目次
ひとくちに製造業DXといっても、変革するビジネス領域も活用する技術もさまざまです。DXプロジェクトが同時並行で進められることも珍しくありません。錯綜するDXプロジェクトを個別最適に陥らせないように統制するDXガバナンスの構築は重要です。また、業務知見と技術知見も多岐にわたるため、多様なDX人材が必要になります。
今回のコラムでは、多様な製造業DXを支えるDXガバナンスとDX人材について、以下の論点で整理しています。
・製造業DXによる変革にはどのようなものがあり、それぞれにどのビジネス部門が主導しているか。
・ビジネス部門主導のDX推進により成果は出ている一方で、部分最適の弊害も目立つこと。
全体最適化のため、IT部門も参画するDXガバナンスが重要であること。
・DXガバナンスの実施やデジタル技術活用のため、どのようなDX人材が必要とされているか。
・DX人材を活かすためには、どのように配置し、DX推進の組織体制を作るか。
・自社のDX人材の現状をどのように理解するか。
DX人材の確保・育成の施策をどのように検討するか。
製造業DXの取り組み領域
製造業にとってのDX(=デジタル技術を活用したビジネス変革)は、下記の表のようにそれぞれのビジネス領域で関連部署を巻き込んで、さまざまな取り組みが進んでいます。
製造業DXの代表例
DXの領域 | 主な関連部門 | 主な取り組み |
製造領域 |
生産技術、生産管理、製造、品質保証 |
工場・製造現場のDX。 |
サプライチェーン領域 |
調達、生産管理、物流、需給・SCM管理、営業 |
自社の部品工場・組立工場に加え、サプライヤーも巻き込んで、データを集約・分析して、購買・生産・物流・在庫計画を最適化する。 |
設計領域 |
設計、商品開発 |
設計データを3D CADなどでデジタル化し、シミュレーションを使って、設計作業の効率化・高度化を行う。 |
サービス領域 |
サービス |
販売後の製品の稼働データや使用履歴データを活用し、アフターサービスの向上と、社内の業務の効率化・部品在庫の最適化などに活用する。 |
営業・販売領域 |
マーケティング、営業 |
デジタルマーケティングの領域。 |
顧客サポート領域 |
カスタマーサポート、品質保証 |
お客様からの問合せに対し、蓄積データから回答情報を提供する、または、デジタルエージェントで自動回答するなど、顧客サポートの高度化・効率化を図る。 |
間接業務領域 |
管理部門(企画・経理・人事・総務・調達・法務)、間接部門 |
管理部門、間接部門のオフィスワークを、ペーパーレス化(AI-OCR等)を推進し、BI、RPA、ローコードツール、AIエージェントなどを活用して効率化する。(データの民主化、市民開発の推進) |
コネクテッド社会で外部との連携が求められる、「サプライチェーン」、「エンジニアリングチェーン(設計領域)」、「サービスチェーン(サービス領域、営業・販売領域)」の変革に加え、モノづくりの本丸である「製造領域」でのDXも進んでいます。
加えて、「顧客サポート領域」や企画・経理・人事・調達・法務などの管理部門・間接部門などの「間接業務領域」にもデジタル技術が適用され変革が行われています。
ビジネス部門主導のDXの成果・課題とDXガバナンス
外部のサービスを利用したビジネス部門主導のDX
DXの推進には、従来の企業内IT部門ではスキル・経験が乏しい、以下のような技術が活用されています。
・ AI、データ分析技術
・IoT技術、設備のスマート化技術
・アジャイル開発
・モバイルツール開発
・ローコード開発技術
他社との競争を意識するビジネス部門では、自社内にナレッジが蓄積されるのを待てず、外部ベンダーやSaaSサービスを活用し、ビジネス部門主導でDXプロジェクトを推進するケースも目立ちます。
ビジネス部門主導のDXプロジェクトにおける外部ITベンダー/サービスの活用事例
No. |
DXプロジェクト例 |
外部のITベンダー/サービスの活用 |
1 |
スマートファクトリー |
■IoT関連のサービスは専門性の高いベンダーが担当 |
2 |
出荷後製品の |
社内IT部門の対応遅れもあり、 |
3 |
デジタルマーケティング |
■広告代理店のネットサービスの充実 |
4 |
市民開発 |
