Introduction
システム開発やソフトウェア開発などを進める際に欠かせないのが、プロダクトオーナーの存在です。プロダクトオーナーとは、プロダクト、つまり製品に対する責任を負い、開発チームをまとめて目標達成へと導く役割を担う職務のことです。主にスクラム開発と呼ばれる、アジャイル開発のなかの開発手法で活躍します。
この記事では、プロダクトオーナーとは何かから、ほかの職種、プロダクトオーナーの役割と仕事内容や必要なスキルについて解説します。
目次
プロダクトオーナーとは

プロダクトオーナーとはどのような職務なのか、その必要性について解説します。
開発の方向性を決め、調整や情報提供を行う職務
プロダクトオーナーとは、製品開発の方向性を決め、プロダクト(製品)に対する責任を負う職務のことです。顧客の要望をとり入れて、プロダクトの価値を最大化させることに責任を負います。
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の『IPAnews vol.46 5月号』によると、以下のように定義されています。
プロダクトオーナー
アジャイル開発の代表的な手法「スクラム」における三つの役割のうちのひとつ。プロダクトの方向性を決定し、ステークホルダーとの調整、開発チームに必要な意思決定や情報提供を行う。
プロダクトオーナーは、アジャイル開発の一手法である、スクラムのなかに登場する役割の一つです。アジャイル開発とは、設計、製造、テストという短いサイクルを繰り返すことで、プロダクトを完成させる開発手法です。開発中にも、顧客からの要望や仕様変更に柔軟に対応できるというメリットがあります。
アジャイル開発にはいくつかの開発手法が存在し、そのなかでもっともメジャーな手法がスクラムです。スクラム開発では、少人数のチームが役割やタスクを分担し、緊密なコミュニケーションをとりながら開発が進められます。
そのスクラム開発において俯瞰的な視点をもってチームをとりまとめ、プロダクトに対して責任を負うのが、プロダクトオーナーという職務です。
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プロダクトオーナーの必要性
プロダクトオーナーが開発に必要な理由は、プロダクトが最大限の価値を生むように開発を進めていく必要があるためです。
プロダクトオーナーは、プロダクトビジョン、つまり質の高いプロダクトを開発するためのゴールを設定します。顧客の要望や開発に関する課題をまとめ、優先順位をつけて具体的な目標を立てます。
開発メンバーはこのプロダクトビジョンのもとで開発を進めることになります。万が一、開発中に問題が発生しても、プロダクトビジョンが明確であれば、メンバーそれぞれが適切な対応をとれるでしょう。その結果、開発チーム全体がプロダクトが最大限の価値を生むように開発を進めていくことが可能です。
プロダクトオーナーと他職種との違い
プロダクトオーナーとよく似た職種も存在するため、それぞれの職種との違いについて解説します。
プロダクトマネージャーとの違い
プロダクトマネージャーとは、開発における経営面も含めた戦略をより重点的に扱う職種です。プロダクトオーナーは製品開発の戦略に重きを置いて活動しますが、プロダクトマネージャーは会社としての目標や市場の動向などを踏まえてプロダクトビジョンを立てます。製品そのものだけではなく、製品が生まれてから売れていくライフサイクル全体を見て、長期的な成長戦略を管理します。
プロジェクトマネージャーとの違い
プロジェクトマネージャーは、スクラム開発だけでなく、一般的な開発チームにも存在します。プロダクトオーナーはプロダクトに対して責任を負いますが、プロジェクトマネージャーはプロダクトの開発を進めることに対して責任を負う、という違いがあります。
プロジェクトマネージャーはプロジェクトが円滑に進むよう進捗やリソースを管理し、課題解決、顧客や関係者との調整などを行います。また、プロダクトの販売戦略にかかわる場合もあります。
なお、スクラム開発では専任のプロジェクトマネージャーを置かずに、計画面の管理をプロダクトオーナーが、運営面の管理をスクラムマスターが担うケースが一般的です。
スクラムマスターとの違い
スクラムマスターは、スクラム開発チームにおいて経験豊かなベテランが担当し、開発の進捗管理や監督、問題解決などの役割を担います。プロダクトオーナーはバックログやフィードバックにより開発チームに要求を伝える立場であり、スクラムマスターは開発チームが自律的に活動するための支援を行います。プロダクトオーナーは開発者に対して方向性を示す存在であり、その方向に進むのを支援するのがスクラムマスターといえるでしょう。
プロダクトオーナーの役割と仕事内容
プロダクトオーナーの主な役割と仕事内容について、解説します。
ビジョンを定義する
開発のゴールとなるプロダクトビジョンを設定します。メンバー全員が理解できるようにゴールを定め、適切に共有することが重要です。
プロダクトビジョンを開発チーム内で共有できていれば、開発中にトラブルが発生した場合も、メンバーそれぞれが適切な対応をとることが可能です。
プロダクトバックログを作成・管理する
プロダクトバックログとは、開発に必要なリストに優先順位をつけてリストアップしたものです。スクラム開発では、このプロダクトバックログにしたがって開発を進めます。プロダクトオーナーはプロダクトバックログを適切に管理し、状況に応じて追加や削除、変更などを行います。
プロダクトバックログは、スクラム開発においてもっとも重要なリストであり、その管理はプロダクトオーナーの大事な役割の一つです。
