日本電気株式会社 導入事例
AI×人の力で進める環境SaaSのモダナイズ。GGXが目指す
次世代サステナビリティ基盤

Summary
ESG(環境・社会・ガバナンス)情報開示の重要性が高まるなか、日本電気株式会社(NEC)が20年以上にわたり培ってきた環境情報管理の知見を受け継ぐ環境SaaS「GreenGlobeX(グリーングローブエックス、以下GGX)」。同サービスでは、これまでの機能拡張や運用を通じて蓄積してきた資産を活かしながら、さらなるサービス展開に向けた技術基盤の強化を進めています。今後もお客様のニーズに応えつづけるため、開発・運用のあり方を見直し、サービスの成長を支える体制づくりに取り組んでいます。
その実現手段として採用されたのが、SHIFTの「AI×人の力」による新しい開発アプローチです。AIによる開発工程の効率化と、エンジニアによるレビュー・検証を組み合わせ、GGXの品質を維持しながら、開発の生産性向上を目指しています。
今回は、取り組みの背景や進め方、コスト・生産性の両面で得られた成果、そしてGGXの今後の展望についてお話を伺いました。
環境SaaS「GreenGlobeX」のモダナイズ
今回モダナイズの対象となった環境SaaS「GreenGlobeX(以下、GGX)」の概要と、
その役割についてお聞かせください。
GGXは、企業活動に伴う環境負荷の情報を収集・管理するためのシステムです。たとえば、生産活動において使用した電力や燃料から排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を可視化しています。近年では法令により情報開示が求められるケースが増えていますが、もともとはお客様が自主的に環境情報を公開するための基盤として活用されてきました。
扱うデータは温室効果ガス排出量だけではありません。水資源の使用量や水不足リスク、化学物質の排出量、廃棄物の発生量やリサイクル状況など、企業活動に関わるさまざまな環境データをカバーしています。国内の工場や事業所はもちろん、海外拠点をもつ企業様の場合は、グローバル全体のデータを集約して管理できます。
こうしたデータは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた現状把握に欠かせないだけでなく、投資機関やNGOによる環境評価にも活用されます。企業が環境情報を適切に開示することで、社会的評価や企業価値の向上にもつながるため、非常に重要な役割を担うシステムだと考えています。
現在のGGXとしての開発がスタートしたのは2012年頃です。私は立ち上げ当初から携わり、現在は導入コーディネートや運用サポートを担当しています。
サービスの成長を支えるモダナイズ
技術基盤の強化に向けた取り組み
モダナイズプロジェクトが立ち上がった背景には、どのような課題があったのでしょうか。
NECの環境情報管理ソリューションは、前身のGreenGlobeから20年以上にわたり提供されてきました。GGXにも、その歴史のなかで培われてきた知見が蓄積されています。一方で、今後の機能拡張や新たな事業展開を支えていくためには、技術基盤そのものを見直す必要があると考えていました。
私は2025年からサステナビリティ事業の責任者として、戦略立案や投資判断からプロダクト、開発まで一貫して見ています。それ以前も、スタートアップやメガベンチャーでの新規事業開発・経営管理、大手IT企業でのマネジメントなど、異なる企業規模や事業ステージで携わってきました。
そうした経験も踏まえ、これまで培ってきた価値ある資産を活かしながら、今後のさらなる成長を支えられる技術基盤へ刷新すべきタイミングだと判断し、今回のモダナイズを決断しました。
開発管理を担当されている佐藤様も、その課題感は共有されていたのでしょうか。
私は2023年からGGXの開発管理・保守に携わり、今後の機能拡張を継続していくためには、システム全体の構成(アーキテクチャ)を見直すことが重要なテーマになっていると認識していました。
GGXはもともとJavaベースで構築されていましたが、機能改修と併せて保守性の向上を目指し、一部機能をPythonへ移行する取り組みも進めていました。一方で、移行範囲をさらに広げるには、費用や開発期間などを含めた実現方法の整理が必要となり、段階的な展開について慎重に検討を重ねていました。
モダナイズの実現に向けて、どのような課題があったのでしょうか。
論点となったのは、刷新に必要な期間と費用でした。従来の方法で技術基盤を全面的に見直す場合、1年半から2年程度の開発期間に加え、大きな投資が必要になると見込まれました。
