Introduction
そもそもUXとは何かについて改めて説明したいと思います。
多くの書籍やウェブサイトにUXに関する記述がありますが、いろいろな記述があり迷われた方も多いのではないでしょうか。またエンジニアとしてUXに取り組むとき、わかりにくいと思う方が多いと思います。そこで、これからソフトウェアの開発現場でUXに向き合う方のために、エンジニア出身でUX専門家として活動する自分が学んできたことからUXについてお伝えします。そして、ソフトウェアの品質保証を手掛けるSHIFTがUXをどのように捉えているのかをまとめます。
UXはユーザーエクスペリエンス、一般的に「利用者の体験価値」と訳されることが多いのですが、「利用者の体験価値?わかりにくい表現だ」とご指摘を受けることがあります。UXの背景や捉え方からお話しすることで、わかりにくいUXを理解しやすいものに変えたいと思います。
目次
UXが注目される理由・背景
なぜUXに関する取り組みが必要なのか、何が期待されているのかがわかれば、取り組みのゴールも理解しやすいので、最近UXが注目されるようになった理由や背景から説明したいと思います。
1. 顧客の価値観の多様化
利用者にとって、ソフトウェアを利用した際の価値や満足は、機能的な評価にとどまるものではなく、形状の美しさや利用者の好み、利用するときの感情や期待などさまざまな要因に影響を受けます。つまり利用者が変わることで、同じ機能を提供するソフトウェアであっても、利用した価値や満足度は大きく変わります。また利用者が同じであったとしても、利用シーンが異なれば、評価も変わる可能性があります。例えば、スマホ用のアプリを想定した場合、現在ではさまざまな方が利用しているため、必然的に想定する利用者は多種多様となります。年齢、性別、職業、好み、文化、ITへの理解度、住んでいる地域、行動様式など、さまざまな属性があり、さらに利用者が参考にするメディアやコミュニティによって得られる情報も異なっています。このように利用者一人一人は異なる価値観をもっているため、それぞれの感じ方で利用による評価も大きく変わります。このような個人の価値観の多様化への対応が求められていることが背景の一つにあります。
2. 購買プロセスの変化
購買は対面でやり取りされることが一般的に行われてきましたが、近年、電話、インターネット、そして利用する機器もガラケーやPCからスマホに変わってきました。そして購買に至るまでの前提となる環境、きっかけ、購入、購入後のサポートに至るまですべてのプロセスが大きく変化しています。最近ではコロナ禍の影響により、非接触の購買プロセスへの要求が高まっていると言われています。また商品やサービスの情報入手も変化したことから購買のプロセスの変化に影響しており、利用者の購買における挙動をしっかりと理解し、対応することが必要となってきました。
このような購買プロセスが変わった状況を正しく把握したうえで対策をするために、利用者と利用シーンを明確にすることが必要となっていることも理由の一つと言えます。
3. サービスのコモディティ化
前述の顧客の価値観の多様化と購買プロセスの変化により、商品やサービスにも大きな変化を求められています。期待に応えるため市場ではさまざまな商品やサービスが数多く生まれています。さらに新しい商品やサービスを生みやすい環境も整ってきました。新しい商品やサービスが生みやすくなったことはメリットもありますが、反面、似た商品やサービスが生まれ、商品やサービスもコモディティ化が進みます。特に似た製品やサービスがあふれてしまった結果、価格による過当競争などを引き起こしている状況を確認することができます。そのような環境下で差別化をはからなければならない提供者としての都合も生まれてきました。
従来は提供者視点で考慮された場合でも、品質による優位性を生み出せる可能性もありましたが、それだけではコモディティ化が進んだ商品やサービスでは十分な差別化をつくりにくくなっています。そこで競争優位性をもつために、利用者視点により新しい価値を生み出す取り組みが必要となってきた背景も理由の一つと考えられます。
4. デバイスの多様化
利用者を取り巻くデバイスも大きく変化しました。例えばIoTデバイスはインターネットに接続することで単体での利用に比べて多くの新しい機能やサービスを提供でき、これまで考えられなかった新しい価値を提供できるようになりました。さまざまな行動様式や文化、好みが多様化したなかに対応できるさまざまな新しいデバイス、そしてデバイス同士の組み合わせなど、複雑化しています。また通信環境も4Gから5Gに切り替わることにより、ますますの可能性が広まってきました。
さまざまなデバイスの複合的な利用環境を想定する必要があり、実現できるサービスも顧客との接点に基づいて想定し、対応することが必要になりました。新しいデバイスとそれぞれの組み合わせを利用者視点で価値を生み出すように組み合わせていく発想が必要になったということが理由にあると思います。
以上のような背景・理由により、利用者での価値であるUXに注目が集まっていると考えられます。
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UXとUIの違い
UXを誤解される理由の一つに似たような言葉が多く、混乱を生んでいると思われます。そこで誤解を解消するために、正しいUXの意味を理解しましょう。
