SAPとは?
SAPとは、ドイツに本社を置くヨーロッパ最大級のソフトウェア会社のことであり、そこから転じてSAP社製のERPのことを指すようになりました。
ここでは、SAPについて詳しくご説明します。
SAP社が提供するERPソリューションの総称
SAP社は、ドイツのヴァルドルフに本社がある、ヨーロッパでも最大級のソフトウェア開発会社です。SAP社という社名は、「Systemanalyse und Programmentwicklung」(システム分析とプログラム開発)という言葉からとられています。
全世界で多くの企業がSAP社製のソフトウェアを採用しており、SAP社製のERPがとくに有名です。そこから転じて、SAP社が提供するERPソリューションがSAPと呼ばれるようになりました。
ERPとは?
ERPとは「Enterprise Resource Planning」のことで「経営資源計画」と訳されます。
ERPを採用することにより、組織内のヒト、モノ、カネという経営資源を統合的に管理できます。ERPを導入することで業務の効率化が可能になり、経営の意思決定を迅速に行うことが可能です。このような価値を生む統合型ソフトウェアをERPパッケージ、ERPシステムと呼びます。
ERPにより、組織内の各部門を横断する業務プロセスのベストプラクティスが提供されるデータが統合され、業務間連携がリアルタイムに行われるなどのメリットがあります。
SAP ERPが全世界で普及している背景
SAP ERPが全世界に普及している背景には、次のようなものがあります。
SAP社は、歴史が長く実績があります。多くのグローバル企業や大手企業に採用されていることから、信頼度が高いことも普及が進んだ大きな理由のひとつです。
また、SAP社製のERPの標準機能は豊富で、多様なニーズに対応しています。世界中の企業に利用された実績から、各国の法制度や商習慣にも対応している点も強みです。
さらに、デジタル化やクラウド化にも対応したインフラ展開をサポートしており、企業としても使いやすいといえます。
上記のような背景もありますが、普及のきっかけとなったのは、1990年代前半に欧米で起こった業務プロセス改革ブームです。これにより、日本でも多くのERPパッケージが採用されるようになりました。2000年問題などもあり、業務システムの刷新が求められていたことも、普及を後押しする結果となりました。このような動きに乗じ、SAP ERPが世界市場シェアを占めるようになったのです。
SAP ERPの主な機能
SAP ERPでは、さまざまなモジュールが提供されており、豊富な機能を使いわけることが可能です。ここでは、代表的なモジュールをご紹介します。
財務会計(FI)
決算書などの報告書の作成、作成に必要な固定資産、債務などの情報処理や登録などを行うモジュールです。
管理会計(CO)
原価管理を行うモジュールです。費用、利益などの情報収集および管理、予算との対比などを行うことで、収益性の把握も可能です。
販売管理(SD)
販売管理全般をサポートするモジュールです。販売管理、在庫管理、物流管理などをリアルに一元管理することで、業務効率をアップさせます。
在庫購買管理(MM)
在庫管理モジュールです。在庫、棚卸管理を行い、資材の発注、入庫などの購買プロセスと調達プロセスを管理します。
生産管理(PP)
生産計画、製造管理、製造実績管理など、生産に関わるプロセスを管理します。このモジュールにより、生産活動の効率化が可能です。
品質管理(QM)
品質管理計画、品質管理、品質検査などのプロセス管理を行うモジュールです。在庫購買管理(MM)と連携させて使用することで、品質管理と在庫管理を連動させることが可能です。
人事管理(HR)
人事管理、人材管理、勤怠管理、給与管理などを行うモジュールです。このモジュールを活用することで、人的資源の管理効率がアップします。
SAP ERPを導入するメリット
SAP ERPを導入するメリットは、非常に多いです。ここでは、SAP ERPを導入するメリットについて詳しく解説します。
DXを推進できる
経済産業省がDXレポートで提示した「2025年の崖」の問題からもわかるとおり、日本企業ではDXの推進が急務とされています。あらゆる産業においてシステムの複雑化、老朽化、ブラックボックス化が進んでおり、このまま2025年を迎えると、企業が多くの損失を抱えることが示唆されています。
たとえば、全国展開する大手飲食チェーン店の人事部門などでは、毎日数百件単位の従業員データの入れ替えに対応しなければなりません。従業員の採用、昇格、転勤、異動などに対応するために、大量の従業員データの変更処理を行います。
