auコマース&ライフ株式会社 導入事例
月800件の問い合わせを最大75%削減。AI×人で挑んだ情シス業務改革

Summary
急成長を遂げる企業では、バックオフィス部門、とりわけ情報システム部(情シス)への負荷が増大しやすい傾向があります。今回、au PAY マーケットを運営するauコマース&ライフ様の情報システム部が取り組んだ、ヘルプデスク運用の見直し(問い合わせ対応の効率化)の事例をご紹介します。
かつては月に800件もの問い合わせが殺到し、対応に追われる過酷な状況にありました。しかし、SHIFT PLUS(SHIFTグループ会社)と連携して業務を再設計し、「AI×人」のハイブリッド運用を取り入れたことで、ヘルプデスクへの問い合わせ件数を削減できました。
月800件のSOSでパンク状態。
急成長企業が抱えていた情シスの課題
佐藤様が統括されている情報システム部の役割と、当時抱えられていた課題についてお聞かせください。
当社は総合ショッピングサイト「au PAY マーケット」を運営するKDDIグループの企業であり、株式会社ルクサとKDDIコマースフォワード株式会社が2019年に合併して誕生しました。事業拡大や合併に伴い従業員数が増加するなかで、社内システムや社員向けパソコンの運用管理に関する課題が浮き彫りになっていました。当時の情シス担当者は3〜4名で、約1,000名のシステム利用者を支えていました。委託や運用整理を本格化する前は、問い合わせが月最大800件に達し、既存の社員数名だけでは到底対応しきれず、いわゆるパンク状態に陥っていたのです。
当時、問い合わせはどのように受け付けていたのでしょうか。
当初は問い合わせ窓口が統一されておらず、管理も十分に行えていない状態でした。Slackのダイレクトメッセージや部署チャンネルでのメンション、内線電話、メールなど、問い合わせ手段が乱立していたためです。各所に連絡が分散して届くことで、情シス側では「今日、会社全体で何件の問い合わせが発生しているのか」すら把握できませんでした。実際には、毎朝各ツールを確認し、分散した問い合わせを回収するところから業務が始まっていました。
寄せられる内容にも課題があったとお聞きしています。
はい。従業員のみなさんはITの専門家ではないため、どうしても「パソコンの調子が悪い」「システムが重い」といった一言だけの相談が多くありました。 しかし、それだけではOSやネットワーク、アプリケーションのどこに原因があるのかを特定することができません。
「いつから?」「再起動はしましたか?」「OSはWindowsですか、Macですか?」など、不足情報を確認するやり取りが発生するため、解決まで平均2時間を要していました。質問する側は「何を伝えればよいか分からない」、対応する側は「情報が足りず動けない」という悪循環が起きていたのです。
パンク状態からの脱却。
400記事のマニュアル作成
そこで着手されたのが、ヘルプデスク改革だったのですね。
状況を根本から改善するためには、単に人員を増やすだけではなく、仕組みからつくり直す必要がありました。そこで、ヘルプデスク業務の専門的知見をもつSHIFT PLUS様と二人三脚で、この難局に挑むことになったのです。まずは問い合わせを受付システム(Zendesk)に集約し、一覧で可視化するという第一歩から着手しました。
窓口を一本化した後は、どのように改革を進めたのでしょうか。
窓口を一元化したことで、「どんな質問が多いのか」という傾向を分析できるようになりました。そこでSHIFT PLUSのメンバーを中心に進めたのが、マニュアル(FAQ)の整備です。
毎月問い合わせを分析し、社内ユーザーへ返信する前に「この質問に対応するマニュアルがあるか」を必ず確認するフローを徹底しました。該当するものがあれば案内し、なければその場で新たに作成する。そうした地道な積み重ねにより、現在では400記事に及ぶナレッジが蓄積され、後のAI活用にもつながりました。
愛されAIキャラクター「ITサポっぽ」
ヘルプデスク業務を変革
そのナレッジを活用し、AI導入へと進まれたのですね。
はい。「ITサポっぽ」という名前のAIキャラクターを導入しました。本社オフィスのある新宿にちなみ、「新宿御苑に住んでいるハト」という設定にしました。社員証風のアイコンも用意しています。あえてキャラクター化したのは、従業員に親しみをもってもらい、システム利用への心理的ハードルを下げるためです。実際に社内でも非常に親しまれていて、8月10日の「ハトの日」には、情シスから全社に紹介する発信も行っています。遊び心を取り入れることで、「まずはITサポっぽに聞いてみよう」という文化の醸成を目指しました。
具体的にどのような役割を担っているのでしょうか。
最大の役割は、社内ユーザーから寄せられる情報不足の相談に対して、必要事項(氏名・OS・発生時期など)を入力しやすい形式へ自動で整えることです。たとえば、利用社員が「パソコンが重い」とだけ入力した場合、ITサポっぽは「お名前」「利用OS(Windows/Mac)」「いつから重いか」「再起動は試したか」といった必要事項を網羅したフォーマットを自動生成し、「ここに情報を追記して情シスへ送ってください」と案内します。以前から入力用のフォーマットは用意していましたが、なかなか利用が定着しませんでした。そこで、「ITサポっぽが生成したフォーマットを利用した相談は優先対応する」という運用を導入しました。これが功を奏し、必要な情報が最初から揃った状態でチケットが起票されるようになったのです。
この仕掛けは本当に上手ですよね。AIにすべてを解決させようとするのではなく、「問い合わせの整形と高速化」に特化させた。インセンティブを提示することで、ユーザー側の行動変容を促している点が素晴らしいです。
ユーザー向けの仕組みだけでなく、ヘルプデスク側でもAIを活用されているそうですね。
はい。そこも重要なポイントです。社内ユーザーからの問い合わせがZendeskに届くと、Zendeskと連携したAIが蓄積された400記事のマニュアルを自動検索します。そして、ヘルプデスク担当者に対して、案内すべきマニュアルと返信文のひな形(回答テンプレート)を自動で提示する仕組みになっています。ただし、こうした仕組みはマニュアル化という地道な蓄積があったからこそ実現できたものです。最新のテクノロジーと、日々の運用で積み上げてきたナレッジがうまく融合した結果だと考えています。
マニュアル浸透による自己解決が定着
導入後、問い合わせ件数にはどのような変化が見られましたか?
