量子コンピューターとは?特徴や従来型との違い、研究開発の状況について解説

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量子コンピューターとは?特徴や従来型との違い、研究開発の状況について解説
株式会社SHIFT マーケティンググループ
著者 株式会社SHIFT マーケティンググループ

Introduction

AIやビッグデータなどのIT技術は日々進化をつづけており、次々と実用化が進んでいます。その一方で、AIツールが大量のデータを学習する、ビッグデータを解析するなど、膨大な量のデータをスピーディーに処理する高性能なコンピューターが必要です。

そこで注目されているのが、量子コンピューターです。高性能な量子コンピューターが実用化されれば、ビッグデータの解析、AI開発、医薬品の開発、金融分野などに大きな進展をもたらすといわれています。残念ながら、量子コンピューターは実用化に至っていませんが、研究は進められており、その過程でさまざまな技術が生まれているのです。

この記事では、量子コンピューターとは何か、量子コンピューターに関する問題点や今後の展望などについて解説します。

目次

量子コンピューターとは

量子コンピューターとは

量子コンピューターは、従来のコンピューターとは異なる新世代のコンピューターです。量子コンピューターとして実用化できるレベルには至っていませんが、従来のコンピューターが処理できる情報量をはるかに超える可能性を秘めています。

ここでは、量子コンピューターとはどのようなものなのか、従来のコンピューターとは何が違うのかについて解説します。

量子の性質を利用して計算を実施するコンピューターのこと

量子コンピューターとは、量子ビットという量子特有の性質を利用して、情報処理を行うコンピューターです。従来のコンピューターよりも、処理できる情報量が劇的に増えるといわれています。

量子とは、原子、電子などの微細な世界で、物質が粒子性と波動性をあわせもつ状態になったものです。波動性をもつことで、その波長による共鳴現象が発生し、安定して存在できるエネルギー状態が離散化されます。わかりやすい例はLEDで、電流として供給される電子のエネルギーが、波動である光に変換されることで光る仕組みです。

このような量子(力学)技術は、現在のコンピューターにも幅広く応用されていて、トランジスタの微細化・高集積化に貢献してきました。ただし、部分的な応用に限定されていて、値の記憶や計算は、電圧の有無で1と0の状態を表すことで動作しています。

量子ビットは、量子の内部状態を利用して、1と0が混合した状態を一つの量子で表現しようという技術です。計算処理が量子の重ね合わせで実行できるようになり、現在のコンピューターでは実現できない高速な並列計算が可能になることが期待されています。研究レベルではすでに稼働している量子コンピューターもありますが、量子ビットの安定性や、確率的挙動に課題が残っています。

現段階では量子コンピューターでエラーが発生してしまうため、求める計算能力を発揮できていないのが実情です。実用化するためには、エラーを検出して訂正していく技術が必要とされています。

量子コンピューターの研究開発は、1980年代から進められてきました。現在も、Google、IBM、Microsoftなどの大手企業や研究機関が、量子コンピューターの開発を進めています。現段階では実用化されていないものの、量子コンピューターの研究課程で、新たな技術が生まれているのです。

量子コンピューターが実現すれば、ビッグデータの解析やAIの能力の向上、交通システムの改善、新薬の開発スピードアップなど、多くの分野での活躍が期待されています。

従来型のコンピューターやスーパーコンピューターとの違い

量子コンピューターの概念が登場したことで、従来型のコンピューターは、古典コンピューターと呼ばれることがあります。また「富岳」「京」などのスーパーコンピューターも、古典コンピューターの発展形です。

従来型のコンピューターは、0か1かを表すビットを情報の単位として処理を行い、1ビットごとに一つの情報を処理します。一方、量子コンピューターは「量子ビット」を用いるのが特徴です。量子ビットは、同時に0と1の状態を両方もつことが可能で、異なる量子ビット同士が結びつくという特徴をもちます。

量子コンピューターはこの特徴を活用して、一度に多くの情報を処理できるのです。その結果、計算速度が格段に向上し、大量のデータを高速で処理できるといわれています。

今後期待される量子コンピューターの活用例

今後、量子コンピューターが実現した場合、具体的にどのような分野で活用が期待されているのかをご紹介します。

・トラフィックの最適化
都市部の交通状況を把握して最適化するためには、大量のトラフィック状況などの情報を処理して、複雑な分析を行う必要があります。量子コンピューターがあれば、渋滞の少ない効率的なルートを見つける最適化計算などを、スピーディーに行うことが可能です。

