Introduction
SAP ERPは、企業の業務効率化やDXの推進などに欠かせないERPパッケージです。そのSAP ERPの最新バージョンであるSAP S/4HANAが登場し、注目を集めています。
この記事では、SAP S/4HANAとは何か、その特徴やメリットなどについて解説します。
目次
SAP S/4HANAとは?
SAP S/4HANAとは、SAP社のERPソリューションのひとつです。2027年にサポートを終了する、旧バージョンのSAP ERPの後継製品として注目を集めています。
ここでは、SAP S/4HANAとはどのような製品なのか、そして2025年問題と2027年問題についてもご説明します。
SAP社が提供する最新のERPソリューション
SAP S/4HANAとは、SAP社が提供する最新のERPソリューションです。
SAP社公式サイトの『SAP S/4HANA Cloud Public Edition』によると、以下のように説明されています。
SAP S/4HANA
SAP S/4HANA Cloud Public Editionは、最新の業種別ベストプラクティスと継続的なイノベーションを提供する、すぐに使えるクラウドERPです。
そもそもSAPとは、ドイツに本社を置く、ヨーロッパ最大級のソフトウェア会社の名称です。SAP社がてがけるERP製品は、世界中で利用されており、多くの大手企業が採用しています。そこから、SAPといえば、SAP社製のERPソリューションのことを指すようになりました。
ERPとは「Enterprise Resource Planning」のことで「経営資源計画」と訳されます。企業や組織がERPを導入することで、ヒト、モノ、カネという経営資源を統合的に管理できます。これにより、業務の効率化や経営の意思決定の迅速化などが可能です。
SAPにはさまざまな機能(モジュール)があり、機能や設定を自由にカスタマイズすることで、自社にあった使い方ができます。たとえば、在庫購買管理の機能を活用し、在庫や棚卸管理と資材発注などの調達管理を連動させることで、無駄のない在庫管理が可能です。さらに販売管理機能も連動させることで、販売、在庫、物流などを一元管理でき、業務効率がアップします。
SAP社は、変化するビジネス環境や法改正、ユーザーのニーズ、IT技術の進化などにあわせ、SAP ERP製品を進化させてきました。そして、旧バージョンのSAP ERPをさらに進化させた、新しいバージョンのSAP S/4HANAが登場しています。従来よりもデータの読み書き速度がはやくなり、複数のシステムとの連動も可能になり、使い勝手が向上しました。
背景にある「SAP 2025年問題/SAP 2027年問題」について
SAP ERPを利用する際に無視できないのが、2025年と2027年に控えるサポート切れの問題です。ここでは、SAP 2025年問題とSAP 2027年問題について、ご説明します。
2025年にはSAP ERPの保守サポートが終了し、さらに2027年末にはSAP ERPのメインストリームサポートが終了します。旧バージョンであるSAP ERPは、ビジネス環境の変化や度重なる機能追加などにより、システムが肥大化しているのです。そのため、リアルタイム性を担保できなくなったという事情があり、サポート終了となりました。SAP ERPを使っている企業は、もうすぐサポートが終了するため、なんらかの対処が必要です。
間近に控えるサポート終了の前に、以下のような対策が必要です。
・SAP S/4 HANAへの移行
・代替製品への切り替え
・延長保守費用を支払ってSAP ERPを継続利用する
もっともおすすめの対策は、いままでと同様のサービスを継続しつつ、高機能を利用できるSAP S/4 HANAへの切り替えです。しかし、幅広い業務や部門にまたがる業務システムを移行するのは、むずかしいでしょう。関連業務や影響の洗い出し、移行作業の検討と移行計画の立案などが必要なため、はやい段階で移行プロジェクトを立ちあげる必要があります。
SAP S/4HANAの特徴
従来のSAP ERPでも多くのメリットを得られますが、SAP S/4HANAでは、さらに進化した機能を活用できるようになりました。
ここでは、SAP ERPの最新バージョンである、SAP S/4HANAの特徴についてご説明します。
インメモリデータベースの採用による処理速度の高速化
もっとも大きな進化が、インメモリデータベースの採用です。インメモリデータベースとは、メインメモリ(主記憶装置)上にデータを展開して、処理を完結させる仕組みです。インメモリデータベースの採用により、ストレージ上のデータを読み書きするよりも、高速な処理を行えるようになりました。
