ゼロショット学習

ゼロショット学習とは?

ゼロショット学習とは、機械学習モデルが、学習時に見たことのないクラス(種類)のデータを認識・分類する能力のことです。まるで人間が、少しの説明だけではじめて見るものを理解するのに似ています。例えば、犬や猫の画像を学習したAIが、一度も見たことのないレッサーパンダの画像を、レッサーパンダの特徴に関する説明文(「猫のような顔で、赤茶色の毛並みを持ち、木の上で生活する」)を基に認識できる、といった具合です。

従来の機械学習では、学習データに存在しないクラスを認識することは困難でした。しかし、ゼロショット学習では、クラスに関する何らかの情報(属性、説明文など)と、学習済みの知識を組み合わせることで、未知のクラスを推論できるようになります。この能力は、新しいクラスのデータを大量に収集するのが難しい場合や、迅速な対応が求められる場合に特に有効です。

ゼロショット学習を実現する技術的な背景には、主に以下の2つの要素があります。1つ目は、クラスに関する情報を表現する「意味空間」の活用です。例えば、単語の意味をベクトルで表現するWord2Vecや、文章の意味を表現するSentence Transformersなどが用いられます。これらの技術を用いることで、未知のクラスに関する説明文を、学習済みのクラスと共通の空間で表現し、比較することが可能になります。2つ目は、学習済みの知識を転移する「知識グラフ」の活用です。知識グラフとは、エンティティ(実体)とその関係性をグラフ構造で表現したものです。例えば、「犬は動物である」「猫は動物である」といった知識を知識グラフに格納しておくことで、AIは「レッサーパンダも動物である」という知識を推論し、犬や猫の知識を応用してレッサーパンダを認識することができます。

ゼロショット学習は、画像認識自然言語処理音声認識など、さまざまな分野で応用されています。画像認識の分野では、例えば、動物園に設置されたAIカメラが、新しい動物が追加された際に、その動物の画像データを収集しなくても、説明文を入力するだけで認識できるようになります。自然言語処理の分野では、例えば、新しいジャンルのニュース記事を、学習データなしで分類したり、新しい言語の文章を翻訳したりすることが可能になります。

ゼロショット学習のメリットは、主に以下の3点です。1点目は、新しいクラスのデータを収集するコストを削減できることです。2点目は、迅速な対応が可能になることです。3点目は、汎用性の高いAIモデルを構築できることです。一方で、ゼロショット学習には、いくつかの課題も存在します。1つ目は、クラスに関する情報の質が重要であることです。不正確な情報やあいまいな情報に基づいて推論を行うと、誤った結果を招く可能性があります。2つ目は、学習済みの知識との関連性が低いクラスを認識するのが難しいことです。3つ目は、推論の精度が、従来の機械学習に比べて低い場合があることです。

これらの課題を解決するために、現在、さまざまな研究が行われています。例えば、クラスに関する情報を自動的に生成する技術や、学習済みの知識をより効率的に活用する技術などが開発されています。ゼロショット学習は、AI技術の可能性を大きく広げる革新的な技術です。今後の研究開発によって、その精度と汎用性がさらに向上し、さまざまな分野でより広く活用されることが期待されます。

 

監修

株式会社SHIFT「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
林 栄一

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