ポケトーク株式会社様 導入事例
新たに見えた課題解決に向けた
組織の立ち上げと
網羅的な試験で品質向上を
実現したスタートアップの支援
Summary
AI通訳機「ポケトーク」などAI通訳機および翻訳に関するソフトウェアの開発・販売を行っているポケトーク株式会社様。「言葉の壁をなくす」をミッションに掲げ、合計85言語、世界130以上の国と地域における通信に対応した製品・サービスを展開中。近年は個人向けだけでなく法人向け製品の強化とともに海外市場の開拓を強化し成長している同社。そのなかでSHIFTでは社内外に向けたプロダクト運用体制構築の支援を行いました。また、システムの品質強化においても支援も継続中。
お客さまのニーズにあわせた
法人向け製品・サービスを国内外を問わず
新たな市場を開拓中
貴社の製品は現在どの分野に注力しているのでしょうか?
2017年に初代のAI通訳機「ポケトーク」を発売し累計の出荷台数が100万台を突破しています。当時はまだポケトーク株式会社ではなくソースネクスト株式会社のなかの一事業としての位置づけでスタート。発売当初は主に個人向けに旅行される方や自営で店舗をやられている方に購入いただき非常に好調でした。それが新型コロナウィルス感染拡大で人々の移動が制限され、当社事業も苦しい時期が続きました。そんななかアメリカ市場で法人のお客様が国内の日常業務で利用されるニーズが広がり、また2023年から経済再開が活発化するにつれて復活の兆しを感じています。
特に2023年からアメリカ市場での業績が好調で、今年の上半期で初の営業利益黒字化を達成しました。一番の理由としては、法人のお客様向けのニーズに合わせて日々改良をつづけてきました。その結果、法人のお客さまに安心して導入していただけるようになりました。
例えば、日々の業務で安心して使っていただくためにデータセキュリティや製品の耐久性が必要になります。個人で利用する場合は必要な時だけ使うケースがほとんどでした。しかし、法人利用の場合は毎日の業務のなかで何回も翻訳されるので製品の耐久性も重要になってきます。そこで安心して使っていただけるものにしていこうという考えと、お客さまのニーズがマッチしてきたという印象です。
海外では具体的にどのような展開をしているのですか?
2023年7月に端末を複数台使っていただいているお客さま向けにMDMの機能を搭載した管理コンソール「ポケトーク アナリティクス:米国名 Ventana (ベンタナ)」をアメリカ市場向けにリリースしました。簡単に端末の在庫管理、遠隔操作、リモートワイプなどができるものになります。
IT管理者の方は安全に導入できるのか?何かあったときに管理ができるのか?利用ログが見られるのか?など利用者とは別の需要があります。そこで「ポケトーク アナリティクス」と端末をセットで提案することで採用していただけるようになりました。これにより北米市場での成長に大きく貢献できたと考えています。
ちなみに、国内での需要も確実に伸びているというのは感じています。引きつづき家電量販店を通しての販売を行いながら、法人の方への営業やECでの販売を強化中。当社の製品やミッションは変わりませんが、お客さまがより法人の方にシフトしてきているというところですね。
社内のコミュニケーションから見えた課題を
解決するための組織を立ち上げたことにより
見えた新たな課題
そのなかで貴社ではどのような課題があったのでしょうか?
当社は「ポケトーク端末」以外にソフトウェアサービスも提供しています。AI同時通訳の「ポケトーク ライブ通訳」はPCやスマホのブラウザで起動できて対面もしくはオンライン会議の通訳を支援するツールです。また「ポケトーク カンファレンス」という大きなカンファレンス会場で使っていただけるようなツールも提供しています。主催側に導入していただき、来場した方がQRコードをスキャンしてもらうだけで自分の言語でカンファレンスの翻訳内容を読んだりイヤホンから音声を聞いたりすることも可能なサービスです。
こういった製品・サービスが増えていくなかでプロダクトオペレーションマネジメント(以下、POM)のところで内部でも困っていることがありました。当社はスピード感がありさらに透明性の高いコミュニケーションを行う文化があります。ただ会社としていいところだと思う反面、コミュニケーションが散らばるという問題がありました。
日常の社内コミュニケーションはSlackを利用していますが、開発や製品の仕様に関するドキュメンテーションが未整備のところがありました。新人の社員や既存の社員でも取り扱う製品が変わると理解がバラバラで仕様がわからないという声が挙がっていました。また、お客さまからの質問に対しての回答についてSlack上で属人的にいろんな人に連絡がいくという状況がありました。
その状況を改善しようと、POMというなかで問い合わせを集約する方法を検討しました。そこで会社としてやらなきゃいけないことを全部詰め込んだようなチームをつくりました。その第一弾が問い合わせを一箇所に集める社内ヘルプデスクの運営でした。
ヘルプデスクを立ち上げてからの状況はいかがでしょうか?