■BI、RPA・ローコードツール、AIエージェントなどビジネス部門が現場で利用可能なサービスの普及 |
ビジネス部門主導のDXの成果と課題
ビジネス部門主導の取り組みはスピード感をもって新技術の有効性・実用性を検証して業務効率化や顧客サービス向上につなげ、競争力強化に貢献しています。
一方で、部門単位・工場単位で個別に実施されていて、属人性や個別最適が残り、部分的な効率化だけ終わってしまう事例も多く聞かれます。
このようなケースでは、データの分断・サイロ化が解消されないので、次に新たな取り組みをする際にもデータの統合・整理を繰り返すことになり、重複投資が発生します。また、トライアルから継続運用に移る際にも、運用業務の標準化・効率化を進めにくく、IT費用の肥大化につながります。特に、技術スキルを内製化できない状況が続けば、継続的に外部ベンダーに依存しつづける状況になり、コストが高止まり、変革も制約されることになります。
システムの品質ついても、外部依存がつづけば、管理責任が曖昧となり、品質管理に懸念が生じます。今後、AI監査などの規制が予想されるなかで、開発したAIの品質も課題になる恐れがあります。
このような問題を排し、全社レベルで全体最適化するうえでは、DXプロジェクトを統合するプログラムマネジメントやIT基盤の標準化等のDXガバナンスの取り組みが不可欠になってきています。

DXガバナンスの内容と体制
DXガバナンスは、DX推進におけるリソース配分の全体最適化とリスクの適切なコントロールを目指し、以下の3つの取り組みを統合したものになります。
①全社DX推進体制
DX投資やDX人材配置などのリソース配分の責任と権限を定め、意思決定プロセスを構築します。また、全社のDXプロジェクトを対象に、企業戦略とのアラインメントとプロジェクト間の調整や指示などのプログラムマネジメントを実施する体制と役割を整備します。
②DXルール管理
IT統制のルールを包含し、DX推進に必要となるDX関連のルールの策定と運用を担当します。
主な内容としては、データの民主化と適正な利用を担保するデータガバナンスのルール、IoTや設備系ネットワークに関するセキュリティルール、多様化するDX実現のためのシステムの品質管理などがあります。品質管理は、社内向けだけでなく、事業部門が主導して構築する顧客向けDXサービスも対象になります。今後規制が検討されるAIの品質管理への対応も必要です。また、コネクテッド社会で必要なカーボンニュートラルやトレーサビリティ等のグローバル規制への対応も必要です。
③DX基盤の整備
従来のIT基盤に加え、DXで活用される新たな技術でも標準化を推進し、効率的に保守・運用する仕組みをつくります。対象としては、データ連携基盤、アジャイル開発で必要なDevOps環境、市民開発のためのRPA・ローコードツールに加え、最近ではAIエージェントの利用環境などが想定されます。

DXの技術要素とDX人材
DX人材の必要性
自社内でDX人材を確保・育成するのは、前章に書いたように、DXに関する技術スキルの外部依存の軽減とDXガバナンスの推進体制の構築することが重要な目的です。
DXガバナンスは前章でまとめているので、以下では、DX推進に必要な技術について整理します。
DX推進に必要な技術要素
DXの導入には、これまでIT部門が蓄積してきた技術だけでは不足です。IT部門だけでなく、以下のような技術要素についてビジネス部門と共同で取り組む必要があります。
- 製造現場データ・物流データの活用では、生産技術や設計などの製造部門
- デジタルマーケティングや顧客サポートでは、営業・マーケティング部門とカスタマーサービス部門
- 出荷後製品の稼働監視や運転支援サービスでは、サービス部門
特に、表中で「★」をつけた、データ分析や最適化などのアナリティクス、データ連携基盤や業務DX基盤(ローコード、AIエージェント等)、IoT技術、自動化設備は、DX推進に向けて新たに重要になる技術要素です。
また、「■」をつけた技術要素ではシステムの「アジャイル開発」が導入されています。
ビジネス部門主導のDXプロジェクトにおける外部ITベンダー/サービスの活用事例
分類 |
技術要素 |
対象となる技術 |
DXで必要 |
アジャイル開発 |
主な管理部署 |
||
IT部門 |
製造部門 |