そこでSAP ERPによってデータの変更を自動化すれば、人事担当者の作業負担が大幅に軽減されるでしょう。さらに、人事部門と財務部門など他部署との連携が容易になり、全社的な生産性の向上にもつながります。
このように、企業は積極的にDXを推進していかないと、企業競争に負けてしまうでしょう。そこで、SAP ERPを導入することにより、DXを強力に推進していくことが可能です。
コスト削減につながる
SAP ERPにより、部門間がリアルタイムで連携でき、各業務の効率が大幅にアップします。各部門で、人の手により管理されていたものが自動になるだけでなく、部門間の自動連携が進むことで、業務の効率化が大きく進みます。
大幅に業務効率が改善することで、コスト削減が期待できるでしょう。
顧客に対して適切な対応がとれるようになる
SAP ERPにより、各部門の連携がリアルタイム化され、カスタマーサポート部門と製造、販売、物流などの各部門も連携しやすくなります。これにより、顧客からの問い合わせ時に各部門と連絡がとりやすくなり、すばやいサポートを受けられるなどのメリットが得られます。
また、業務効率が改善されることで、きめ細かいサービスが行き届きやすくなることもメリットです。
このように、部門間連携や業務改善が行われることで、顧客に対して適切な対応をとれるようになるでしょう。
自社の社会的信用度が向上する
世界的に多くの企業に採用されている、実績のあるSAP ERPを導入することで、自社の社会的信用度が向上するというメリットもあります。
SAP ERPは高機能なだけでなく、セキュリティレベルも高いため、採用している企業の信頼度も向上します。また、効率のよい業務プロセスを採用していると内外に示せることもあり、企業としての社会的信頼度を高めることが可能です。
内部統制が強化される
SAP ERPが導入されることで、データ管理や業務プロセス管理などが適切に行われます。これにより、内部統制が強化されることにもつながるでしょう。
SAP ERPなどのシステムを導入していないと、人の手によってデータ管理が行われる、各部門でばらばらのシステムが導入されるなどの状態になりがちです。すると、データ管理が甘くなり、情報漏えいのリスクが高まる、統一されていない複雑化、ブラックボックス化したシステムに依存した状態になるなどの弊害が考えられます。
しかし、SAP ERPが導入されることで、データ管理やプロセス管理が適切に行われ、内部統制が強化された状態になります。
持続可能な成長につながる
SAP ERPを導入することで、システムの複雑化やブラックボックス化、作業の属人化などを防ぐことが可能です。また、制度の改変や人材の再配置などが行われても、持続可能な成長をつづけていけるでしょう。
SAP ERPのデメリット
SAP ERPにはメリットが多いですが、デメリットもあります。導入時に注意したいSAP ERPのデメリットについて、ご説明します。
導入費用が高い
SAP ERPの導入費用は非常に高く、中小企業向けでも3,000万円ほどの費用がかかるといわれています。幅広い業務にわたって高度な機能が搭載されており、値段相応とはいえ、初期費用は非常に高額です。
そのため、初期費用が安いクラウド版を導入するという方法もあります。しかし、クラウド版の場合はランニングコストがかかるため、かえって高額になる可能性が高いことに注意が必要です。
操作がむずかしい
SAP ERPは機能が豊富で複雑なので、操作がむずかしいという問題もあります。
導入や運用をベンダーに任せるという方法もありますが、その場合は導入目的や業務内容などを正しく伝えられないと、利用時に問題が発生してしまいます。ベンダーに任せる場合にも、SAP ERPの機能を正しく理解し、ベンダーに利用目的や自社の業務について、正確に伝える必要があるでしょう。
自社で管理する場合には、SAP ERPの講習を受けるなどして、操作方法や機能について学ぶ必要があります。
SAP ERPの種類
SAP ERPには長い歴史があり、導入企業も多いため、さまざまなバージョンのソリューションが発売されています。ここでは、代表的なSAP ERPの種類についてご説明します。
SAP ECC
クライアントサーバー型のパッケージ製品で、一般的には「SAP ERP」と呼ばれます。従来のSAP R/3の機能を引き継いだ製品で、業務などに応じて機能を自由にカスタマイズできるのが大きなメリットです。カスタマイズすることで、業務内容やプロセスにあわせられ、利便性や効率がさらに高まるでしょう。
