Introduction
システム開発が遅いと人件費や開発費などのコストがかさむだけでなく、競合他社に後れをとってしまうというデメリットもあります。しかし、安易にスピードアップを図っても開発の品質が下がり不具合が多発すれば、顧客やユーザーからの信用を失うことになるでしょう。
では、品質を確保しながら開発スピードを上げるためにはどうすればよいのでしょうか?この記事では、システム開発スピードが遅くなる原因、スピードアップ・改善のポイントなどについて解説します。
目次
システム開発のスピードが遅くなる主な原因

システム開発のスピードが遅くなる原因にはさまざまなものがありますが、それらの原因を整理するといくつかのパターンにまとめられます。ここでは、開発のスピードを遅くしてしまう典型的な要因について解説します。
システム開発についてはこちらもご覧ください。
>>システム開発とは?工程や手法、依頼時のポイントまでわかりやすく解説のページへ
コミュニケーションコストや意思決定の遅れ
開発のスピードが落ちる大きな理由のひとつに、関係者間のコミュニケーションが複雑になることがあります。経営層、開発担当者、営業担当者、運用担当者など、関わる人数が増えるほど、情報のすれ違いや確認待ちが増えてしまいます。
特に多いのが、意思決定者が多忙で承認待ちが発生するケースです。そこで判断が止まると開発が止まり、全体のスケジュールに遅れが出ます。また決裁プロセスが複雑すぎると、会議が多くなり、同じ説明を何度も行う無駄も発生します。
結果として、プロジェクトに必要なコミュニケーションコストが膨らみ、スピードが落ちてしまうのです。
要件定義の曖昧さ・仕様変更の多発
要件定義が不十分だと、プロジェクトに悪影響を及ぼします。「要件がふんわりしすぎている」「開発のゴールが明確でない」という状態で開発に進むと、途中で仕様が何度も変わることになります。
仕様変更が多発する要因としては要件定義の問題だけでなく、経営層からの変更が多い、ユーザーからの要求が頻繁に変化する、などもあります。仕様変更が積み重なると手戻りが増え、開発スケジュールの遅延が発生してしまいます。
要件定義についてはこちらもご覧ください。
>>要件定義とは?作成手順や前後の流れをわかりやすく解説!のページへ
既存コードやシステム構造の複雑さ
古いシステムを抱えている企業ほど、開発のスピードは落ちやすくなります。現在はほとんど使われていないプログラミング言語で作られたシステムや、機能追加を繰り返して複雑に絡み合った機能は、修正するだけで多くの時間がかかるためです。
また、古いシステムは過去の担当者が退職してコードの意図が不明になっている、設計書などのドキュメントが残っていない、などのケースも散見されます。そのため、改修するたびに別の不具合が起きてしまいます。
こうした状況では、新しい機能を追加する際に、安全性を確認するために多くの検証工数が必要になり、スケジュールを圧迫してしまいます。
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タスクの属人化・ナレッジ共有の不足
システム開発では「特定の人しかわからない作業」が存在すると、プロジェクトの進行に大きなリスクが生まれます。その担当者が休む、または異動や退職により、作業が止まってしまうためです。
また、ナレッジの共有不足は、同じ問題や事象を何度も調査するムダを生みます。これは開発速度を落とすだけでなく、品質のばらつきも引き起こします。
属人化が進んでいる組織では、「万能なエースエンジニア」に頼り切りになる傾向がありますが、これは長期的に見て開発スピードアップの大きな妨げとなるのです。
テスト・リリース体制の非効率
テスト工程やリリース時に適切な計画が立てられていないと、大きな遅延を引き起こします。
たとえば、以下のようなケースです。
・テスト項目が整理されておらず、人によって作業内容が違う
・手動テストが多く、作業に時間がかかる
・不具合発生時の切り分け手順が定義されておらず調査が長引く
・リリース作業が属人化していて毎回トラブルが起きる
そのため、テストやリリース作業の計画段階で自動化や標準化を検討し、ミスを減らしながらスピードを上げる体制を作る必要があります。
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システム開発におけるスピードアップ・改善の基本ポイント

自社でシステム開発を行う場合、スピードを高めるためには「プロセスの標準化」「人材の最適化」「改善の仕組み化」の3つが非常に重要です。ここでは、システム開発スピードアップ、改善の基本ポイントについて解説します。
要件定義を明確にして手戻りを防ぐ
システム開発でもっとも大きなムダが生まれるのは、「手戻り」です。要件定義が曖昧だと仕様変更が頻発したり仕様バグや不具合が発生したりするため、開発工数が一気に膨らんでしまいます。
これを防ぐためには以下を徹底すると効果的です。
・開発の目的と優先度を明確にする