その他 |
|||||
IT |
外部連携システム |
オンライン取引、受発注、取引先連携 |
〇 |
△ |
|||
デジタルマーケティング、顧客サポート |
★ |
■ |
〇 |
ー |
〇営業・マーケ・CS部門 |
||
(出荷後の)製品稼働監視、顧客向け運転サポート |
★ |
■ |
〇 |
ー |
〇サービス事業部門 |
||
基幹業務システム |
設計システム: PLM、CAD |
△ |
〇 |
||||
業務システム: ERP、生産/操業管理、物流・在庫管理、品質・動態管理、設備資産管理 |
〇 |
△ |
|||||
現場実行系システム: MES、WMS/工場内物流 |
ー |
〇 |
|||||
計画最適化システム |
データ分析を活用した、生産・SCM最適化 などの最適化システム |
★ |
■ |
△ |
〇 |
||
データ連携基盤(分析) |
データ分析(AI、機械学習)、シミュレーション技術 |
★ |
■ |
△ |
〇 |
〇主管業務部門 |
|
データ連携基盤(管理) |
データ収集・配信、データ蓄積 |
★ |
〇 |
ー |
|||
IT基盤 |
サーバ、ストレージ、広域ネットワーク(有線、無線、衛星)※ 一括提供するクラウドサービスも含める |
〇 |
ー |
||||
業務DX基盤 |
BI・統計ツール、RPA、ローコードツール、AIエージェント |
★ |
〇 |
ー |
|||
オフィスツール 等 |
オフィス系ソフト、コミュニケーション基盤(メール、データ共有)、モバイル機器(オフィス系) |
〇 |
ー |
||||
OT |
制御系システム |
SCADA、DCS、PLC |
ー |
〇 |
|||
設備監視系システム |
設備監視、エネルギー管理、製品稼働管理 |
ー |
〇 |
||||
IoT |
IoTプラットフォーム |
IoTデータの収集、制御データの配信などのプラットフォーム |
★ |
ー |
〇 |
||
構内ネットワーク |
工場・物流センターなどの構内の有線・無線ネットワーク、IoTゲートウェイ、エッジサーバ |
★ |
ー |
〇 |
|||
デバイス |
センサ、モバイル機器(現場系、VR/AR) |
★ |
ー |
〇 |
|||
設備 |
自動化設備 |
製造・検査設備、物流・マテハン設備 |
★ |
ー |
〇 |
DX人材像の検討例
多様なDX人材の全体感を整理するため、DXガバナンスを推進する人材とDXに必要な技術スキルを保有する人材の2種類に大別し、「DX人材像」を定義して説明します。この人材像は1つの検討例であり、それぞれの企業が自社の方針や組織構造にあわせて考えるべきものです。
まず、DXガバナンスを支えるDX人材像は、以下のように定義します。
①「全社DX推進」を担う人材像
DX活動の全体最適化に向けて、DXプロジェクトのプログラムマネジメントを担う役割として、「CDO(Chief Digital Officer)/CDOスタッフ」が必要です。自社のDX推進活動を経営戦略と適合させる役割を担う役員としてCDOが任命され、DXへのリソース配分について最終的な責任・権限をもちます。その下にCDOスタッフが組織化されてプログラムマネジメントの実施体制がつくられます。
一つ一つのDX推進はプロジェクト活動となり、部門横断型で最適化を図ることが必要となります。そのため、部門間調整を図りながら改革を推進する力量をもつ「DXプロジェクトマネージャー」を置く必要があります。
全社改革であるDXの成果を出すうえでは、現場で主体的に改革を理解し実行することが求められます。必要なDX技術を使いこなし、自部署の改革・改善を推進する「DX業務推進リーダー」となる人材を確保し任命することも重要です。
②「DXルール管理」を構築・運用する人材像
ITガバナンスのルールをベースとして、CDOの管理・統制のもとでDXガバナンスに関するルールの策定と運用・改善を図る「DX統制マネージャー」の役割が必要です。データの民主化や市民開発を安全に推進するためのデータ・システムの利用ルール、AI活用ルールなどを整備していくことが求められます。
データの活用を促進するうえでは、データマネジメントの知見をもって、全社のデータモデル(メタデータ)の整備と継続的なアップデートを実施する「データモデルマネージャー」の役割も必要になります。データガバナンスを推進する責任者になります。
