Introduction
近年、AIはビジネスに欠かせないものとなっています。AIツールによって製品デザインやコンテンツを制作する、大量のデータを分析してマーケティング戦略に活かすなど、活躍の場が広がっています。
しかしながらAIモデルを導入し、安定して運用を継続するのは、現時点ではそう簡単なことではありません。導入だけでなく運用にも多大なコストがかかるためです。扱いが非常にむずかしいAIモデルを企業が採用して費用対効果を得るためには、まずはAIモデルについて正しい知識を身に着ける必要があります。そして、AIプロジェクトの実現のために必要なコストについても正しい理解が求められます。
この記事では、AIモデルとは何なのか、学習方法の分類、AIモデルの作成方法や課題などについて解説します。
目次
AIモデルとは?

AIは人工知能を指しますが、AIモデルとはどのようなものなのでしょうか?ここでは、AIモデルについての基本情報やアルゴリズムとの違いを解説します。
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データから学習し予測・判断する、生成AIの中核をなすプログラムのこと
AIモデルとは、AI(人工知能)が膨大なデータを学習することでつくり出されたモデルのことです。膨大なデータをAIにインプットすることで、データの法則や関係性を学習し、自律的に意思決定や予測を行える能力をもつようになります。
たとえば、AIに顧客の購入履歴データを学習させてAIモデルを構築すると、今後どの程度の売上が見込めるか、どのような商品が売れ筋になるかといった分析をすることが可能です。
また、大規模言語モデル(LLM)は、言語に関するタスクに特化したモデルです。大量のテキストデータを学習することで、人間が使う自然言語を理解し、生成、解釈する能力をもっています。
アルゴリズムとの違い
AIモデルとよく似た概念として「アルゴリズム」がありますが、AIモデルとは何が違うのでしょうか?
アルゴリズムとは、特定の機能や目的を達成するための手順、方法のことです。一方で、モデルは、アルゴリズムを用いて経験を積み重ねて獲得した知識です。つまり、AIモデルは学習を済ませたアルゴリズムともいえます。
たとえば、AIに英語の文章のデータセットを学習させて得られる大規模言語モデル(LLM)は、英語の文章の理解や生成ができるようになります。一方で、日本語の文章を学習させたモデルは、日本語の理解や生成ができる別のモデルです。どちらも同じアルゴリズムで学習を行いますが、学習させるデータが変わると、作成されるAIモデルも異なってくるのです。
AIモデルは学習手法によって分類される
AIモデルを構築する際には、必要なデータセットを準備して加工し、データを適切に学習させることが重要です。AIモデルは学習方法によって、教師あり学習、教師なし学習、強化学習に分類されます。
ここでは、それぞれの学習方法について解説します。
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教師あり学習(機械学習モデル)
教師あり学習とは、最初から正解を与えて学習させる古典的な学習方法で、機械学習モデルとも呼ばれます。たとえば、動物の画像を学習させる際には「犬」「猫」などのラベルづけされたデータから、犬や猫の特徴を学習していきます。
教師あり学習の具体例としては、たとえばMRIやCT画像の解析によるがん診断などがあげられます。あらかじめ医師による診断結果のデータを教師データとして学習させることで、疾患リスクを画像から迅速に特定できるAIモデルを構築できます。
最初から答えがわかっている状態で学習を行わせるため、高い精度で予測や分類ができるAIモデルを構築可能です。精度が高いため、ビジネスや研究の分野で幅広く採用されています。
ただし、この方法で学習する際は、学習するデータセットにあらかじめラベルづけを行わなければなりません。
教師なし学習(ディープラーニング)
教師なし学習では、正解を与えられていない状態でデータを学習していきます。ラベルづけされていないデータから、パターンを見つけ出して学習していく方法です。データを入力する際に、正しい・間違っているなどの情報は与えられず、データの類似性や共通点などを分析していくことで、モデルを構築します。
たとえば、商品の販売履歴データから、どのような人がどのような商品を好むのかという特徴を見つけ出していきます。その結果、これから売れる可能性が高い新商品を分析して、提案することも可能です。