最新の技術スタック(例:言語・フレームワーク・実行基盤)へ移行することで、開発や保守の効率化が期待できます。しかし、システム刷新は収益に直結しにくいため、投資対効果をどう説明し、社内の理解を得るかが課題となり、複数回にわたって検討を重ねることになりました。
ビジネス視点で見ても、既存環境の基盤強化という「守りの投資」に対して、大きな予算を確保することは容易ではありません。一方で、GGXは長年にわたりお客様にご利用いただいているサービスです。これからも安心してご利用いただくため、セキュリティ対応や技術基盤のアップデートに取り組むことが重要でした。
社内での対応も含めて複数の選択肢を検討しましたが、必要なリソースや費用、期間を総合的に考えると、従来とは異なるアプローチが必要だと考えました。そこで、社外の技術力や新たな手法も取り入れながら、解決策を検討することにしました。
開発効率と品質担保を両立する
「AI×人の力」のアプローチ
外部パートナーとしてSHIFTを選定いただいた決め手は何だったのでしょうか。
費用と期間の壁を越えるためには、「AIを活用してどこまでコストを抑えられるか」が鍵になると考えていました。プロジェクト検討を開始した2025年夏時点では、生成AIをコーディング支援に活用する動きが広がり始めていました。一方で、既存システムのモダナイズに本格的に適用し、品質を担保しながら開発プロセスとして成立させる方法論や実績はまだ限られており、調査しても参考にできる事例はなかなか見つかりませんでした。
そんななか、品質保証やテスト領域に強みをもつSHIFTさんが、「AIを活用したモダナイズだけでなく、その検証も行う」と発信されていたのを見つけ、問い合わせをしたのです。
さらに大きかったのが、私たちの隣の部署ですでに新規事業の検証工程をSHIFTさんに発注していた実績があったことです。身近な部署で確かな取引実績があったため、社内稟議を通す際にも「実績のあるパートナーである」ということが強い後押しになり、スムーズにプロジェクトを立ち上げることができました。
「AIを活用したモダナイズと、その品質検証」が大きなテーマになりましたが、
具体的にどのようなアプローチで課題解決を進めたのでしょうか。
今回のモダナイズプロジェクトでは、費用や期間を抑えながら機能追加や開発を支える技術基盤へ移行するため、AIを開発プロセスに組み込みました。
近年、生成AIの高度化により、コード作成をはじめとした開発工程の効率化が可能になっています。そこで、AIによる実装・チェックと、人によるレビュー・テストを組み合わせた多段階プロセスを採用しました。
AIで実装した後は、新旧ソースコードの差分検証やAIによるチェック、レポート作成を行います。そのうえでエンジニアがレビューして必要な修正をおこない、最後に総合テストを実施します。ポイントは、AIに任せきるのではなく、人の知見を組み合わせることで、品質を維持しながら開発期間とコストの最適化を図ったことです。
PoCによって確認された、コストと生産性の両立
本格開発に先立って実施したPoC(概念実証)の結果はいかがでしたか。
私としては、やはり「最終的に総額がいくらになるのか」という点に尽きましたね(笑)。ここで想定を大きく上回る金額になれば、結局また社内稟議が通らなくなってしまいます。
私も、従来のフルスクラッチ開発の相場を知っていたので、「AIを使うとはいえ、本当に予算内に収まるのか」と半信半疑な部分がありました。しかし、実際にPoC後にSHIFTさんから提示された見積金額は、我々の手で最新の技術スタックへ移行する場合に想定していた予算を下回るものでした。この費用感でアプリケーション部分のモダナイズを進められる見通しが立ったことは、大きな後押しになりました。
PoCでは、既存システムのなかから複雑な画面や機能をいくつか選定し、実際にAIと人による多段階開発プロセスを適用しました。AIを活用したモダナイズでは再現性と品質確認が重要なため、プロンプト調整とレビュー観点の整理に時間をかけました。こうした検証の結果、本格開発に向けて、生産性・品質・コストの観点から実現可能だと判断できました。
既存顧客に寄り添うモダナイズ
これまでの資産を活かした段階的な取り組み
モダナイズを進めるうえで、特に重視したことを教えてください。
現場として特に重視したのは、お客様への影響を最小限に抑えながらモダナイズを進めることです。データベースは、お客様が日々利用されている重要なデータを管理する領域であるため、サービスへの影響を考慮しながら判断する必要がありました。
中長期的な保守性の観点から、データベース構成についても検討していきたいという考えはありました。ただ、データベースまで同時に変更すると、コストや移行の負荷が大きくなります。そこで、どの範囲を優先して対応するかを慎重に検討しました。