・新薬の開発
量子コンピューターによって、新薬の研究において分子レベルでのシミュレーションが可能になれば、新薬の研究開発のスピードが大幅に向上するでしょう。

・気象予測
気象の複雑なパターンを予測するためには高度な計算能力が必要ですが、量子コンピューターが実現すれば、高速処理が可能になると期待されています。

・投資におけるリスク評価、ポートフォリオの作成など
複雑でつねに変動する金融市場において、リスク評価や投資ポートフォリオの最適化などは、従来型コンピューターではむずかしいケースも多いです。量子コンピューターが実現すれば、膨大な量のデータ分析が可能になり、市場予測ができる可能性もあります。

量子コンピューターの種類

量子コンピューターの研究は、1980年代ごろから行われてきましたが、その研究の歴史のなかで2種類のタイプが登場しています。

ここでは、2種類の方式について簡単に解説します。

量子ゲート方式

1990年代ごろから研究が進んだ方式で、現在もGoogleやIBMが研究開発を進めています。量子重ねあわせや量子のもつれなど、量子ビットの性質を利用する方式です。

1994年に、アメリカの論理計算科学者であるピーター・ショアが「ショアのアルゴリズム」という因数分解のアルゴリズムを発表しました。従来のコンピューターでは時間がかかりすぎていた因数分解の計算を、量子ゲート方式の量子コンピューターを用いて、実用的な速度で実行できるようにしたものです。

量子ゲート方式は、難解な問題に対して高い計算能力を発揮することがわかっていますが、問題も存在します。そのため、現在も実用化に向けて、研究開発が進められています。

量子アニーリング方式

2011年にカナダの企業のD-Waveシステムズが、この方式で量子コンピューターの開発に成功したと発表し、話題になりました。これは、1998年に、東京工業大学の教授が提唱した理論がもとになっています。

量子アニーリング方式は「組み合わせ最適化問題」を解くことに特化した方式です。複数の選択肢のなかから、組み合わせた結果を評価することで、最適な組み合わせを決めるという問題です。量子ゲート方式の量子コンピューターよりも、用途が限られています。

2015年にNASAで行われた会見で、D-Waveの量子コンピューターの性能は、従来型のコンピューターの1億倍も高速であると発表され、大きな話題となりました。

量子コンピューターの懸念点

量子コンピューターが実現すると、さまざまな分野の研究開発が劇的に進むことが期待されています。しかし、その一方で、セキュリティリスクなどの懸念される問題もあります。

ここでは、量子コンピューターが実現した際の懸念点について見ていきましょう。

セキュリティリスクが存在する

量子コンピューターが実現して処理速度が向上すると、暗号化の仕組みが簡単に破られるなど、セキュリティに関する問題が発生する可能性が考えられます。

重要なデータが第三者に閲覧されないように、さまざまな暗号化のアルゴリズムが採用されているのが特徴です。そのアルゴリズムは、簡単にいうと「コンピューターが時間をかければ解読できるが、そう簡単には解読できない」という仕組みになっているものもあります。

しかし、量子コンピューターが実用化して、処理能力が大幅に向上することで、時間をかけずに暗号を解読してしまう可能性もあるのです。

上記で、量子ゲート方式の量子コンピューターが、時間のかかる因数分解の計算を、実用的な速度で行うことに成功したとご説明しました。暗号化の公開鍵は素因数分解の仕組みをベースとしていますが、量子コンピューターが登場することで、公開鍵の仕組みを無効化してしまう可能性があります。

このように、量子コンピューターの高い処理能力を悪用すれば、セキュリティのリスクになる可能性も十分あることがわかります。

既存のコンピューターの完全な置き換えにはならない

量子コンピューターは、高度な計算能力をもつコンピューターですが、既存のコンピューターのかわりになるわけではありません。また、量子コンピューターがあれば、どんなむずかしい問題でも高速で解けるというわけでもないため、注意が必要です。

量子コンピューターが、従来のコンピューターよりも高速に処理できる数学的な問題は、実はそこまで多くありません。解決できる問題のなかでもビジネスにつなげられるのは、機械学習や量子シミュレーション、量子化学計算など一部の分野だけです。