ヘルプデスクを立ち上げてからチケットシステムの導入なども検討しました。しかし、Slackによるコミュニケーションの速度を落としたくなかったので結果的にSlackですぐに投稿できるようにしながら、裏側で問い合わせ管理ができる仕組みをつくって運用していました。また、情報が集約されることで会社として整理をしなければいけないものが浮き彫りになったのを感じました。
ただ一言で「整理」といってもものすごくパワーがかかります。社内でも技術バックグラウンドをもちつつ業務整理も経験したことがある社員は少なく、当時はいま以上に人員も不足していました。
SESも検討しましたが、開発・設計経験やPM経験があって事業会社で業務整理の経験もあるという方を探すのは難しいなと。ただ、それぞれ2名採用できるかというとコストの面もあり悩みを抱えていました。
SHIFTはどのようなきっかけで検討されたのですか?
そこでパートナーさんからSHIFTさんの名前が挙がりました。私も前職でSHIFTさんとお付き合いがあり評価業務でいろいろと助けていただいていたのでお声がけさせていただきました。
最近のニュースでもSHIFTさんがいろいろな事業を買収して拡大されているのを見ていました。SHIFTさんなら人材の層も厚く適任がいるのでは?という期待もあり提案いただき支援いただくことになりました。
新たに見えた課題を解決するための
組織と仕組みづくりをSHIFTが支援
SHIFTが支援させていただいてからいかがでしょうか?
アサインいただいた方は組み込み系のエンジニアからはじまって、その後に業務整理をしっかり経験された方でした。予想以上にというのは失礼かもしれませんがチームのなかですごく活躍いただいています。
まず先ほど挙げたように連絡や情報が集約され課題が明確になりました。課題の多くは組織間での役割整理が中心になります。その際に単純に「これはあなたですね」ではなく「情報の管理の仕方はこうしましょう」といった提案も含めて一緒に整理をしてくれました。そうすることで課題の解決もだいぶスムーズにできたのではないかなと思います。
実は、最近POMのチームとしては、社内の組織変更がありチームとしては解散をしました。そこでリーダーをしていた社員が現在はカスタマーサポートやカスタマー支援を行っています。そのなかで新たなグローバルカスタマーサポートの組織をつくりL1/L2のサポートレベルを定義しています。そのオペレーションも含めてSHIFTさん引きつづき入っていただいています。
本当にスクラッチからその体制をつくっているためすごく貢献いただきました。
どのようなところに効果を感じていらっしゃいますか?
SHIFTさんにご提案いただき今回の活動をしていなかったら、整理をしようとすら思っていない状況だったと思います。以前と同じようにコミュニケーションをみんなが頑張って拾いながらやるというスタイルがそのままつづいていたんじゃないかと。
特に海外のメンバーは悩むことが多かったと思います。「これは誰に聞けばいいのかな?」と探すところからはじまり、わかりそうな人に行き着いて問い合わせまではできていました。Slackで誰かに質問を投げるとそのスレッドのなかに答えに近づけてくれそうな人が追加されます。それからしばらく転々としていきようやく辿り着くイメージです。ただ、海外の場合は時差もあるので、そうすると丸一日かかってしまうというケースが多々ありました。
答えに近づくためにまず丸一日から二日かかる状況で、かつそこですぐに答えが出るわけではありません。一旦それが確認項目として認識されて、最適な回答がようやく準備されます。その後で動作確認が必要になるケースも発生しますのでさらにそこで時間がかかっていました。一概にはいえないですが、気になったことを質問して回答を得るまでの時間が大幅に短縮されたのはメンバーも実感していると思います。
法人向け製品の品質向上を実現するため
QA業務においてもSHIFTが支援を継続中
QAについて検討されたのはどのようなきかっけでしょうか?
