場の改善などを実現できます。
さらに、AI技術やビッグデータなどを活用することで、より多くの新しいことを実現でき、企業活動の革新が大きく進むでしょう。
生産性の向上
デジタルツインの活用は、製造業などにおける生産性の向上につながります。
たとえば、いままでは困難だった製品の試作やテストなどのシミュレーションを、仮想空間であれば何度でも試すことが可能です。製品テストを繰り返すためにはいくつもの試作品を製造しなくてはいけませんでしたが、デジタルツインで製品を忠実に再現すれば、何度も試作する必要がありません。
このように、デジタルツインの技術を活用することで、製造現場の生産性の大幅な向上が期待できます。
品質の向上
デジタルツインの技術を活用して製品のテストを繰り返し行えるようになると、品質の向上につなげられます。
デジタルツインの技術を活用すれば、試作品を実際に繰り返し作成する必要がなく、仮想空間で何度も試作品のテストや検証を行うことが可能です。その結果、製品の品質の向上を期待できるでしょう。
安全性の向上
危険を伴う作業が行われる現場では、デジタルツイン技術を用いて危険を避けるためのシミュレーションを行うことが可能です。たとえば、工場などの作業現場で作業者の導線や機器のレイアウトを、デジタルツイン上でシミュレーションすることで、安全性を確保できます。
コスト削減
デジタルツイン上では、試作や試験を比較的容易に繰り返せるため、コストを削減できるというメリットがあります。
試作品を何度も製作していると、コストがかかります。とくに、高額な素材を使う製品などの場合、試作を繰り返すと多額のコストを費やすことになるでしょう。しかし、デジタルツイン上で製品のシミュレーションができれば、試作に必要なコストを大幅に削減することが可能です。
リスクの低減
新商品を開発する場合など、多大なコストを費やして試作を繰り返しても、製品化できない場合もあります。しかし、デジタルツイン上ならコストをかけずに試作を繰り返せるため、莫大なコストをかけたのに利益を得られないというリスクを回避することが可能です。
また、デジタルツイン上で製造プロセスを事前に確認できるため、製品化までに発生する可能性があるトラブルを予測して回避できます。
デジタルツインのデメリットと課題
デジタルツインを導入する際には、デメリットも存在します。
導入コスト
デジタルツイン技術を活用するためには対応したシステムの導入が必要なため、導入コストがかかります。
たとえば、データ取得のためにIoT機器や、データを収集して分析を行うためのAIシステムが必要な場合があります。
セキュリティやプライバシーのリスク
デジタルツイン技術を利用する際には、さまざまなデータを活用するため、情報漏えいや不正アクセスのリスクが伴います。現実世界が完全にコピーされることで、個人情報までコピーされるリスクもあります。したがって、セキュリティの強化や対策を行わなくてはいけません。
技術者不足
デジタルツイン技術を自社に導入して運用するためには、専門知識や技術をもつ技術者が必要です。
自社にIoTやAIに関する高度な知識やスキルをもつ社員がいなければ、新たに採用する必要があります。社内で技術者を確保できない場合には、外部企業に導入したり、運用を委託したりと、補完できる仕組みを検討しましょう。
デジタルツインに活用されている技術
デジタルツインに活用されているのは、IoT・AI・5Gなどのデジタル技術です。これらの技術の内容について解説します。
IoT
IoTとは、「Internet of Things」の略で、家電製品や自家用車などのあらゆるものをインターネットに接続して活用する技術です。IoTの技術を活用してデータを収集することで、高精度な仮想空間を構築できます。
AI(人工知能)
AIとは人工知能のことで、デジタルツイン技術では膨大なデータを分析するために使われます。デジタルツイン技術で再現された仮想空間で、AIによる高精度な分析を行うと、より正確な予測結果や分析結果を得ることが可能です。
5G
5Gは、従来よりも大容量のデータを超高速・超低遅延で送受信できるネットワーク通信技術です。5Gの実現により、リアルタイムで仮想空間のデータを反映できるようになりました。
AR・VR
ARは現実世界に情報を追加して拡張する技術であり、VRは仮想空間を現実のように見せられる技術です。これらの技術を活用することで、仮想空間で起きたことを視覚化することが可能です。
シミュレーション技術(CAEなど)
製品の設計や開発時にシミュレーションを行うための技術を活用し、仮想空間でのシミュレーションを行います。収集したデータを、シミュレーション技術を用いて分析することで、現実世界では得られないデータを設計や開発に活かせます。
