Introduction
システム障害や品質トラブルなどは企業の信頼や事業継続に大きな影響を与えますが、そのリスクを未然に防ぐ鍵となるのが「テストプロセスの改善」です。しかし、テスト作業は現場任せになりやすく、経営層からは見えにくい領域でもあります。テストプロセスを改善してシステムやソフトウェアの品質を高めるためには、どうすればよいのでしょうか?
この記事では、テストプロセスの基本的な考え方から、改善によって得られるメリット、課題の発見方法、具体的な進め方までをわかりやすく解説します。
目次
テストプロセスの改善とは

テストプロセスの改善とは、ソフトウェアやシステムを確認・検証する一連の流れ(テストのやり方)を見直し、よりよい形に整えていく取り組みを指します。単にテストを「たくさん行う」「厳しくする」という意味ではなく、無駄や抜け漏れを減らし、品質を安定して確保できる状態をつくることが目的です。
企業活動において、システムやソフトウェア、ツールなどは業務効率化や顧客満足度向上を支える重要な基盤です。しかし、開発したシステムに不具合が多いと、次のような問題が発生します。
・システムトラブルによる業務停止
・顧客からの信頼低下
・追加修正による想定外のコスト増加
このようなリスクを抑えるために重要なのが、テストプロセスの改善です。テストを「作業」ではなく「業務プロセス」として捉え、計画的に改善していくことが重要なのです。
テストプロセスの意味と範囲
テストプロセスとは、テスト作業そのものだけではなく、テストを実施する前の段階から、結果を次に活かすまでの一連の流れを指します。
具体的には、次のような工程が含まれます。
・テスト工程の計画を立案する(テスト計画)
・どのような観点でテストするかを決める(テスト設計)
・実際にテストを実施する(テスト実行)
・不具合や結果を整理・報告する(記録・分析)
・次回の改善につなげる(振り返り・改善)
多くの現場では、「テスト=動作確認」というイメージをもたれがちですが、実際には計画や設計、管理、振り返りまで含めてはじめてテストプロセスといえます。
テストプロセスの改善で重要なのは、テストプロセスが属人化していないか、またプロジェクトごとにやり方がバラバラになっていないか、などの点です。プロセスが整理されていない場合、品質にばらつきが生じ、結果としてトラブルやコスト増加につながります。
そのため、テストプロセスの改善とは、「誰が担当しても一定の品質を保てる仕組みをつくること」ともいい換えることができます。
QAとテストプロセス改善の関係
QA(Quality Assurance:品質保証)とは、製品やサービスの品質を確保するための仕組みや活動全体を指します。テストはQA活動の一部であり、テストプロセスの改善は、QAを強化するための重要な手段です。
QAの考え方では、「不具合を後から見つける」のではなく、不具合が起きにくい仕組みを最初からつくることが重視されます。
そのために、QAチームは具体的に次のような活動を通して、品質保証を行います。
・テスト計画の策定
・テストケースの設計
・テストの実施・管理・不具合報告
・テスト結果の分析・レポート
・テストプロセスの改善
・テストツールの導入・運用
テストプロセスが整理・改善されていない場合、QA活動は「場当たり的」になりやすく、品質向上の効果が限定的になります。一方で、テストプロセスを継続的に改善することで品質に対する共通認識が社内に根づき、組織全体の成熟度が高まるという効果も期待できます。
つまり、テストプロセスの改善は、現場レベルの効率化にとどまらず、品質を支えるための基盤づくりともいえるのです。
QA(Quality Assurance:品質保証)についてはこちらもご覧ください。
>>品質保証(QA)とは?品質管理との違いや具体的な業務内容について解説のページへ
関連サービスについて
テストプロセスの改善のメリット
テストプロセスの改善は、品質向上・効率化・コスト削減・リスク軽減という点で大きなメリットをもたらします。
ここでは、その4点のメリットについて詳しくご説明します。
品質向上につながる
テストプロセスを改善する最大のメリットは、システムやサービスの品質が安定して高まることです。テストの観点や手順が整理されることで、担当者の経験や勘に頼るだけではなくなります。その結果、テスト品質が安定し、重要な不具合を見逃しにくくなります。
品質が向上すると、次のような効果が期待できます。
・本番稼働後の障害やトラブルの減少
・顧客からの問い合わせ・クレームの減少
・品質の安定化によるブランドや企業イメージの向上
特に近年は、システム障害がニュースやSNSで拡散されやすく、企業の信頼に直結します。テストプロセスの改善は、企業の信用を守るための投資と捉えることもできるでしょう。
業務の効率化が進む
テストプロセスが整理されていない場合、「同じ確認を何度も行う」「不要な作業が多い」「進捗が見えない」などの非効率が発生しがちです。