DXの推進では、品質管理の観点も変わります。社内システムでもAIなどの最新技術の利用が進みます。加えて、事業部門が主導する顧客・取引先向けのDXサービスも対象となります。これらのDXサービスのためのシステムのプロジェクト品質・ソフトウェア品質の管理と運用を行う「品質管理マネージャー」も、役割が増えるという観点で重要なDX人材です。
③「DX基盤」を担う人材像
従来からのIT基盤に加え、DXの推進に当たっては、データの収集・蓄積・分析を行う「データ連携基盤」や、データの民主化・市民開発に必要なBI・RPA・ローコードツール・AIエージェントなどの「業務DX基盤」の構築・保守・運用が必要です。これらの技術に関するスキル・ナレッジを持ち、安定した基盤運用を行う「DX基盤エンジニア」を育成していくことが求められます。
次に、DXを支える技術要素のスキルを身につけた人材像を定義します。
④「アナリティクス」技術に関する人材像
アナリティクス技術を担う人材は、以下の2つが必要です。
まず、AI・機械学習・統計処理などアナリティクス技術に精通する「データサイエンティスト」です。現場のアナリティクスに関する期待・ニーズを理解し、適切な分析技術・手法を選定し、PoCから本番実装まで技術的に支援します。
次に、業務知見をもち、分析の前提となる仮説の設定や分析結果の解釈ができる「ビジネスアナリスト」です。アナリティクス技術を現場の実務に落とし込む役割を担います。設計・開発、製造・品質保証、SCM、保守・サービス、マーケティング、管理部門における不正防止(フォレンジック)等、業務領域ごとに人材確保することが必要です。
⑤「アジャイル技術」に関する人材像
アジャイル開発の推進には大きく分けて、ビジネス部門側に立って実現すべき目的を設定し、プロダクトの機能・品質に責任をもつ「アジャイルプロダクトマネージャー」と、システム構築側でアジャイル開発を行う「アジャイルエンジニア」との2種類の人材像が必要です。
⑥「設備/IoT」領域のエンジニア人材
主に製造部門が担ってきた技術を担当する人材像になります。
1つは、設備の自動化技術に精通する「自動化エンジニア」です。設備に関するエンジニアスキルに加え、自動化(スマート化)技術を理解し、自社への有効性の判断や導入後の改善・改修を担う人材になります。
2つ目は、設備や製品・部品からデータを収集し、活用できるように加工する「IoTエンジニア」になります。IoTの実装には、「センサ」「構内ネットワーク」「IoTプラットフォーム」「モバイル・VR/AR」「IoTセキュリティ」が必要になり、技術領域で人材像がさらに細分化されます。
ビジネス部門主導のDXプロジェクトにおける外部ITベンダー/サービスの活用事例
DXガバナンス | 全社DX推進 | CDO/CDOスタッフ | 全社のDX推進担当役員と補佐役 DXプロジェクト全体のプログラムマネジメント |
DXプロジェクトマネージャー | 部門横断/End to Endでの業務改革を推進し、DXプロジェクトを管理 | ||
DX業務推進リーダー | 自動化/ローコードツールなどを活用して、現場で自部門業務の見直し・改善を推進 | ||
DXルール管理 | データモデルマネージャー | 全社のデータモデルを整理し、データガバナンスを設計し実施 | |
DX統制マネージャー | データ民主化、市民開発、AI活用など、DX活用で必要となるガバナンスの構築・推進 | ||
品質管理マネージャー | DXサービスシステムのプロジェクト品質/ソフトウェア品質、及び、その評価プロセスの管理 | ||
DX基盤 | DX基盤エンジニア | データ連携、DevOps、AI、ローコードツールなどの、DX基盤選定・導入・運用 | |
技術領域 | アナリティクス | データサイエンティスト | アナリティクス技術に精通するデータ分析の専門家 |
ビジネスアナリスト | 業務視点で分析の仮説設定、分析結果の解釈 | ||
アジャイル | アジャイルプロダクトマネージャー | アジャイル開発において、ビジネス視点でリードするプロダクトマネージャー | |