デジタルツインの活用事例
デジタルツイン技術は幅広い分野で活用されています。ここでは、デジタルツインが活用されている業種とその事例についてご紹介します。
製造業
製造業では、デジタルツイン技術による仮想空間で各製造プロセスでの高精度なシミュレーションを行うことが可能です。これにより、製品の試作・テスト時間の短縮・品質の向上、材料費や人件費のコストカットなどを実現しています。
建設業
建設業では、建設する建物やインフラを仮想空間にモデル化し、建設前に高精度なシミュレーションを行います。実際に建設する前に詳細にシミュレーションすることで、問題を早期発見でき、安全性の向上や工期の短縮、コストの削減につながります。
物流業
物流業界では、倉庫内の在庫状況をデジタルツイン技術でシミュレーションすることで、在庫管理の最適化を実現しています。また、トラックなどの車両につけたセンサーからデータを収集し、渋滞予測や輸送ルート検証などの分析を行うことで、物流の最適化にも役立ちます。
発電・エネルギー分野
電力業界でもデジタルツイン技術が活用されています。
たとえば、風力発電所の風車の状態をデジタルツイン上で再現して24時間体制で監視することで、部品の摩耗や損傷状態を予測し、メンテナンス作業の効率化を実現しています。
都市計画・災害対策
国土交通省がデジタルツイン技術を活用して、都市整備や交通量のシミュレーションに役立てています。都市のインフラや交通などの膨大なデータから都市の仮想モデルをつくり、都市計画を行っています。
スポーツイベント
2024年のパリオリンピックでは、デジタルツイン技術で競技会場を建設前に検証することで、工期を短縮できました。また、会場で競技を行う際に起こり得るさまざまな事態を想定し、危機管理計画の立案に役立てています。
デジタルツイン導入のポイント
デジタルツイン技術を導入する際に気をつけるべきポイントについて解説します。
導入目的と範囲を明確化する
デジタルツインを導入する前に、導入する目的と対象の範囲を明確にします。どの業務やプロセスをデジタルツインによるモデル化の対象にするのか、どのような問題を解決したいのかを具体的に決めないと、不要なデータ処理を行うなど、無駄が発生する恐れがあります。
専門知識をもった人材を確保する
デジタルツインによるモデル化や、データ分析を行える専門知識をもつ人材を確保する必要があります。ある程度の規模のプロジェクトになる場合には、マネジメントができる経験豊富な人材が必要です。
データガバナンスや法規制に対応する
デジタルツインを活用する際は、膨大なデータを利用するため、個人情報保護法などの法律を遵守しなくてはいけません。日本国内だけではなく、海外展開を検討している場合には、各国の法律についても確認しておく必要があるでしょう。
まとめ
デジタルツインとは、現実空間のデータをIoTなどのデジタル技術を用いて収集し、仮想空間(サイバー空間)に現実空間の環境をコピーする技術です。デジタルツイン技術を活用することで、製造業や物流業などの幅広い分野で業務の効率化やコストの削減を可能にしています。
デジタルツイン技術を自社の業務に活かしたい、AIやIoTなどのデジタル技術をビジネスに活用したいなどの場合には、SHIFTのDXサービス開発をご活用ください。それぞれのニーズやシステム環境にあった対応を行い、お客様のDX推進を強力にサポートいたします。
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デジタルツイン技術を活用することで、製造業や建設業、物流業などの幅広い分野で業務の効率化やコスト削減、品質の向上などが期待できます。しかし、デジタルツイン技術の導入や運用を行うためには、専門知識をもつ技術者が必要です。
そこで、SHIFTのDXサービス開発をご活用いただければ、お客様の課題を解決いたします。SHIFTの特徴は、独自に定義した価値基準「DAAE」や開発手法により、「売れるサービスづくり」を実現するノウハウです。DXやAIに関する豊富な知見や多種多様な業界ノウハウを活かして、お客様の業務やお悩みに対する最適なご提案をいたします。
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監修
株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
永井 敏隆
大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。
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