先ほどお伝えしたように特に法人向けの製品を強化していくとなると、全製品の機能として信頼性が必要になります。当社の場合ですと通訳精度や速度がしっかりしている、ハードウェアが日々の業務の繰り返しの使用にも耐えられる製品が求められます。さらに「品質」という点で「動作を保証する品質」と「セキュリティ面におけるデータの安全性」も重要です。
セキュリティに関しては法人の方にも安心してご利用いただけるよう2023年にISOの認証を取得しました。先ほどご紹介した「ポケトーク アナリティクス」という法人の方向けの端末管理コンソールも国際規格ISO/IEC 27017のクラウドサービスセキュリティ認証を取得しています。その他にも引きつづき開発全体のプロセスのなかで事前にリスクの分析を行い、開発後のツールを使った脆弱性スキャン、第三者のセキュリティエキスパートによる脆弱性診断なども注力しています。
「品質」というのは設計段階の要件定義からはじまり、仕様の品質があり、開発時のソースコードの品質があります。そこから単体試験の品質、結合試験の品質で、最終的にユーザー目線で要求を満たしていることを確認する受け入れ試験という流れがあり、最終品質はそれぞれの品質の総和となります。全てのフェーズにおいてある一定水準のレベルを保っていることが法人のお客さまが求めているものだと思います。
ただ当社の場合は全てを一度に実現するには体制面でもスピード感としても難しいところがありました。そこで少なくとも入口の要件定義と出口の受け入れ試験のところを抑えれば及第点は取れるだろうと思い取り組んでいました。
要件定義については、社内で適切なリソースを確保して要件を整理しています。さらに可能であればお客さまの声を聞いて、それらの要件を具体化していくところを強化中です。
受け入れ試験については、ドキュメントが仕様書に残っていれば社内でもつくれましたが未整備な状況でした。ある一定水準の品質でまず製品を測れるようにするにはどうすればいいか。情報が揃っていない状態で依頼をしても網羅的な試験やシナリオ設計から試験の実施までを担ってくれるところはあるか。そこで試験に対して経験値や実績のある方々に最初はお願いした方がいいという結論にいたりました。
私の過去の経験ですと小規模の開発会社さんでしたら試験も一緒に依頼することもあります。ただその場合自分たちもしっかりと向き合わないと受け切れない部分が多いだろうと想定していました。柔軟かつ懐深く受けていただけるところが軸となります。そこでPOMで支援いただいたSHIFTさんがおそらく現状の我々にとって最適なパートナーだということになりQAもお願いすることにしました。
QAについてもSHIFTが支援させていただいてからいかがでしょうか?
当初は「ポケトーク ライブ通訳」という製品の受け入れ試験からお願いしました。
こちらも仕様書に依存せずこのURLとIDでログインするとこういう風に見えますというところからはじまっています。その後は対応ブラウザ何にするかなどどんどん聞いてもらうようしました。他にもこの機能から画面を変えた機能があった場合に一覧をつくってもらい確認をしながら進めています。
また1,000を超える項目があるなかで、全部の試験を行うとこれだけ期間がかかるのでここは削りましょうなど提案をいただいて。結果として現実的なところに落とし込んだうえで、網羅的に試験を行うことができました。
これまで全てを網羅した試験ができておらず、本当に大事なところだけしっかり抑えるという試験を行っていました。今回網羅的な試験を行うことで自分たちの製品は結構しっかりできていたという製品開発メンバーの自信にも繋がっています。試験結果が出たらすぐに改善をすれば問題ないのですが、そういう自信を植えつけていくことも重要だと感じました。
さらに以前は品質について若干気になっているところがありながらお客様にご提案することもありました。SHIFTさんに試験をお願いしてから営業も自信をもってお客さまに提案できようになったと思います。
本当にお願いしてよかったと思いました。
スタートアップだからこそ
信頼できるパートナー選びと伴走し
ともに成長していくことが重要に
今後の展望やSHIFTに期待することを教えてください。
当社はスタートアップの立ち位置だからこそパートナーに期待することはまず人材が豊富なこと。プラスなにかのドメインのエキパートや知識がある方。またそのドメインの知識だけでなく業務経験があるという方はスタートアップから見るととても魅力に感じます。
例えば、法人向けの製品が強い会社ですと、その裏にある事情や製品、採用する製品の条件など特化したナレッジがたくさん詰め込まれていると思います。
SHIFTさんだったらエンジニアとして必要なスキルセットは揃っていて実務経験もある。加えて組込みデバイスのOSやファームウェアに特化した評価に強い方、アプリに特化した方など。またWebアプリも個人向けのアプリとビジネス向けのアプリで全く性質が違います。「テストエンジニア+ドメイン」といった方がいらっしゃれば安心して仕事をお願いできます。
これまでたくさんのスタートアップ企業さまとお付き合いさせていただきましたが、傾向として自前主義の意識が強いと感じています。社員採用は時間がかかるため、成長のためには社員採用以外の手段も積極的に活用するべきだと考えています。
ですので、スタートアップだからこそちゃんとしたパートナーさんを選ぶことが重要だと思っています。パートナーさんの専門領域においては我々をリードしてもらうというイメージです。この状況をつくる方が私達が本来注力すべきところに注力できて、結果として会社の成長にもつながります。
現在のプロジェクトは規模も小さくいますぐに複数人を増員するというのは難しい状況です。ただ引きつづきお互いの信頼関係を構築しながら柔軟に進めていければと思っています。
※掲載内容は2024年7月取材時のものです。
ポケトーク株式会社