アジャイルエンジニア | アジャイルのスクラム開発のリーダー/メンバーととしてシステム化を推進 | ||
設備/IoT | 自動化エンジニア | 工場・倉庫などでの、自動化設備の設計・導入・運転・保全を実施 | |
IoTエンジニア | IoTプラットフォーム、IoTセキュリティ、センサ、構内ネットワーク、モバイルなどの技術に精通 |
【参考】DX人材像(設定例)詳細:IoTエンジニアの種類
DX人材像 |
人材が担当する業務(専門性) |
|
IoTエンジニア |
センサ技術 |
現場で利用されるセンサの技術に精通し、利用するセンサを評価・選定、センサの設置を指導し、運用を助言 |
構内ネットワーク |
工場・物流センターなどの構内の有線・無線ネットワーク、IoTゲートウェイ、エッジサーバの技術選定、導入、運用 |
|
IoTプラットフォーム |
IoTプラットフォームサービスの評価・選定、導入、運用 |
|
モバイル・VR/AR |
モバイル機器やVR/AR技術を評価・選定、活用方法の検討、導入、運用、活用・定着化への助言 |
|
IoTセキュリティ |
IoT技術を活用したネットワークや設備・機器のセキュリティの管理 |
DX人材の配置から考えたDX推進体制
前章で定義したDX人材像を前提に、コネクテッド社会で求められる部門横断型で全社最適を目指すDX推進体制の検討例が以下の図になります。
DX人材像でも書いたことと同様に、これも企業ごとの組織体制の検討のたたき台としてつくっています。

DXガバナンスの徹底と技術スキルとの適合性から、組織の形態について、以下の4点を考慮する必要があると考えています。
①全社DXの責任体制とプログラムマネジメントの仕組み
全体最適なDX活動を推進するためには、コーポレート組織の中にDXプロジェクトを経営戦略に基づいて統制できる体制があることが必要です。そのため、CDO/CDOスタッフを経営に近い位置づけとしています。
②DXを全社横断型プロジェクトとして運用
DXプロジェクトを個別最適に陥らないようにするには、部門内のプロジェクトとせず、コーポレートの管理下で部門横断型のプロジェクトとすることが効果的です。
DXプロジェクトマネージャーとアジャイルプロダクトオーナーは専任とし、部門から切り離す体制が適切です。
③IT部門と一体運営となるDX部門
DX部門は時限立法的組織として設立されるケースも多いですが、DXガバナンスを確立するうえでは、永続的な組織とすることが望まれます。
また、データサイエンティストとアジャイルエンジニアなどのDXに必要なスペシャリストを所属させ、育成する場とすることも効果的です。
ここでの重要なポイントは、DXガバナンスはITガバナンス(ルールや基盤共通化)がベースになり、ITガバナンスによる組織的な統制のスキル・経験を持つIT部門がDX推進組織と一体となって運営することです。IT部門の長年の経験はDXを個別最適にしないための歯止めになります。
④業務知見が必要なDX人材は現場とDXプロジェクトを交互に経験
ビジネスアナリスト、DX業務推進リーダー、自動化エンジニア、IoTエンジニアは業務の実務経験が求められる人材です。各ビジネス部門に本籍を置き、期間を限定してDXプロジェクトに参画することで、経験の幅を広げて成長することが期待できます。
DX人材の確保・育成施策の検討
自社に必要なDX人材像の絞り込み
自社要員で全てのDX人材像を確保することは理想ですが、これほど多様な人材をすべて確保することが現実的ではありません。自社の戦略に基づいて必要なスキルに優先順位をつくり、自社としてのDX人材像を定義することを推奨します。
人材育成にあたっても、人材像が明確にしておくことで、育成施策も立てやすくなります。
人材育成計画のベースとしてのDX人材の現状調査
DX人材の確保・育成の計画を検討するにあたり、自社のDX人材の実情を調査し把握することは効果的です。
以下に、工場DXでの調査事例を参考にした仮想企業を題材にして、DX人材の現状調査の内容を説明します。
①現状調査の実施プロセス
以下の4つのステップで現状調査を実施しています。
Step1:DX推進の方針に基づき、自社に必要なDX人材像を定義
Step2:対象部門の社員に対し、関連業務の実務経験をヒアリングし、スキルレベルを評価