1. UXとは
改めてUXについて言葉の定義から考えてみましょう。UXはユーザー エクスペリエンス、User eXperienceの略称となります。たまに「あれ?User ExperienceならUEじゃないのですか?」と質問を受けることもありますが、eXperienceをXとして略すことが多いため、UXと記述することが一般的です。UXとは、利用者の体験価値、すなわち利用者が利用により得られる価値や喜びを示します。ただしUXでは利用した瞬間だけの価値や喜びだけではなく、利用によりもたらさせるあらゆる価値や喜びであり、事前に得られる期待感や利用後の爽快感や充実感、使いつづけることによる満足度など、利用者が得られるすべての価値や喜びを示すもので、UXを配慮するとはこれらの価値や喜びを最大限にすることを意味しています。到着前から期待し、最高の対応をし、フォローもしっかりする日本のおもてなしの精神などは、UXとして優れたものと思います。
ちなみにUXに関しては書籍や専門家でも微妙に説明が異なっています。UXには世界に数十の解釈があると解説する専門家もいるほど捉え方にもいろいろとあります。ソフトウェア開発現場での実践的なUXに取り組むSHIFTでは「ソフトウェアの利用者が、利用により得られる価値や喜び」が、明確でわかりやすい説明として広く利用しています。
2. UXとUIの違いとは
図1 UXにおける言葉の定義
図2 UI/UX/CXの関係
UXによくある課題
UXは実践されている方も多いなか、ソフトウェアの開発現場での対応が難しいと言われます。なぜでしょうか?
UXへの取り組みはUXデザインと呼ばれています。UXを向上するための仕組みづくりや恒久的な取り組みであるUXデザインですが、SHIFTでもUXを向上する取り組みとしてUXデザインの支援を行う機会も増えてきました。SHIFTではソフトウェアの品質保証を行っているため、携わる開発現場の数は日本でも屈指の数になり、開発現場の声を本当に多く聞くことができます。多くの開発現場から聞こえてくる悩みとはどんなものがあるのか、その一部をまとめてみました。
・UXが必要だと分かっているが、部門の壁があり、どのように進めるべきかがわからない。
・UXに関わる人材の育成や確保が難しい。結局、開発者が感覚でUIを設計している。
・後工程でUXの問題に気付くが、手戻りの作業が大きくなるため断念している。
・利用者の地域、世代、価値観などによる特性を把握せずに開発したため、クレームが頻発している。
・競合他社のUXがうまくいっているので、当社もなんとかしたい。
・UXに積極的に取り組んでいるつもりだが、効果が見えない。
・UXのKPIを求められているが、良いエビデンスが得られない。
・UI/UXの品質が高いか否かの判断ができず、経営者やクライアントを納得させることができない。
・開発にうまくUX向上プロセスを乗せられない。
・そもそもどこに課題があるか分からない。
・UXの開発に一貫性がなく、デザイナーや開発者がバラバラで開発した結果使い勝手が悪い。
など、これでもほんの一部です。思ったよりもUXに関してさまざまな悩みがソフトウェアの開発現場から発せられていることがわかります。これらはそのまま開発現場におけるUXの課題として認識でできるものです。これらの課題を解決するためにSHIFTが取り組む方法をご紹介します。
UXを改善させるための3つのポイント
UXを向上するための取り組みや設計であるUXデザインを行うために必要な取り組み方の特徴を3ポイントにまとめて紹介します。
ポイント1. 生み出すものを製品から体験価値に意識を変える
良いソフトウェアを生み出すために大切なことは何でしょうか。ソフトウェアの開発で最も意識しなければならないのはソフトウェアそのものの完成度ではなく、そのソフトウェアを使うことにより利用者が得られる価値が想定通り実現できることです。特に開発者としてさまざまなこだわりや携わるポジションにより求められる内容が変わることもありますが、ソフトウェア開発では常に利用者視点で利用シーンを意識し、利用者の価値につながっていることを意識することが大切です。
利用することにより価値につながっているか、利用者視点で常に取り組むことが必要です。
ポイント2. 利用者の気持ちを考える
2つ目に利用者の気持ちがわかるように、利用者のことをしっかりと考えることが必要です。利用者はどのような人物であるか理解することで利用者の気持ちを理解しましょう。ただし利用者を層や集団などの塊で捉えると本当の利用者の気持ちを理解しにくい問題が発生します。利用者は仮説でも良いので、明確な利用者像をイメージできることが望ましいです。明確な人物像を利用者としてイメージできることで、利用者の背景や人物像、特徴を捉えることで常に利用者の気持ちを理解しやすくなります。
明確な利用者像を使ってUXデザインに取り組む手法として、ペルソナ手法があります。ペルソナは仮想でありますがあたかも実在する利用者として設定する人物像で、風貌、名前、年齢、性別、住んでいるところや性格、趣味、ポリシーなどを明確にすることができます。また利用者像を可視化できることで、開発者間での利用者像の共有もすることができるため、ブレない利用者像をプロジェクト内で利用することが可能になります。ソフトウェアの開発プロジェクトにおいて、ペルソナを作成することで効率的に利用者像を使うことが可能です。