教師なし学習のメリットは、ラベルづけされていない未知のデータに対して、分析ができるという点です。たとえば、顧客分析、異常の検知などに活用されています。
教師なし学習の具体例として、自然言語処理の感情分析などがあげられます。教師なし学習によりテキストの特徴を抽出し、これをもとに感情を推測します。これにより構築したAIモデルを活用すれば、SNSの投稿内容からユーザーの意見や感情を解析し、ブランドの評判管理、顧客満足度の向上などに役立てることが可能です。
なお、ディープラーニングとは、教師なし学習がさらに進化したものです。ニューラルネットワークと呼ばれる人間の脳の構造を模倣した仕組みで、より複雑な分析や計算が可能です。
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強化学習
強化学習とは、試行錯誤を繰り返しながら、もっともよい行動を学ぶ学習方法です。
モデルに正しい結果を出力すると報酬を与え、間違った出力をするとペナルティーを与えます。すると、報酬が最大化するように試行錯誤を繰り返すため、結果として最適なモデルが導き出されるという仕組みです。
なお、強化学習モデルは、自動運転や株取引などに利用されています。
強化学習の有名な活用事例としては、DeepMind社が開発した囲碁プログラム「AlphaGo」があげられます。囲碁だけでなくチェス、将棋などでAIが人間を上回る能力を発揮し、強化学習モデルに一躍注目が集まるようになりました。
AIモデルを作成する流れ

AIモデルを作成する流れについて簡単にご説明します。
1.モデルの活用方法を明確にする
まずは、どのような用途でAIモデルを使うのか、目的を明確にします。
たとえば、自社の顧客を分析して購入する商品の傾向を分析したい、将来の売上を予測したいなど、具体的な目的を定めます。目的によって、必要なデータセットやモデルの種類が異なるため、最初にモデルの活用方法を明確にしなければなりません。
2.目的にあったデータを収集する
目的にあったデータを収集します。
たとえば、自社の顧客を分析して、購入する商品の傾向を分析するモデルを構築する場合は、顧客の属性、過去に購入した商品の履歴や金額、サイト上の行動履歴などのデータを集めます。精度の高いAIモデルを構築するためには、できるだけ多くの種類と量のデータを集めることが重要です。
3.データを加工する
収集したデータをAIに入力する前に、学習に適したデータに加工しなければなりません。データに重複や漏れがないか、偏っていないかなどをチェックして修正します。また、教師あり学習を行う場合は、データのラベルづけ作業が必要です。
4.AIモデルを作成する
AIモデルの開発ツールに加工したデータを入力して、AIモデルの作成を行います。
5.AIモデルを評価して再学習する
作成したAIモデルを評価して、意図したとおりに機能するか、目的を達成しているかを確認します。結果が間違っていた、精度が低かったなどの場合には、データを増やす、データを変更するなどして再学習を行います。
精度の高いモデルを得るためには、モデルの評価と再学習を繰り返していく必要があるでしょう。
AIモデル作成の課題と対策
目的にあったAIモデルや、分析精度の高いAIモデルを作成するためには、さまざまな課題をクリアする必要があります。ここでは、AIモデル作成における課題と対策について解説します。
AIモデルを構築・運用するためには高度な専門知識と多大なコストが必要
冒頭でも説明の通り、AIモデルを構築し運用するためには、AIに関する高度な専門知識、技術、経験をもつ専門家が必要不可欠です。そのため、気軽にAIモデルを開発して導入することはできず、できたとしても多大なコストがかかります。
また、初期の導入コストだけでなく、AIモデルの品質を保ちながら追加で学習を進めていくなどが必要なため、メンテナンスコストがかかることにも注意が必要です。
残念ながら、AIモデルの導入を含めたプロジェクトは現段階では準備面、コスト面の問題から頓挫するケースが珍しくありません。そのため、もし新プロジェクトとしてAIモデルに焦点を当てる場合は無理に内製化を進めるのではなく、構築・運用実績が豊富な専門会社に相談・依頼するのがもっともよい方法といえるでしょう。
データバイアスの問題
AIモデルの学習に必要なデータセットを用意する際は、データバイアスの問題に関する対策を行う必要があります。偏った内容のデータを学習すると、AIモデルの出力結果に問題が起こる可能があるためです。