データの変更、削除、追加などがすべてメインメモリ上で完結するため、従来のSSDやHDD上で読み書きを行う方式よりも、数百倍から数万倍も処理速度が向上しています。これについて、SAP社では「ゼロレスポンスタイム」と呼んでいます。
一方で、メインメモリは電源を切るとデータが消える揮発性メモリのため、電源操作によるデータの消失が課題でした。しかし、インメモリデータベース方式では、電源をオフにした際に、ストレージ上にデータを保存することで、この課題を解決しています。
インメモリデータベースの採用により、データ処理速度が圧倒的に向上しました。
同一プラットフォームでのデータ分析・レポーティング
従来のSAP ERPでは、経営戦略に役立つデータ取得の仕組みを、ERPとは別のデータウェアハウスで行っていました。しかし、SAP S/4HANAでは、別の仕組みを用意することなく、同じプラットフォーム上でデータ分析やレポーティングが可能になっています。これにより、経営戦略に役立つデータの取得や分析などを、より便利にできるようになりました。
オンプレミス・クラウド・ハイブリッドへの対応
SAP S/4HANAでは、クラウド版が登場し、オンプレミス環境とクラウド環境を自由に選択できるようになっています。
オンプレミス環境は、自社内にサーバーを用意して利用する方式で、自社だけの環境で自由にカスタマイズできるというメリットがあります。しかしその一方で、費用が高額、自社環境を構築して運用する手間がかかる、バージョンアップが遅れがちなどの問題もありました。
そこで、クラウド環境を選択すれば、ランニングコストはかかるものの、初期費用が安く済む、自社環境を用意する必要がない、更新がはやいなどのメリットを得られます。クラウド版では、四半期単位でアップグレードが行われ、オンプレミス環境では遅れがちだった更新が定期的に確実に行われます。
また、SAP S/4HANAは、データ処理能力が大幅に向上し、高速化しました。そのため、ネットワークを介して利用するクラウド版で、ネットワークの負荷がかかったとしても、処理速度がはやく運用しやすくなっています。
このように、SAP S/4HANAでは、クラウド版とオンプレミス版を選べるようになったため、各企業は自社環境や使い方などにあった方式を選ぶことが可能です。自社でシステム構築や運用をしたくない、初期費用を抑えたいという場合は、クラウド版を選ぶのがよいでしょう。
操作性の向上
SAP S/4HANAでは、新しいユーザーインターフェース(UI)の「SAP Fiori」が登場しました。SAP Fioriによりマルチデバイス対応となり、タブレットやモバイル端末によるアクセスが容易になっています。
また、従来のUIでは、たとえばすべてのメニューから、ドリルダウン形式で延々と目的のメニューを探し出す必要があるなど、使い勝手の悪い部分もありました。しかし、SAP Fioriなら、ユーザーロールに紐づいたメニュー表示が可能になり、操作性が向上しています。
SAP S/4HANAを導入するメリット
上記でご説明したように、SAP S/4HANAはさらなる進化を遂げました。進化したSAP S/4HANAを導入すると、どのようなメリットを得られるのかについて解説します。
企業資源の可視化が可能になる
企業全体の業務データを一元管理し、いま企業内で起きているできごとをリアルタイムで把握できるようになります。
たとえば、販売部門、製造部門、流通部門、カスタマー部門など、各部門のデータが別々に管理されていると、現状何が起きているかを全体として把握できません。たとえば、製造量は十分なのに流通でボトルネックが発生し、商品が行きわたらないという問題が起こっても、全体を把握しなければ対処はむずかしいでしょう。
各部門のデータを一元的に管理できれば、流通部門の人員を一時的に増やすなどうまくコントロールすることで、全体の流れをスムーズにできるかもしれません。
このように、部門を超えて企業全体のデータをリアルタイムで把握できるようになれば、特定の部署だけの利益にとらわれることもありません。企業全体としての利益を、スピード感をもって追求できるようになるでしょう。
従来よりもさらなる業務効率化が可能になる
従来のSAP ERPでも、各部門が連動し、企業全体としての業務の効率化を進められていました。進化したSAP S/4HANAを導入することで、さらなる業務効率化が可能です。