プロセスを見直すことで、以下のような効果を得られます。
・作業手順が明確になり、担当者の迷いが減る
・無駄なテストや重複作業が減る
・進捗状況を把握しやすくなる
結果として、同じ人員でもより多くの価値ある業務に時間を使えるようになり、テストの効率化が進みます。
コスト削減につながる
一見すると、テストプロセスの改善は「コストや手間がかかる取り組み」に見えるかもしれません。しかし実際には、中長期的に見るとコスト削減効果が大きい取り組みです。
理由としては、次のような点があげられます。
・テスト作業の効率化が進み、生産性が向上する
・はやい段階で不具合を発見でき、手戻りが減る
・本番後の緊急対応や追加開発が減少する
・外部対応や補償などの想定外コストを防げる
特に、本番リリース後に発覚する不具合は、修正コストが高くなりがちです。テストプロセスを改善し、不具合を早期に抑え込むことは、無駄な支出を防ぐ経営判断といえるでしょう。
リスク軽減につながる
テストプロセスの改善は、事業リスクの低減にも直結します。テストを通じて、どこにリスクが潜んでいるのかを事前に把握できるようになるためです。
たとえば、以下のようなリスクを事前に洗い出し、重点的に確認できる体制が整います。
・法令や業界ルールに関わる機能の不具合
・個人情報やセキュリティに関する問題
・企業活動に影響するシステム障害
結果として、経営層が安心してシステム投資や事業拡大の判断を行える環境が整う点も、見逃せないメリットです。
テストプロセスにおける課題の発見方法

テストプロセスを改善するためには、まず「どこに問題があるのか」を正しく把握することが重要です。いきなり改善策を導入しても、問題の本質を捉えていなければ、期待した効果は得られません。
ここでは、代表的な課題発見の方法についてご紹介します。
メンバーへのヒアリング
テストプロセスの改善をするうえで欠かせないのが、現場のメンバーへのヒアリングです。実際にテストを担当している人ほど、日々の業務の中で「やりにくさ」や「無駄」を感じています。
たとえば、次のような声がよく聞かれます。
・何をどこまで確認すればよいのかわかりにくい
・スケジュールが厳しく、十分なテスト時間がとれない
・過去の不具合情報やテスト作業のミスなどが活かされていない
このような声は、書類や数値だけでは見えてこない、プロセス上の本質的な課題を示しています。これらの現場の声を「個人の不満」として捉えるのではなく、仕組みの改善につながる重要な情報として整理する姿勢が重要です。
アンケート・サーベイの実施
複数のプロジェクトや部門が関わる場合、アンケートやサーベイ形式での調査が有効です。複数人にアンケート調査を行うことで、課題の傾向や共通点が見えやすくなります。
たとえば、
・テストで困っている点
・品質に不安を感じる工程
・改善したいと思っているポイント
などを選択式や自由記述で収集します。
結果を集計することで、「一部の現場だけの問題」なのか、「組織全体の構造的な課題」なのかを判断しやすくなります。数値や割合で可視化できるため、経営層への説明材料としても使いやすい方法です。
ログ・工数・欠陥データの分析
感覚や印象だけでなく、客観的なデータから課題を見つけることも重要です。過去のテスト作業のデータを分析することで、どこに問題が潜んでいるのかを特定できることもあります。
具体的には、次のようなデータを分析します。
・テストにかかった工数や期間
・発見された不具合の件数や発生工程
・手戻りや再テストの回数
データを分析した結果、たとえば「特定の工程に影響の大きい不具合が集中している」という傾向がある場合には、その工程に優先的に対処すべき問題が潜んでいる可能性が高いです。また、「特定のテスト担当者に作業ミスが目立つ」場合には、担当者のスキルレベルにあった作業割り当てになっていない、教育が不十分である、などの問題が浮かび上がってきます。
このようにさまざまな観点でデータを検証すれば、問題点を客観的に分析することが可能です。また、データをもとに改善の優先順位を冷静に決めることができ、投資対効果の高い改善施策につなげやすくなります。
プロセスの可視化
テストプロセスを図やフローとして可視化することも、課題発見に非常に有効です。工程を洗い出してみると、「誰が」「いつ」「何をしているのか」が明確になります。
可視化することで、
・不要な承認や作業がないか
・責任範囲が曖昧な部分はないか
・ボトルネックになっている工程はどこか
などが見えてきます。
経営層にとっても、文章だけで説明されるより一目で全体像を把握できるため、意思決定がしやすいというメリットがあります。
チェックリストやフレームワークの活用
既存のチェックリストやフレームワークを活用する方法も有効です。代表的なものには、テスト成熟度モデルや品質管理の観点をまとめたフレームワークなどがあります。