・経営層や顧客側と開発側の認識を揃える時間を確保する
・関係者による要件定義書のレビューを徹底する
特に重要なのは、「どこまで作るか」という線引きを経営側がきちんと決めることです。スコープ(開発範囲)のぶれを抑えることで、開発チームはスムーズに動けるようになるでしょう。
共通処理や定型作業を自動化・仕組み化する
システム開発の工程には「毎回同じ作業」が数多くありますが、これを手作業で行っているとスピードが低下し、ミスも起きやすくなります。
そのため、たとえば以下のような自動化・仕組み化による改善が効果的です。
・テストの自動化
・インフラ構築の自動化
・CI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー)の導入
・開発規約や作業内容の仕組み化
作業の自動化は品質を保ちながらスピードアップできる非常に有効な手段です。
テストの自動化についてはついてはこちらもご覧ください。
>>テスト自動化とは?メリットや導入の流れ・向いているテストを解説のページへ
CI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー)についてはついてはこちらもご覧ください。
>>CI/CDとは?開発における必要性やメリット、おすすめツールを解説のページへ
ナレッジ共有と技術ドキュメントの整備をする
属人化を防ぎ開発スピードを安定させるためには、以下のような手段でナレッジを整理するのが効果的です。
・技術ドキュメントを整備する
・開発ルールを明文化する
・調査メモやトラブル事例を社内ドキュメントに残す
・レビューの基準を統一する
これらが整っている企業ほど、新しいメンバーでもすぐ開発に参加でき、全体の生産性が上がります。
開発スピードの定量的評価と改善をする
開発スピードを上げるためには、現状を数値で評価し、改善の指標を決めることが重要です。
評価指標には、たとえば以下のようなものがあります。
・変更リードタイム:システム開発からデプロイまでの速度
・デプロイ頻度:本番環境へのデプロイ回数
・MTTR:障害発生から復旧までの平均時間
これらの数値を測定、分析することで改善ポイントが明確になり、「勘」ではなく「データ」に基づく改善が可能になります。
アジャイル開発などの開発手法を取り入れる
アジャイル開発は、その開発手法から改善のサイクルを加速させることができます。アジャイル開発により短い期間(スプリント)で成果物を出し、改善を重ねることで、以下のメリットが得られます。
・仕様変更への対応力が高まる
・意思決定の頻度が増え、無駄な手戻りが減る
・ユーザーからのフィードバックを早く受け取れる
・チーム内のコミュニケーションが活発になる
ただし、アジャイル開発を取り入れるだけで生産性が向上するわけではなく、密度の高い適切な管理が前提となる点に注意が必要です。また、プロジェクトによって向き不向きがあるので事前に適しているかどうかを確認しましょう。
アジャイル開発についてはこちらもご覧ください。
>>アジャイル開発とは?概要や進め方、ウォーターフォール型開発との違いやスクラムについて解説のページへ
>>アジャイルとは?意味やIT・ビジネスでの使われ方、開発の特徴を解説のページへ
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フルスタックエンジニアや即戦力人材を採用する
幅広い業務に対応できる専門知識が豊富なフルスタックエンジニアや即戦力人材を採用することで、以下のようなメリットを得られます。
・複数エンジニア間の待ち時間が減る
・設計〜開発〜テストの流れがスムーズになる
・問題が起きても早期に原因を特定できる
外部から採用するだけでなく、既存メンバーのスキルアップに投資することで、中長期的な開発スピードの底上げが期待できるでしょう。
開発体制・社内体制を改善する
開発スピードは純粋な技術力・ノウハウだけでなく、組織体制改善によりアップすることもあります。
たとえば、次のようなケースです。
・チーム間の情報共有をシンプルにする
・コミュニケーションツールを統一しロスを減らす
・意思決定プロセスを簡略化し承認者を明確にする
・プロジェクトマネージャー(PM)による進行管理を強化する
・スプリントごとに目標を決め、達成度を可視化する
・定例ミーティングを短時間化し、議題を明確にする
開発体制が整理されると開発チームが迷わず動けるようになり、結果としてスピードが大幅に向上します。
「外注によるシステム開発スピードアップ」という選択肢
自社内で開発体制を強化しスピードアップできるのが理想的ですが、リソース不足や採用のむずかしさなど、現実的には社内の対応だけでは限界があるかもしれません。そこで注目されているのが、外注を活用したスピードアップです。
ここでは、外注がなぜ開発を加速させられるのか、また外注活用における注意点や、失敗しないパートナー選びのポイントについて解説します。
システム開発に外注を活用するメリット