ピーク時に月800件でしたが、現在では月200〜300件程度まで減少しました。最大の要因は、マニュアルの浸透による自己解決の促進です。現在は社内のマニュアルサイトが月に約1,000回閲覧され、さらに「まずはマニュアルを見る/ITサポっぽに聞く」習慣が定着したことも削減に寄与しました。
AI活用を進めるうえで、大切にされた考え方はありますか。
重要なポイントとして、私たちはAIに任せきりにはしていません。便利な一方で、誤った情報を提示したり、意図を正確に汲み取れなかったりする可能性があります。そのため、「AIに勝手に自動返信させない」というルールを徹底しています。回答の下書きはAIが作成しますが、その内容を必ずSHIFT PLUSの担当者が確認したうえで送信しています。業務を効率化しながらも、最終的な品質と安心感は人が担保する。この「AI×人」のハイブリッド運用こそが、最も安全で効果的な方法だと考えています。
対応品質やスピードには、どのような変化がありましたか。
以前は情報不足により解決まで平均2時間を要していましたが、現在ではITサポっぽによる情報整理とAIの回答提案によって、初回返信は1時間以内(早ければ10分)で行えるようになりました。フォーマットが整っているためやり取りも最小限で済み、10分で解決するケースもあります。現在では、ヘルプデスク側の未対応のまま滞留しているチケットがゼロの状態を維持できています。このレスポンスの速さは社内でも高く評価されています。
業務効率化によって生まれたリソースを、
さらなる社内環境の改善へ投資
この取り組みは、組織運営にも影響を与えたのでしょうか?
はい。これまでは「あの人に聞かないと分からない」といった属人化が発生しがちでしたが、Zendeskへの集約とAIによるナレッジ共有によって、回答の質を均一化できるようになりました。実は最近、SHIFT PLUS様のメンバーが交代するタイミングがありました。しかし、新しいメンバーも参画後すぐに一人で業務を回せるようになったのです。過去のチケット履歴や豊富なマニュアル、AIのサポートがあるため、「まずは提案内容を見て、過去の事例を参考にすれば対応できる」という環境が整っていました。人材の流動性が高い現代において、新しいメンバーが早期に戦力化できる体制を構築できたことは、マネジメントの観点でも大きな強みになっています。
削減できた工数は、現在どのような業務に充てられているのでしょうか。
はい。これまでは「来たものに対応する」という受け身のリアクション業務が中心でした。しかし、AIとマニュアルの活用によってリソースに余力が生まれたため、現在はその時間をプロアクティブな活動へ投資しています。
いわば、社内コンサルティングのような世界観ですね。今後は情シスの業務プロセス改善や、コスト削減のきっかけを提示するような動きをお願いされています。
そうですね。従業員に対して「こういう便利な使い方がありますよ」「この業務プロセスはこうすればもっと改善できますよ」と、情シス側から提案する取り組みです。単なるヘルプデスクの枠を超え、社内コンサルタントのような役割へと広がりつつあります。
例えば、各部署でさまざまなツールが導入されるなかで、「用途が重複しているシステムをひとつにまとめませんか」といった提案を行っています。直近でも、ある部署で類似するメールサービスを2つ契約していることが分かり、統合に伴走することでコスト削減につながった事例が生まれました。また、従業員のツール利用状況やアカウント情報を把握しているSHIFT PLUSのみなさんから、「このアカウントはほとんど利用されていませんよね」と提案してもらうこともあります。こうした地道な不要アカウントの整理によって、高額なシステムを含めると数百万円規模のコスト削減につながったケースも出ています。
今後、情シス組織として目指していきたい姿をお聞かせください。
ご担当いただいているみなさんは、日々の真摯な対応を通じて、すっかり当社の「情報システム部の顔」として定着しています。引き続き、社員から頼りにされる存在であってほしいですね。そしてこれからは、単に問い合わせを待つだけではなく、社内の課題を見つけ出し、ユーザー部門とともに解決策を考えるパートナーになっていきたいと考えています。テクノロジーがどれだけ進化しても、人に寄り添い、課題の本質的な解決へ導けるのはやはり人です。効率化を進めながらも、人ならではの温かみや提案力を大切にする情シスでありつづけたいと思います。
※掲載内容は2026年8月取材時のものです。
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