たとえば、Amazon社の採用AIが女性より男性を高く評価していたため問題となったことがありました。これは、偏った結果を出力した採用AIの教師データに、男性のデータが多く含まれていたことが原因でした。
このように、AIモデルを作成する際には、学習データが偏るデータバイアス問題に対する対処が必要です。そのためには、データの偏りを排除したアルゴリズムやモデルを改良できる技術を採用する必要があります。
モデルのサイズ増大・複雑化の問題
AIモデルを構築する際に、モデルのパラメーターが多いと、必要なデータの量も多くなっていきます。とくに、大規模言語モデル(LLM)のパラメーターは非常に多く、たとえばOpenAI社のGPT-4は、数千億を超えるパラメーターをもつともいわれています。
モデルサイズが増大すると、それだけモデルの精度があがりますが、学習のために用意するデータの量も増大するのが特徴です。その結果、膨大なデータを用意して加工するのがむずかしくなり、AIモデルの開発が困難になってしまいます。
また、データを用意する際には、個人情報保護や著作権の問題などをクリアしなければならず、データ準備の難易度があがります。
この問題の対策としては、モデルを簡単なものに変更するなどがあるでしょう。
過学習・学習不足の問題
学習データの量や質によっては、過学習や学習不足の問題が起きることもあります。
過学習とは、学習データとAIが適合しすぎることで、精度が下がる現象のことです。学習データでは正解率が高いにもかかわらず、実際のデータを入力すると正解率が低くなるなどの現象が起こります。学習データだけに最適化されてしまうことで、汎用性が低くなってしまいます。
一方、学習不足とは、学習データが不足している、または不適切なデータだったためによい結果が出ないという現象です。
過学習や学習不足を防ぐためには、十分な量の学習データを用意する、データの偏りを防ぐ、モデルの複雑化を防ぐなどの対策が必要です。
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AIモデル作成が不要な「ノーコード AI」
ここまでご説明したとおり、目的にあったAIモデルを構築するためには、適切な学習方法を選ぶことや、十分な量のデータを用意することなどが重要です。また、モデルの評価と再学習を繰り返し、理想のモデルに近づけていく必要もあります。
しかし、AIモデルの作成やデータの調整、チューニングなどを行うためには、専門的なAIに関する知識や技術、ノウハウが必要です。専門知識やノウハウがなく、AIモデルの作成がむずかしい場合は、高度な専門知識がなくてもノーコードでAIモデルを作成できる、支援ツールを導入することをおすすめします。
まとめ
AIモデルとは、AI(人工知能)が膨大なデータを学習することでつくり出されたモデルのことです。膨大なデータをAIにインプットすることで、データの法則や関係性を学習し、自律的に意思決定や予測を行える能力をもつようになります。
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目的にあったAIモデルを構築できれば、顧客データを分析して今後の売上を予測したり、市場データから株価を予測したりすることが可能です。AIモデルを活用できれば、従来の人間が分析する方法よりも、高度な分析や精度の高い予測ができるでしょう。
しかし、自社の目的にあったAIモデルを構築してビジネスに活用するためには、高度なAIの知識や技術が必要です。「社内にAIを使いこなせる人材がいない」「機械学習やディープラーニングの技術やノウハウをもつ専門家が不足している」などの企業様も多いかもしれません。
そこで、SHIFTのDXサービス開発をご活用いただければ、そのようなお客様の課題を解決することが可能です。まずは一度、当社にご相談ください。

監修
林 栄一
組織活性化や人材開発において豊富な経験を持つ専門家として、人材と組織開発のリーダーを務め、その後、生成AIを中心にスキルを再構築し、現在新人研修プログラムや生成AI講座開発を担当している。2008年にスクラムマスター資格を取得し、コミュニティーを通じてアジャイルの普及に貢献。勉強会やカンファレンス、最近では生成AI関連のイベントに多数登壇している。チームワークの価値を重んじ、社会にチームでの喜びを広める使命をもつ。
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