SAP S/4HANAでは、さまざまな機能がひとつのシステムに集約されたため、業務間のデータのやりとりが非常にスムーズです。各業務で何度も同じデータを入力する必要がなく、複数の業務が連携して、処理プロセスを自動化するなども可能になりました。財務管理、生産管理、購買管理、在庫管理、販売管理、人事管理などが統合されており、各業務でのデータ連携が可能です。これにより、業務間のへだたりなどもなく、業務を連携させて、業務効率をさらに向上させることが可能になっています。
DX推進ができる
古い業務システムなどを使っている企業にとって、DXの推進は急務です。経済産業省は「DXレポート」のなかで、DXの推進が遅れると、2025年には企業が大きな損失を生じるという「2025年の崖問題」を提起しました。間近に迫る2025年に向けて、各企業はDXの推進が求められています。
そこで有効なのが、SAP S/4HANAの導入です。さらに機能が改善されたSAP S/4HANAを導入することで、大幅な業務効率の改善が可能になります。各部門に散らばったデータを柔軟に活用できるようになり、企業全体のデータを可視化することが可能です。さらに、複数の部門にまたがる膨大なデータを加工、解析しやすくなり、価値のあるビッグデータを構造化しやすくなっています。ビッグデータから価値のある情報を抽出することで、新たなビジネスの創出や業務効率化などができ、DXの推進につながるでしょう。
システム運用の負担軽減によりコスト削減ができる
SAP S/4HANAを導入することで、各部署に分散していたシステムをひとつに統合できます。これにより、システム運用の負担が軽減され、IT部門のコスト削減につながるでしょう。
中小企業など人手が少ない企業では、システム運用業務の負担が大きくなると、コア業務を圧迫してしまいます。一方、人員が豊富な大手企業でも、管理すべきシステムが多くなるため、やはりシステム運用業務の負担は大きいです。
そこで、システムが集約され、一元管理できるSAP S/4HANAなら、システム運用の無駄を最小限にとどめられます。運用の手間を減らせるうえに、高度な機能を活用できるため、最小限のコストで最大限の効果を得られるでしょう。
ガバナンスとセキュリティが強化される
SAP S/4HANAによって、企業内のデータ連携が容易になり、クラウド機能の追加によって、どこにいても社内データを活用できるようになりました。しかしその一方で、機密データの漏えいや、社外もち出しなどのリスクも高まっています。実際、サイバー攻撃や内部犯罪などによる情報漏えいなど、セキュリティインシデントが頻繁に起きているのです。このような事態を避けるために、ERPによって社内のデータを一元管理し、内部統制の徹底が必要になります。
SAP S/4HANAでは、データを一元管理でき、アクセス権限の適切な設定が可能です。社内のデータを厳密に管理することで、内部統制を徹底でき、セキュリティ対策を充実させることも可能です。
SAP S/4HANAは導入すべきか?
SAP S/4HANAは、本当に導入すべきなのでしょうか?ここでは、SAP S/4HANAを導入した企業の成功事例や失敗事例について、ご紹介します。
<成功事例>
・紙媒体の請求書を廃止し、支払承認プロセスの電子化に成功した
・国産ERPパッケージからSAP S/4HANAに移行することで、グローバル化に成功した
・クラウドシステムの導入により、運用・保守の負担が大幅に削減した
・部門ごとに構築していたシステムを刷新し、部門間でデータの連携が可能になった
・社員データや業務データをリアルタイム連携できるようになり、業務が効率化した
<失敗事例>
・目的なく導入したため、導入効果が感じられない
・操作がむずかしく、業務効率化につながらない
・データ連携がうまくいかない
上記の成功事例のように、明確な改善目的がある場合は、自社にあった機能にカスタマイズすることで業務改善が可能です。しかし、目的なく導入したり、社員への説明が足りなかったりすると、失敗してしまうでしょう。自社でSAP S/4HANAを導入すべきかを、具体的に検討する必要があります。
まとめ
この記事では、SAP S/4HANAとは何か、その特徴やメリットなどについて解説しました。
SAP S/4HANAは大きく進化を遂げ、処理の高速化やクラウド化、操作性の向上などを実現しています。業務の効率化やDXの推進を進めたい企業は、導入を検討してみてください。
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