Step3:今後のDX推進活動の計画から必要人員数を仮定し、DX人材の充足度を評価
Step4:スキルレベルから自社内の人材育成の能力を評価し、人材充足度を踏まえて、DX人材の確保・育成の施策を検討
②スキルレベルの定義
DX人材像ごとに、主たる担当業務を洗い出し、その業務を実施した際の立場・役割が
「Lv.5 社内の第一人者として認知」
「Lv.4 後進を指導できる」
「Lv.3 自律的に一人で遂行」
「Lv.2 部分的なサポートを受けて遂行」
「Lv.1 教えてもらいながら遂行」
のどの水準であったかをヒアリンクし、スキルレベルを設定します。

③調査結果と施策案の検討
下記の図は調査結果の抜粋で、DX人材像ごとにスキルレベルの最大値と人材充足度を比較した資料です。

下記の検討例のように、「スキルレベル」の最大値から自社内で人材を育成できるかどうかを、「充足度」から要員が充足可能かを評価することで、今後の施策検討の基礎データが得られます。
DX人材現状調査からの施策案検討例
パターン |
現状の理解 |
施策案 |
||
スキルレベル 最高値 |
充足状況 |
|||
1 |
4以上 |
充足度高 |
人材育成の可能で、要員も充足 |
・既存メンバーを自社での育成 |
2 |
4以上 |
充足度低 |
人材育成は可能だが、要員不足 |
・採用または社内転属で要員を確保し、自社で育成 |
3 |
3以下 |
充足度高 |
人材育成できる人材がいないが、要員は充足 |
・ハイスキル人材を採用し、育成を任せる |
4a |
3以下 |
充足度低 |
人材育成もできず、要員も不足 |
・当面は外部ベンダーに委託しながら、ハイスキル人材とポテンシャル人材を採用し、中長期的に内製化を進める |
4b |
・内製化をあきらめ、外部ベンダーに委託する |
今回の仮想企業の例では、これまでも生産技術部門で最新の製造技術を活用した改革プロジェクトを推進してきており、全社DX推進関連の人材、自動化エンジニア、ビジネスアナリストは社内での確保・育成の目途が立っています。
データサイエンティストとDX基盤エンジニアはハイスキルのベテランに人員構成が偏り、全体的に要員不足であり、後継者不足の懸念もあります。これらの人材については、中堅・若手層を厚くするため、中途採用や社内異動による増員が必要となります。ベテランに人材育成の必要性を理解させることも重要です。
データモデルマネージャーは人材育成できる有識者がいませんが、DXガバナンスの観点から自社内で確保が望ましい人材像であることも考慮し、当面は伴走型で外部ベンダーを活用し、その知見を吸収して自社人材の育成を図ることが考えられます。
IoTエンジニアは指導できる人材がおらず、素養のあるポテンシャル人材も不足している状況です。当面は内製化を目指さず、外部リソースを活用することが現実的という判断になります。
DX人材の確保・育成への取り組みのまとめ
DX人材状況調査の結果、育成できるハイスキル人材と育成対象の中堅・若手社員がいれば、自社内で継続的に人材を育成することが可能です。
しかし、どちらか一方でも欠けている場合は、対策が必要です。まず、そのDX人材像を自社内で確保すべきかを判断することになります。そのうえで、外部ベンダーを活用しながら、中長期的な視点でDX人材の確保・育成の施策を策定します。自社内でDX人材を確保するのであれば、スキルトランスファーに前向きに対応する協働・伴走型パートナーを外部ベンダーとして活用することが効果的です。
SHIFTからのご支援
SHIFTは自社でもさまざまな形でDX推進を進めています。その経験を活用し、多くの製造業企業のDX推進を協働・伴走型のパートナーとして支援しています。
DXガバナンスの整備とDX人材の確保・育成についても、以下のようなご支援を提供しています。
・全社レベルのDX推進の構想策定やプログラムマネジメントへの実行支援
・DXガバナンスの制度・組織の課題調査と整備活動への支援
・ 顧客・取引先向けのDXサービスシステムの品質マネジメントの整備支援
・ DX人材の現状診断と確保・育成施策の検討支援
・ DX人材の教育・育成支援 (人材育成制度の検討、研修サービスの提供)
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