外注は「社内リソースの不足を補う手段」としてだけでなく、「開発スピードを大幅に高める手段」として以下のようなメリットがあります。
・専門スキルを持つエンジニアの力を借りられる
外部の開発会社には、特定の技術領域に強い専門エンジニアが在籍しています。たとえば「システム統合やインフラ構築が得意」、「最新の開発手法に精通している」などの専門スキルを持つエンジニアをアサインでき、自社にないスキルやノウハウを短期間で補完できます。
・開発リソース不足をすぐに解消できる
新規プロジェクトの立ち上げや、大規模リプレイスなどでは、多くの工数が必要になります。社内だけで対応しようとすると、人員不足や既存業務のタスク逼迫に陥る可能性があります。そこで外注を活用すれば、必要な人数を必要な期間だけ確保でき、無駄な固定費を増やさずに開発スピードを上げることが可能です。
・採用・教育などの初期コストを削減できる
エンジニアの採用や教育を行うためには、コストも時間もかかりますが、外注を活用すれば「採用活動」、「入社後の教育・研修」、「チームへの定着期間」などを省略できます。そのため、プロジェクトの立ち上がりが速くなり、開発期間を短縮することが可能です。
システム開発に外注を活用する際の注意点
外注は強力な選択肢ですが、進め方を誤ると逆に遅延が発生することもあります。そこで、外注を使う際に必ず押さえるべき注意点について解説します。
・契約内容や知的財産権の取り決めを明確にする
外注時には、「ソースコードの権利は誰に帰属するのか」、「納品物の範囲はどこまでか」、「追加費用が発生するのはどのタイミングか」などを明確にする必要があります。これらが曖昧なままだとトラブルにつながるため、最初の段階で十分な確認が必要です。
・トラブル時の対応ルールを事前に決めておく
トラブル時の対応ルールとして、たとえば「バグ発生時の対応速度」、「緊急時の連絡フロー」、「再発防止策の責任範囲」などを明確にしておくと、想定外の遅延が起きにくくなります。
・外注先に任せきりにしない
外注は便利ですが、開発を完全に任せきりにすると意思決定が遅れたり、認識のズレが発生したりします。そのため、要件を伝える際には十分なレビューを行う、定期的に進捗や課題について確認するなどが必要です。
特にアジャイル開発の場合、メリットであるスピード感を失わないためにも発注側が頻繁に開発状況をチェックし、毎週または毎日コミュニケーションとフィードバックを行う姿勢が求められます。
スピードと品質を両立するための開発パートナー選びのポイント
開発パートナー選びは、プロジェクト成功の成否を決める最重要ポイントです。スピードと品質を両立できるパートナーを選ぶ際に重要な観点は以下のとおりです。
・複数社から見積もりを取り比較する
1社だけを見て判断すると、適正価格や対応レベルを判断できません。最低3社の見積もりを比較することで、判断の精度が上がります。
・実績・得意領域・開発体制を確認する
「過去の成功事例」、「得意としている技術領域」、「担当者の経験レベル」、「品質管理の方法(レビュー体制・テスト方針など)」などを細かく確認することで、自社との相性を判断できます。
・コミュニケーションの頻度と透明性を重視する
開発スピードは外注先のコミュニケーションの質に大きく左右されます。「返答がはやいか」、「情報共有が丁寧か」、「進捗状況が可視化されているか」などを必ず確認しましょう。
・要件定義〜運用まで一貫して対応できるか
要件定義や設計が弱い企業に任せると、手戻りが増えてスピードが落ちるリスクがあります。要件定義、設計、テスト、リリース、運用・保守という工程をすべて対応できるパートナーを選べば、プロジェクト全体を通してスピードと品質を担保しやすいでしょう。
まとめ
システム開発のスピードは、企業の競争力に直結します。開発スピードを上げるためには、単にエンジニアを増やすだけでは不十分で、組織・プロセス・体制・外部活用が一体となって改善することが重要です。
自社内だけで開発スピードアップが困難な場合には、専門的な知識やノウハウが豊富な専門会社への外注もバランスよく組み合わせることで、スピードも品質も高い開発体制を構築できるでしょう。
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監修
株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
永井 敏隆
大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。
担当講座
・コンポーネントテスト講座
・テスト自動化実践講座
・DevOpsテスト入門講座
・テスト戦略講座
・設計品質ワークショップ
など多数
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
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