その結果、今回はアプリケーション層を中心にモダナイズし、データベースについては既存資産を活用する判断をしました。既存のお客様への影響に配慮しながら、機能を可視化し、サービスの成長と基盤整備を両立する段階的なアプローチです。
PoCや開発を進めるにあたって、対象となる機能はどのように選定されたのでしょうか。
既存の資産を可視化し、縦軸と横軸で機能の「複雑性」をマッピングしました。さらに、バブルの大きさでコード量を表し、どの機能から検証・移行すべきかをSHIFTさんと精緻にすり合わせました。
機能選定において偏りが出ないよう、まず既存資産の特徴や複雑性を整理したうえで、技術的な特徴や複雑性が異なる複数の機能をバランスよくピックアップするよう努めました。また、NECのみなさまとも相談しながら、本当に検証すべき機能はどれかを議論し、技術面だけでなく利用者への影響も考慮して選定を進めました。
その際、SHIFTさんが「長年ご利用いただいているお客様にとって重要な機能が検証対象から漏れないように」と、顧客視点で配慮しながら選定を進めてくれたことが非常に印象的でした。単に技術的な観点で刷新対象を決めるのではなく、ビジネスへの影響まで考慮してくれていると感じました。
現在、本格的な開発フェーズに入っていますが、どのように進行しているのでしょうか。
基本的には、PoCで確立した「AI×人の力」のプロセスを活用しています。ただし、一度にすべてを切り替えるのではなく、影響範囲を考慮しながら、比較的小規模なモジュールから適用範囲を広げています。また、生成AIの技術は短期間でも変化するため、コード生成の精度や適用可能なルールも見直しが必要になります。そのため、SHIFTさんと密に連携しながら、プロンプトやレビュー手法を柔軟に改善し、より適切な開発プロセスを構築しています。
PoCで有効性を確認できたとはいえ、対象となるモジュールによって複雑性や適用条件は異なります。そのため、まずは比較的小規模な機能や基礎的な部分から着手し、結果を見ながら段階的に適用範囲を広げています。生成AIそのものの進化も非常に速いため、開発を進めるなかで得られた知見を反映しながら、プロンプトやレビュー手法も継続的に改善しています。
開発・保守の効率化による、
顧客要望への迅速な対応とUI/UXの改善
モダナイズによって、どのような価値創出を期待されていますか。
コードを整理することで、開発・保守をより効率的に進められるようになります。これまで対応がむずかしかった機能追加の要望にもスピーディに応えられるようになり、お客様の声をよりサービスへ反映しやすくすることで、GGXのプロダクト価値をさらに高めていけると考えています。
運用側としても非常に期待しています。GGXはサービス開始当初の設計思想を引き継いでいます。これまで培ってきた価値を大切にしながら、より使いやすいサービスを目指して、UI/UXの改善にも取り組んでいきます。お客様からは「こうした集計機能がほしい」「もっと見やすくしてほしい」といった声を多くいただいています。そうした要望をより迅速にサービスへ反映し、これまで以上に使いやすく魅力的なサービスへ成長させていきたいと考えています。
モダナイズの先に、どのような未来を描かれていますか。
世の中の変化にあわせてお客様のニーズはますます多様化・迅速化しています。SaaSプロダクトである以上、そうした変化に対応しながら、お客様のご要望に応え続けることが重要です。今回のモダナイズで、柔軟なサービス提供を支える技術基盤を整備し、事業成長を加速させていきたいと考えています。
実はGGXの刷新と並行して、私たちのチームでは「サプライチェーン全体のESG情報収集システム」と「AIによる分析・意思決定支援システム」の開発も進めています。将来的にGGXがこれらの新規プロダクトと連携することで、単なるデータ収集ツールを超え、企業のサステナビリティ経営を包括的に支援するソリューションへ発展できると期待しています。企業を取り巻く環境も、非財務情報の開示を求める制度整備などを背景に大きく変化しています。こうした動きを捉え、GGXを非財務情報の基盤として発展させ、社会全体のサステナビリティ推進を支えるソリューションへ成長させていくことが目標です。
NEC様が描かれているビジョンの実現に向けて、SHIFTとしてもソフトウェアの第三者検証やモダナイズにとどまらず、新たな機能追加や品質保証の観点から、引き続き手厚くご支援させていただきたいと考えております。引き続き、強力なパートナーとして伴走させていただきます。
※掲載内容は2026年10月取材時のものです。
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