なお、サポートは2027年までである点に注意が必要です。後継製品は次でご説明する「SAP S/4HANA」です。
SAP S/4HANA
従来のSAP R/3の機能を引き継いだ製品で、上記でご説明したSAP ECCの後継製品でもあります。多くの企業が導入しており、リリース後1年間で3,200社もの企業が採用したという実績がある、人気の高いERPです。
データの書き込み時には、従来のようにSSDやHDDなどのストレージに書き込むのではなく、メインメモリに書き込まれます。そのため、データの読み書きが高速で、使い勝手がよくなっています。
また、複数のシステム、プラットフォームと連携してデータを統合でき、全体として業務プロセスを自動化することが可能です。
SAP S/4HANA Cloud
上記でご説明したSAP S/4HANAのクラウド版です。クラウド版のため、自社のネットワーク構成の見直しやサーバー導入などの必要がなく、比較的手軽に導入できるでしょう。本社と支社などの複数拠点のデータ連携なども、容易に行えます。
オンプレミス版では更新が遅れがちですが、クラウド版なので、四半期ごとの更新をすばやく受けられるのも大きなメリットです。
SAP Business One
中小企業向けに、基本機能である管理会計、外貨管理、経費精算、在庫管理、販売管理、BIツールが含まれたタイプです。基本機能で十分という場合に、選択肢に入れるとよいでしょう。
SAP Business ByDesign
中堅企業向けのクラウド版ERPです。以下のような4プランから選択でき、自社にあった機能が含まれたプランを選べます。
・Base Package
・Self-service user
・Team user
・Enterprise user
上記のSAP Business Oneよりも、豊富な機能を選べるでしょう。
SAP ERPの導入にあたって必要なこと
SAP ERPを導入する際に、必要なことについて解説します。
導入が必要かどうかを判断する
そもそもSAP ERPを導入する必要があるのか、まずは判断しましょう。高額な費用を支払い、苦労して導入したところで、効果を得られなければ導入する必要がありません。
導入する場合には、どのような機能を使うと業務効率があがるか、何を実現できるのか、部門間連携によるメリットはあるのかなどを具体的に考えましょう。
業務効率化を行う
業務の効率化が行われていない状態でSAP ERPを導入しても、あまり意味がありません。複雑化、ブラックボックス化が進んでいる状態にシステムを導入するのは、そもそも効率が悪く、導入したとしても成功しないでしょう。
まずは、業務の棚卸しや見直しを行うことで、システムを導入しやすい状態にする必要があります。
自社にあったカスタマイズを行う
自社にあっていないシステムを導入しても使い勝手が悪く、業務の効率化は進まないでしょう。自社の業務や担当者のIT知識、レベルなどにあった状態にカスタマイズして、導入する必要があります。
SAP 2025年問題 /SAP 2027年問題について
SAP ERPには、2025年問題と2027年問題という2つの問題が今後起こることが予想されています。ここでは、この2つの問題についてご説明します。
SAP 2025年問題/SAP 2027年問題への対策
SAP 2025年問題とは、2025年にSAP ERPの保守サポートが終了することによる問題のことです。SAP ERPを使っている企業は、早急な対策が必要です。
さらに、2027年末には、SAP ERPのメインストリームサポートの終了が控えています。そのため、SAP ERPを導入している企業は、対策を講じる必要があります。
SAP 2025年問題とSAP 2027年問題への対策は、以下のとおりです。
・SAP S/4 HANAへの移行
・代替製品への切り替え
・延長保守費用を支払ってSAP ERPを継続利用する
もっともおすすめの対策は、SAP S/4 HANAへの切り替えです。しかし、多くの業務や部門に関わる業務システムを移行するのは、容易なことではありません。対象業務の洗い出しや移行作業、影響の洗い出し、移行計画などを行う必要があるでしょう。
まとめ
この記事では、SAPとは何か、主な機能や導入するメリット、デメリット、SAP ERPの種類、導入時に必要なことなどについて解説しました。
SAPを導入することで業務の効率化が進み、企業競争力の向上が期待できます。
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