これらを使うことで、
・自社のレベルがどの段階にあるか
・足りていない取り組みは何か
・次に何を改善すべきか
を客観的に把握できます。
特に、「何から手をつければよいかわからない」場合には、改善の道筋を示す指針として役立つでしょう。
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テストプロセス改善の進め方
テストプロセスの改善は、一度きりの施策ではなく、継続的に取り組むことが重要です。そのため、多くの企業では「PDCAサイクル」をベースに改善を進めています。
ここでは、継続してテストプロセスの改善を行うためのステップを順に解説します。
Plan(現状の課題の把握と計画立案)
最初のステップは、現状の課題を整理し、改善計画を立てることです。前章で紹介したヒアリングやデータ分析を通じて、「どこに問題があるのか」を明確にします。
この段階で重要なのは、完璧を目指しすぎないことです。すべての課題を一度に解決しようとすると、現場の負担が大きくなり、改善が進まなくなります。
優先順位をつける際には、以下の観点を考慮するとよいでしょう。
・品質リスクが高い部分
・コストや工数に大きく影響している部分
・顧客満足度に直結する部分
最初は小さくはじめ、効果を確認しながら進めていくことが、成功のポイントです。
Do(改善施策の実行)
計画が定まったら、実際に改善施策を実行します。この段階では、現場が混乱しないよう、目的や狙いを丁寧に共有することが大切です。
たとえば、
・テスト手順やテンプレートの見直し
・チェックリストの導入
・役割分担や確認フローの明確化
などの施策が考えられます。
いきなり大きな変更を行うのではなく、特定のプロジェクトや一部の工程で試すことで、リスクを抑えながら進められます。
Check(効果測定と振り返り)
改善施策を実行した後は、効果を客観的に確認することが欠かせません。感覚的な評価だけでなく、数値や事実をもとに振り返ることが重要です。
具体的には、以下のような点を確認します。
・不具合件数は減ったか
・テスト工数や期間はどう変化したか
・現場の負担感は改善されたか
この振り返りによって、「うまくいった施策」と「期待ほど効果が出なかった施策」を切り分けます。
Action(標準化とさらなる改善)
効果が確認できた施策は、標準化して組織全体に展開します。ルールや手順として明文化することで、属人化を防ぎ、安定した品質を維持できます。
一方で、期待した効果が得られなかった場合も失敗ではありません。改善内容を見直し、次のプランにつなげることで、継続的な改善サイクルが回りはじめます。
このように、テストプロセスの改善は「一度やって終わり」ではなく、少しずつ成熟度を高めていくことが重要です。
テストプロセス改善の具体的な施策
テストプロセスの改善を進める際には、「計画」「設計」「実行」「管理」という4つの観点で整理すると、取り組みやすくなります。
ここでは、代表的な施策について分野ごとに解説します。
テスト計画における改善策
テスト計画は、テストプロセス全体の方針や実行手順、役割分担、スケジュールなどを明確にする土台です。テスト計画工程の改善は、その後のテスト設計・実行・管理の精度を大きく左右します。計画が曖昧なままだと、テストの抜け漏れや認識違い、進捗遅延などが発生しやすくなります。
テスト計画を行う際には、単に過去の計画を流用するのではなく、プロジェクトごとの戦略やリスクに基づいた計画立案が不可欠です。
具体的な改善策としては、まず「テスト戦略」を策定し、何をどのようにテストするかという方針と目的を関係者で共有します。これに基づき、テスト計画ではテストレベル(単体、結合、システムなど)ごとに、対象範囲・必要なリソース・スケジュール・環境・責任者・完了基準などを具体化します。
またテスト計画を作成する際には、テスト項目の優先順位を明示し、リスクの高い部分・影響の大きい部分を重点的に扱うように調整します。さらに、計画段階で想定されるリスクや不確実性を洗い出し、その対応策を明文化しておくことも重要です。
このように改善することで、テストの計画段階での抜け漏れや不確実性を低減し、その後の設計や実行の精度と効率が高まります。これらは単なる書類作成上の改善ではなく、プロジェクト全体の品質向上を支える戦略的な活動として位置付けるべきでしょう。
テスト計画についてはこちらもご覧ください。
テスト設計における改善策
テスト設計は、品質を左右する最も重要な工程の一つです。ここが曖昧なままだと、どれだけ時間をかけてテストしても、重要な不具合を見逃してしまいます。
テスト設計における代表的な改善策には、次のような取り組みがあります。
・仕様ベースでの品質向上
仕様書や要件定義をもとに「どの機能にどのようなリスクがあるか」を整理し、重要度の高い部分を重点的にテストします。
・テスト技法の活用