ポイント3. 利用シーンに配慮した仕組みを作る
3つ目はしっかりと利用される状況を把握し、利用シーンに合わせた環境提供をすることです。
利用者として適切なペルソナを用意し、利用者とソフトウェアの関係を利用文脈として考えます。利用文脈は、利用者がソフトウェアをいつ、どのように利用するかを定義したもので、利用文脈により必要となるソフトウェアの機能や設計をイメージすることができます。ここで矛盾のない仕組みを作ることが可能になります。
利用シーンは、最初シナリオとして作成しますが、伝達方法や共有方法としてさまざまな手法を活用されることも多いです。個別の手法については、本コラムで取り上げていきたいと思います。
体験価値を意識し、利用者視点になるために利用者の気持ちに配慮し、利用シーンに合わせた環境を作るための設計を行うことで、UXに配慮したソフトウェア作成が可能です。
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UXを向上させた企業の事例
1. UXに取り組んでいるプロジェクトの割合
これまでの説明であったように、UXが非常に良いソフトウェアづくりに有用であるということはわかってきておりますが、現在どのくらい企業がUXに取り組んでいるのでしょうか。
図3に示すようにSHIFTが独自で調査した結果によると、UXを取り入れて開発を行っているのはまだ50%というデータがあります。コロナ禍によるデジタル化がますます期待されているなかで、まだ半数のプロジェクトでUXに十分配慮されずに開発が行われていることに驚きを感じます。また取り組んでいると答えたプロジェクトであっても開発へのUX取り組み開始時期を調査した結果を図4より確認すると、現在取り組んでいる企業は3年以内が59%となっています。多くの企業では、開発へのUX取り組みはまだ十分な期間が経過していないため、まだ成果として出せるケースも少ないということが推測できます。本当にこれから成果が出てくるものだと期待しています。
また取り組めていない開発現場が多いことから、これからUXに配慮した開発プロジェクトとして取り組んでも遅いわけではなく、十分に効果を狙える状況であるということも調査結果からわかりました。
図3 UXを開発に取り入れる割合(SHIFT調査結果より)
図4 開発へのUX取り組み開始時期(SHIFT調査結果より)
2. UXに優れたソフトウェア
さまざまなソフトウェアが開発され、市場には多くの優れたソフトウェアが存在しています。それでは、UXに配慮された、UXが優れたソフトウェアとしてどのようなものがあるでしょうか。
私個人として、UXに配慮されていることを実感できるアプリを一つ紹介したいと思います。ダイエットに効果的なアプリとして提供されている「あすけん」です。SHIFTとして、お仕事で携わっているわけではありませんが、ダイエットを記録するのが楽なだけでなく、動機づけにつながる情報提示もあり、工夫がとてもうれしいアプリです。もしダイエットや健康に気をつけたい方であれば、一度使ってみてはいかがでしょうか。どんなユーザーのためのアプリか、どのように使うことで価値が生み出されるのか、想像しながら使っていただくとUXの理解につながるかもしれません。
まとめ
UXは良いソフトウェア開発に必要なキーワードとして、SHIFTにもたくさんのご相談をいただくようになりました。その反面、UXの意味をきちんと理解していないため、効果が上がっていない、混乱している開発現場もたくさん見てきました。正しいUXを理解して、取り組むことは決して難しいことではなく、利用者視点で継続的に取り組んでいただければ、成果につながるものだと思います。
もし短期間に、効率的にUXを開発現場に取り込みたい場合は、日本でも屈指の開発現場に携わったSHIFTにご相談ください。これまでの多くのテスト実績からもたらされたデータと公知の文献・書籍・ガイドライン、そして社内外の人間中心設計の専門家が協力して作り上げたUX品質ガイドラインがありますので、どの開発段階からでも確実にUXに配慮した開発を支援いたします。
詳しくはSHIFTのUXサービスページをご覧ください。長い記事を最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
参考:SHIFTのUXサービスのページ https://service.shiftinc.jp/service/consulting/ux-design/
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UX開発の実態調査 2023
本調査は、ソフトウェア開発におけるUXへの取り組みについて調査したものです。UXがどの程度取り入れられているか、またその成果や課題を明らかにしたものです。 UXの取り組みにおいて有用なデータとして活用いただけることを目指し調査を実施いたしました。
本調査は、ソフトウェア開発におけるUXへの取り組みについて調査したものです。UXがどの程度取り入れられているか、またその成果や課題を明らかにしたものです。 UXの取り組みにおいて有用なデータとして活用いただけることを目指し調査を実施いたしました。