通常によく行われる四則演算や表計算などが高速化するわけではないため、量子コンピューターが実用化したとしても、従来型のコンピューターが必要です。

量子コンピューターが実現すれば、AIや機械学習のデータ処理、金融分野でのポートフォリオの最適化やリスク計算、新薬の研究における複雑な計算などが高速化するといわれています。そのため、これらの分野の研究開発が大幅に進化するでしょう。

しかし、従来のコンピューターが行っていた計算や処理がすべて、量子コンピューターに置き換わるわけではないため、共存していく必要があります。

量子コンピューターの研究開発の状況

量子コンピューターの研究開発の状況

ここまでご説明したとおり、量子コンピューターの研究開発は大手企業や研究機関が進めていますが、実用化にはまだ時間がかかるという状況です。

現時点で高い計算能力をもつ、スーパーコンピューターを超える量子コンピューターは、いまだに登場していません。現在の量子コンピューターでは「量子エラー」が発生してしまうことで、求める計算能力を発揮していないためです。

この問題を解決するには、量子エラーを検出して訂正する「量子エラー訂正技術」が必要で、スーパーコンピューターを超える処理能力が必要といわれています。

また、コンピューターが処理を行う際に発熱するため、-273℃の絶対零度近くの低温を維持する冷却装置も必要です。高い処理能力をもつ量子コンピューターを動作させるためには、体育館くらいのサイズの装置が必要といわれています。そのような規模の装置を絶対零度近くまで冷却するのが、むずかしいという問題もあります。

このような状況で量子コンピューターが実用化され、ビジネスに活用できる状態になるためには、さらなる研究開発が必要です。

量子コンピューターの実用化はいつになる?

では、量子コンピューターが実用化されるのは、いつごろになるのでしょうか?

上記でご説明したとおり、実用化するためには、量子エラー訂正機能をもつ量子コンピューターを実現する処理能力が必要です。量子コンピューターの処理能力は年々向上しており、このまま順調に研究が進めば、2035年ごろには必要な処理能力をもつ量子コンピューターが登場するといわれています。

しかし、コンピューターの冷却の問題も解決する必要があるため、量子コンピューターが実用化するまでには、さらに時間がかかると考えられています。

まとめ

量子コンピューターとは、量子ビットという量子特有の性質を利用して、情報処理を行うコンピューターです。従来のコンピューターよりも、処理できる情報量が劇的に増えるといわれています。

現在も、量子コンピューターの研究開発は進められており、実用化すれば、AIや機械学習、金融分野、新薬研究などの分野が大幅に進化すると考えられています。

 

 

永井 敏隆

 

監修

株式会社SHIFT
「ヒンシツ大学」クオリティ エヴァンジェリスト
永井 敏隆

大手IT会社にて、17年間ソフトウェア製品の開発に従事し、ソフトウェアエンジニアリングを深耕。SE支援部門に移り、システム開発の標準化を担当し、IPAのITスペシャリスト委員として活動。また100を超えるお客様の現場の支援を通して、品質向上活動の様々な側面を経験。その後、人材育成に従事し、4年に渡り開発者を技術とマインドの両面から指導。2019年、ヒンシツ大学の講師としてSHIFTに参画。

担当講座

・コンポーネントテスト講座
・テスト自動化実践講座
・DevOpsテスト入門講座
・テスト戦略講座
・設計品質ワークショップ
など多数

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ヒンシツ大学とは、ソフトウェアの品質保証サービスを主力事業とする株式会社SHIFTが展開する教育専門機関です。
SHIFTが事業運営において培ったノウハウを言語化・体系化し、講座として提供しており、品質に対する意識の向上、さらには実践的な方法論の習得など、講座を通して、お客様の品質課題の解決を支援しています。
https://service.shiftinc.jp/softwaretest/hinshitsu-univ/
https://www.hinshitsu-univ.jp/
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この記事を書いた人

株式会社SHIFT マーケティンググループ
著者 株式会社SHIFT マーケティンググループ

SHIFTは「売れるサービスづくり」を得意とし、お客様の事業成長を全力で支援します。無駄のないスマートな社会の実現に向けて、ITの総合ソリューションを提供する会社です。

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