経験や勘だけに頼らず、テスト観点を整理する技法などを活用することで、確認漏れを防ぎます。
・テンプレートやガイドラインの整備
テストケースや設計書のフォーマットを統一することで、品質のばらつきを抑えられます。
・共通テストやチェックリストの蓄積
過去に発生した不具合や重要な確認項目を資産として蓄積し、次回以降に活かします。これらの取り組みは、属人化を防ぎ、組織全体の品質レベルを底上げする効果があります。
テスト計画についてはこちらもご覧ください。
>>テスト設計とは?プロセスと作成方法について解説のページへ
テスト実行における改善策
テスト実行フェーズでは、現場の負担を減らしつつ、確実にテストを実行できる環境づくりが重要です。主な改善策は以下のとおりです。
・テスト環境の整備
本番に近い環境を用意することで、実際の利用状況を想定したテストが可能になります。また担当者ごとのテスト環境の用意、ツールの導入やテスト機の性能向上など、テストしやすい環境を整えることも重要です。
・テストデータの管理
データの準備や更新が属人化していると、ミスや遅延の原因になります。ルールを定めて管理することが重要です。
・テストの自動化
繰り返し実施する確認作業を自動化することで、人的ミスを減らし、作業時間を短縮できます。ただし、「すべてを自動化する」ことが目的ではありません。効果が高い部分から段階的に導入することが、成功のポイントです。
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>>テスト実施(実行)ですべきこと~必要な準備と実施手順について紹介~のページへ
テスト管理における改善策
テスト管理は、経営層と現場をつなぐ重要な役割を担います。テストの具体的な状況が見えないままでは、適切な判断ができません。代表的な改善策は次のとおりです。
・進捗と品質の見える化
テストの進捗状況や不具合の傾向を可視化することで、問題の早期発見につながります。
・テストメトリクスの設計
テスト件数やバグ件数、カバレッジ、欠陥密度などの指標を活用し、品質状況を客観的に把握します。
・リスクの洗い出しと優先度づけ
影響の大きい部分から重点的に確認することで、限られた時間と人員を有効活用できます。これにより、経営層は感覚ではなく事実にもとづいた判断が可能になります。
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>>テスト管理とは?その概要と実施方法、進め方について解説のページへ
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まとめ
テストプロセスの改善は、単なる現場作業の効率化ではなく、企業全体の品質と信頼性を高めるための重要な取り組みです。システムが事業の中核を担う現在において、テストのあり方は経営に直結するといっても過言ではありません。
この記事では、テストプロセスの意味やQAとの関係から始まり、改善によって得られるメリット、課題の発見方法、進め方、具体的な施策までを段階的に解説しました。
特に重要なポイントは、テストを「一時的な作業」ではなく、継続的に改善すべき業務プロセスとして捉えることです。テストプロセスを改善することで、品質の安定化、業務効率の向上、コスト削減、リスク軽減などの効果が期待できます。
自社の状況を見つめ直し、継続的なテストプロセスの改善に取り組むことで、変化の激しいビジネス環境においても、安定した価値提供が可能になるでしょう。
SHIFTのアジャイルQAでテストプロセスの最適化
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監修
株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
永井 敏隆
大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。
担当講座
・コンポーネントテスト講座
・テスト自動化実践講座
・DevOpsテスト入門講座
・テスト戦略講座
・設計品質ワークショップ
など多数
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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
SHIFTが事業運営において培ったノウハウを言語化・体系化し、講座として提供しており、品質に対する意識の向上、さらには実践的な方法論の習得など、講座を通して、お客様の品質課題の解決を支援しています。
https://service.shiftinc.jp/softwaretest/hinshitsu-univ/
https://www.hinshitsu-univ.jp/
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