Introduction
前編はいかがでしたか。UX開発で最も重要なことは、顧客の真の課題を発見すること。そして、その手段がデプスインタビューであることをお伝えしました。後編では、デプスインタビューでどのように深く掘り下げればよいのか、どのように分析すればよいのかについてのヒントを、具体的な進め方を通じてご説明したいと思います。
目次
深く掘り下げるとはどういうことか
まずは、顧客の課題はどのように深く掘り下げるのか。その感覚を、マーケティングの教科書にも出てくる有名な格言を通じて掴んでいただきたいと思います。
「ドリル」を売るには「穴」を売れ。
これは「お客さまはドリルの売り場を聞いたかもしれないが、ドリルが欲しいわけではない。本当は壁に時計を掛ける1/4インチの穴が欲しいのだよ。だから、ドリルでなく穴を売ることを考えてみよう。」という教えです。
しかし、これを聞いて納得してはいけません。もっと深く掘り下げられるからです。例えば、なぜ時計を飾りたいのか。会社に遅刻をしたくないから、部屋をお洒落にしたいからなどさまざまな理由が浮かびます。それなら、穴でなくても、接着剤などほかの手段でもよいかもしれません。また本当は穴を開けたくないので、ドリルを使いたくないかもしれません。さらに、そもそもなぜ遅刻をするのかと考えれば、極端な話、時計で悩むくらいなら、会社の近くに引っ越せばよいという選択肢も考えられます。
まずは、顧客を取り巻く状況を押さえる
深く掘り下げて考えるという感覚を、ドリルの格言から少し掴めましたか。もちろん、実際のWeb・アプリやシステムの開発はもっと複雑で時間も限られていますから、効率的にインタビューを行わなければいけません。その時のポイントは、いきなり真の課題を見つけようとするのではなく、まずは課題を抱えている顧客の「状況」を的確に押さえることです。
このようにいうと、業界分析や競合分析はしっかり行っていますと答える方がいらっしゃいますが、その多くは顧客を取り巻く周辺の「環境」といったマクロレベルに留まっています。それでは、ミクロレベルである「状況」を的確に押さえるにはどのような視点があるのかを、先ほどのドリルを例に整理してみます。
a. 利用者の役割 :個人的に自ら、家族に頼まれて、
b. 抱えている課題 :遅刻、お洒落な部屋、
c. これまでの選択 :つねにドリルを選んでいたのか
d. 具体的な行動 :ドリルの利用前、利用中、利用後
e. そのなかで障害になっていること
みなさんも、もしこのくらい細かく状況を把握できるなら、ドリルを探しに来たお客様の課題に対して自信をもって解決策を提案できるかもしれない、と思えてきませんか。
デプスインタビューで最も大事なステップとは
デプスインタビューにおける具体的な視点をご理解いただいたところで、次はデプスインタビューの中で最も大事なステップについて考えてみたいと思います。
<基本ステップ>
1)対象者の条件を決める
2)対象者を集める
3)インタビューの資料を作成する
4)デプスインタビューを実施する
5)結果を整理して分析する
このなかで最も大事なステップはどれだと思いますか。それは「3)インタビューの資料を作成する」です。もし、あなたが対象者だったらと考えてみてください。自分自身の価値観や性格、趣味嗜好をよく理解していないのに、いきなり「なぜですか」と質問されも困りませんか。
だからこそ、事前準備が必要なのです。顧客の状況を想定しながら、理解や発言を促すような資料を作成しておくのです。たしかに、準備しすぎると先入観をもってしまうということもありますが、ベテランのインタビュアーですら本音を引き出すのは至難の業なのです。インタビューの回数も時間も限られているなかで成果を高めるためにも、しっかりした準備が必要だと私は考えます。
インタビュー結果をどのように分析すればよいのか
デプスインタビューを実施した後は、いよいよ「5)結果を整理して分析する」。まずは発言内容を整理します。Web・アプリやシステムの操作性について調査するユーザーテスト(ユーザビリティテスト)であれば、要点だけ記録しておくだけでもよいと思います。しかし、今回のように顧客の状況や課題について深く探る場合は、対象者のすべての発言を一語一句記録した発言録を作成することをおすすめします。なぜなら、ちょっとした発言のなかに実施中はインタビュアーが気づかなかったようなヒントが隠れているかもしれませんし、改めて文脈を読み解くなかで思わぬ発見があるかもしれないからです。
発言録が揃ったら実際の分析です。ここでは、安易にフレームを利用するのは避けましょう。ネットで検索すると「○○法」などと紹介されたシンプルなフレームがいつくも出てきますが、よく考えてみてください。60分のインタビューの発言録は14~16ページほどのボリュームです。これが5名、10名、時にそれ以上となると膨大な量の情報になります。発表や共有用としてわかりやすく視覚化するために用いるならよいですが、最初からフレームを活用しようとすると浅い分析になりかねません。
面倒かもしれませんが、丁寧に時間を掛けて対象者の発言を整理しながら、顧客の真の課題を明らかにする作業が必要なのです。
まずはデプスインタビューを実践してみよう
「UX開発の出発点!ユーザーインタビューが製品戦略の鍵となる」と題して、前編・後編と説明してきましたがいかがでしたでしょうか。まずはすぐにでも、お客様の課題を掘り下げる感覚を掴んでいただくためにデプスインタビューを実践してみてください。いきなり調査会社を利用しなくても、友人や知人など身近な人にインタビューをお願いしてもよいですし、B2Bの製品やサービスなら営業にお得意先を紹介してもらえば比較的簡単にはじめることができます。
今回、デプスインタビューは顧客の真の課題を発見するための手段としてご紹介しましたが、「ターゲット顧客の本音を引き出す」ことを目的とするさまざまな調査でも活用できます。例えば、製品やサービスの企画段階であればコンセプトの受容性を調べることもできますし、発売後であれば既存の機能の受容性を調べることもできます。こちらについては別のコラムで詳しく書いていますので、ぜひあわせてお読みください。
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