プロダクトバックログについてはこちらもご覧ください。
>>プロダクトバックログとは?項目や書き方・例をわかりやすく解説のページへ
ユーザーニーズを予測し、順位づけする
プロダクトを利用するユーザーのニーズを予測し、優先順位をつけることも重要な業務です。ユーザーの満足度を向上させるために、ユーザーのニーズを把握し、どの機能を先に提供すべきかを決定します。開発自体がイテレーション(アジャイル開発における開発サイクルの単位)内に収まるように調整する必要はありますが、ユーザーのニーズを最優先として取り掛かります。
イテレーションについてはこちらもご覧ください。
>>イテレーションとは?意味やスプリントとの違い、開発の流れについて解説のページへ
ステークホルダーとの連絡役を担う
開発の利害関係者であるユーザー、顧客、取引先、関連部署、関連会社などのステークホルダーとの連絡、調整を行うこともプロダクトオーナーの重要な業務です。
プロダクトオーナーはステークホルダーと調整を行う窓口となり、スクラムチームとの仲介を行います。さまざまな立場の関係者と適切なコミュニケーションを行うため、高いコミュニケーションスキルが必要とされるでしょう。
製品開発を総括する
開発の各段階で評価を行い、総括するのもプロダクトオーナーの大事な役目です。
プロダクトオーナーは開発の段階ごとに、プロダクトの品質やユーザーからの反応などの情報を分析して評価を行います。その結果を踏まえて、次の開発段階に活かす、改善のための対応を行うなどを判断するのです。
プロダクトオーナーに必要なスキル

プロダクトオーナーに必要なスキルとは何かについて、解説します。
コミュニケーション力
プロダクトオーナーは、開発チームはもちろん、顧客、ユーザー、取引先、関連部署、関連会社の担当者、経営層など、さまざまな関係者とやりとりを行います。これらのステークホルダーとの調整役となり、必要な情報を開発チーム内で共有しなければなりません。
またスクラムは少人数のチームが緊密に連携して開発を進めていく手法のため、チーム内のコミュニケーションを高めることが非常に重要です。
そのため、プロダクトオーナーには高いコミュニケーション能力が必要とされるでしょう。
リーダーシップ
プロダクトオーナーは、開発するプロダクトに対する責任を負い、開発チームを引っ張っていく役割を担います。そのため、優れたリーダーシップが必要とされるでしょう。
意思決定力
プロダクトオーナーには、何かを決めていく力である意思決定力も必要とされます。プロダクトの価値を高めながら開発を成功に導くためには、さまざまなことを決定していかなければなりません。
具体的には、各イテレーションの結果を評価してバックログや優先度の修正を行う際に、その判断をプロダクトオーナーが行う必要があります。
まとめ
プロダクトオーナーとは、製品開発の方向性を決め、プロダクト(製品)に対する責任を負う職務のことです。顧客の要望をとり入れて、プロダクトの価値を最大化させることに責任を負います。
プロダクトオーナーは、アジャイル開発の手法の一つであるスクラム開発において、中心的な役割を担います。優れたプロダクトオーナーがいる開発チームは、開発を成功させやすいでしょう。
継続的なプロダクト開発に伴走する、SHIFTのアジャイル開発支援
「顧客の要望を迅速にとり入れられるアジャイル開発の手法を導入したい」「アジャイル開発手法を導入して、顧客満足度の高い製品を開発したい」「アジャイル開発を導入したいが、社内にノウハウがない」などの悩みを抱えている企業様は多いかもしれません。
アジャイル開発は、従来のウォーターフォール開発と比べると、比較的新しい開発手法です。短いスパンの開発を繰り返すため、機能変更や機能追加に柔軟に対応できるというメリットがあります。
しかし、アジャイル開発をスムーズに進めるためには、設計、開発、テストという短いスパンを繰り返して、つねにフィードバックを行う必要があり、豊富な専門知識や経験、ノウハウが必要です。
また、本記事でもご説明したとおり、優れたプロダクトオーナーの存在も必要とされます。アジャイル開発に関する知識やノウハウ、優れた開発メンバーなどがそろわない状態で、アジャイル開発にシフトするのはむずかしいでしょう。
そこで、SHIFTのアジャイル開発支援(SHIFT 1LINE)をご活用いただければ、お客様のアジャイル内製開発体制の構築とプロジェクト推進において、開発・ITガバナンス・プロダクトデザインなど、すべての局面で強力にサポートいたします。
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監修
永井 敏隆
大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。
担当講座
・コンポーネントテスト講座
・テスト自動化実践講座
・DevOpsテスト入門講座
・テスト戦略講座
・設計品質ワークショップ
など多数
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
SHIFTが事業運営において培ったノウハウを言語化・体系化し、講座として提供しており、品質に対する意識の向上、さらには実践的な方法論の習得など、講座を通して、お客様の品質課題の解決を支援しています。
https://service.shiftinc.jp/softwaretest/hinshitsu-univ/
https://www.hinshitsu-univ.jp/
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