Introduction
前編のふりかえり
前編では、品質を支えているのは仕様書に書かれていない「現場の判断」= 暗黙知であること、そして暗黙知を資産にしようとするときの典型的な失敗パターンをご紹介しました。書きすぎれば読まれず、一般化しすぎれば価値が抜け、種類の違う知識を混ぜれば信頼が落ちる——多くの組織が経験する壁です。
後編では、SHIFT がテストの暗黙知をどのような土台の上で扱い、AI を活用したサービスとしてお客様に届けるまでに何につまずき、何を学んだのかをお話しします。
目次
テストの暗黙知には「土台」があった—テスト設計者とSQF
最初に誤解のないようお伝えすると、SHIFT はゼロからテストの知見を集め始めたわけではありません。SHIFT には、長年の現場経験を持つテスト設計者と、SQF(SHIFT Quality Framework)という品質保証の標準があります。SQF は、国際的な品質保証の標準に、SHIFT が数多くの支援経験から得た知見を組み合わせたもので、テスト計画から実行・報告までの進め方、手順、ドキュメントのひな型が定義されています。
観点の立て方、条件の分解のしかた、レビューで確認すべきポイント。ベテランの頭の中にあった判断を、業務の進め方や判断の型として誰でも再現できる形に落とし込む——この積み上げがあったからこそ、テストの暗黙知を AI を活用した業務プロセスに組み込むという挑戦が可能になりました。
それでも難しかったこと — お客様ごとの暗黙知
SHIFT 自身のテストの知見を組み込むことは、土台があったぶん進めやすい取り組みでした。本当に難しかったのは、その先です。
お客様からいただく仕様書やレビュー指摘の中から、お客様の業務に固有の暗黙知を読み取り、次のテストの精度向上につなげる——ここには別種の難しさがありました。苦労話として、特に大きかった二つをご紹介します。
苦労その1:「ちょうどいい細かさ」が見つからない
テストに役立つ知見は、お客様の案件に近いほど具体的で強力になります。ところが、具体的なまま残すと案件固有の情報に寄りすぎて、情報の取り扱いにも慎重さが求められます。逆に、安全側に倒して抽象的にすると、「この画面では何を確認すべきか」という肝心の判断に届かない一般論だけが残ります。
苦労その2:「それで合っているか」を決められるのは人だけ
もうひとつの苦労は、正しさの確認です。お客様の資料から AI が「これは重要な判断らしい」と読み取ったとして、それが本当に正しいかどうかは、仕様書に明記されていない以上、お客様に確認しなければわかりません。ここを曖昧にすると、見かけは整っているが実は違うという知見が静かに蓄積していきます。間違った知見の蓄積は、蓄積しないことより性質が悪い。だからこそ、AI に判断を断定させず、どこまでを人が確認するかをあらかじめ決めておくことが欠かせませんでした。
遠回りに見えて近道だった順序 — まず仕様書と業務理解から
こうした試行錯誤を重ねて分かったのは、課題の中心は「AI がどう賢く読み取るか」より手前にある、ということでした。そもそも入力となる仕様書や業務資料が AI にとって読み取りにくければ、その先の工程すべてが不安定になります。
そこで現在の SHIFT は、お客様の暗黙知を自動で吸い上げる仕組みを急ぐのではなく、AI が読み取りやすい仕様書のあり方を明確にすること、そして業務を分解してドメイン(業務領域)への理解を深めることに優先的に取り組んでいます。地味に聞こえるかもしれませんが、暗黙知は「まとめて AI に飲み込ませる」ものではなく、扱える単位に分解してから接続するもの——これが、遠回りに見えて確実に効く順序だという学びです。
なぜ「ツール」ではなく「サービス」なのか
ここまでの苦労話は、そのまま「AI テストを導入するなら何を選ぶべきか」につながります。世の中には AI を活用したテストツールが数多くあります。それでも SHIFT が AIテストセンター ネムラナイ を、ツールではなくテスト設計・テスト実行のサービスとして提供しているのには理由があります。
1.暗黙知はツールだけでは扱いきれないからです。
前編・後編で見てきたとおり、仕様書に書かれていない判断を拾い、正しさを確かめ、ちょうどいい粒度で活かすには、テストのプロフェッショナルが業務プロセスの中で関与し続ける必要があります。
2.土台の厚みがそのまま品質になるからです。
ネムラナイの AI は、SHIFT のテスト設計者の知見と SQF の蓄積を組み込んだ業務プロセスの上で動きます。だから、速いだけでなく、SHIFT クオリティの品質の作り込みをスピーディにお届けできます。
3.導入時の「うちの場合はどうなる?」に一緒に向き合えるからです。
お客様固有の暗黙知をどう扱うかは、まさに導入時に一緒に整理すべきテーマです。ツールを渡して終わりではなく、仕様書の整え方や確認の分担から伴走します。
おわりに — 導入を検討する方へ
AI テストの導入を検討する際、ぜひ次の三つを確認してみてください。
1.その AI は、どんなテストの知見の上で動くのか。 AI の賢さだけでなく、背後にある品質保証の蓄積を見る。
2.自組織の暗黙知を、誰がどう確認してくれるのか。 書かれていない判断の正しさを決めるのは、最後は人である。
3.仕様書や業務資料を、AI が読み取りやすい形に整える支援があるか。 入力が整わなければ、どんな AI も力を発揮できない。
暗黙知を AI に理解させる道のりは、一夜で終わる魔法ではありませんでした。しかし、分解し、確かめ、業務プロセスに組み込むという順序を踏めば、AI は一時的な便利ツールではなく、組織の品質を継続的に支える仕組みになります。SHIFT がその道のりで得た苦労と学びのすべては、AIテストセンター ネムラナイ に注ぎ込まれています。
テストのボトルネック解消やリリースサイクルの安定化に関心のある方は、ぜひ AIテストセンター ネムラナイの紹介ページをご覧ください。
SHIFT の品質保証サービス全体は SHIFT サービスサイトからご確認いただけます。この苦労話が、みなさまの導入検討の一助になれば幸いです。