ソフトウェアテストの課題トップ5
─現場で起きる「構造問題」を整理する

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ソフトウェアテストの課題トップ5─現場で起きる「構造問題」を整理する
株式会社SHIFT マーケティンググループ
著者 株式会社SHIFT マーケティンググループ

Introduction

ソフトウェアテストに関する課題は、テスト技術そのものよりも計画・要件・責任分界・開発プロセスといったプロジェクトの構造に起因するケースが少なくありません。
現場では「テストが重い(=テストのリードタイムやコストが増大)」といった意見が出る一方で、根本原因が曖昧なまま表面的な課題に終始し、同様の問題を再発させてしまうことがあります。

本記事では、SHIFTがさまざまな開発現場・品質改善プロジェクトの支援を通じて受けた相談内容をもとに、特に発生頻度と影響の大きい課題をランキング形式で整理しています。
ランキング化にあたっては、以下の3つの観点を重視しました。
①多くのプロダクト・体制で起こりうる発生頻度
②品質課題/リリース遅延/コスト増に直結する影響度
③個人の努力では解消できず、体制・プロセスに依存する構造依存度

目次

図1)課題トップ5全体図
図1)課題トップ5全体図

ソフトウェアテストの課題 第1位:
工数問題―テストが工程の調整弁として扱われる

テスト工数の不足は普遍的な課題ですが、多くの場合、単純な人手不足だけでなく、後工程への圧縮として顕在化するケースが見られます。

・計画上はテスト期間が確保されているが、開発完了が遅れた時点でテスト期間が自動的に削られる
・変更要求が積み上がってもテスト工程の再計画が行われない

こうした兆候がある場合、ボトルネックは「人手」ではなく、「後工程にしわ寄せされる構造」にある可能性が高いと言えます。

典型的なパターンとして、プロジェクトの終盤でテスト計画上の範囲や深さが段階的に削られ、回帰テストが最低限に切り替わります。リリース前の局所的な増員で乗り切ろうとするため、引き継ぎやコミュニケーションコストが増大し、かえって混乱することがあります。優先順位付けが間に合わないまま実行に流れ、重要機能と周辺機能が同列に扱われると、工数を削ったにもかかわらずリスクだけが増える状況になりがちです。

こうした現象の背景には、進行における「開発完了」を優先してしまい、テストが可変な調整弁として扱われやすい開発優先の文化があります。加えて、発注側/受注側双方で見積りが作業分解ではなく“期待値調整”になってしまうこと、要件変動や手戻りのコストが最終的にテスト期間へ集積することも、後寄せ構造を強化します。これをテストの局所問題ではなく、計画・意思決定・変更管理の問題として再定義する必要があります。

―観測すべきサイン
会議内で「テストで吸収して」「最後に頑張る」といった発言が繰り返される、またはスケジュールが崩れた際に“まずテストを削る”ことが暗黙の前提になっている場合、工数が調整弁として扱われている可能性が高いです。さらに、変更要求が増えているにもかかわらず、回帰範囲やテスト優先度の見直しが議題に上がらない場合、圧縮が無秩序に品質リスクへ転化しやすい状態です。

―はじめの一歩
増員や期間延長の前に、テスト目的を「全部やる」から「判断に必要な情報を作る」に切り替えます。具体的には、回帰テストを必須/重要/任意に分類し、圧縮が発生した場合に何を削るかを事前に合意します。

そのうえで、テスト範囲や優先度が過去の慣習に引きずられていないかを見直すことも重要です。必要に応じて第三者の視点やAIによるテスト観点の整理を活用することで、限られた工数のなかでも判断に必要なテストへ絞り込みやすくなります。

ソフトウェアテストの課題 第2位:
仕様が曖昧さ―合意形成の欠如が問題になる

仕様の曖昧さや変更は、アジャイルや反復型開発では一定程度不可避です。曖昧さ自体は避けられない局面もありますが、問題はそれを吸収する合意形成が機能していない点です。

「想定していた挙動が一致しない」という報告に対して「仕様通り」と返されるが、仕様根拠が特定できない、といった状況が挙げられます。受入判定が人依存になることでレビュー/承認が長期化し、仕様確認待ちが増えてテストが断続的に停止することも多く、結果として“テストが遅い”という現象になります。

要件変動そのものではなく、変更意図・影響範囲・優先度が共有されない問題があります。

・「ドキュメントを減らす」と「合意形成を省略する」が混同してしまう
・受入条件や具体例(例示)が欠落している

 “仕様書の有無”ではなく、受入条件を含む合意形成の仕組みが機能しているかを観測対象とするのが有効です。

―観測すべきサイン
欠陥票や指摘が「バグか仕様か」の分類議論で滞留する、レビューが“表現の揚げ足取り”に寄る、仕様確認待ちが恒常化する、といった兆候がある場合、合意形成の粒度が不足している可能性があります。特に、受入判定が担当者の経験に依存し始めた時点で、仕様の曖昧さがプロセスリスクに転化しているサインと捉えられます。

―はじめの一歩
仕様を完全に固めようとするのではなく、まずは機能ごとに「何ができればOKか」「何ができないとNGか」を短文で定義します。重要なのは、仕様の曖昧さをゼロにすることではなく、曖昧さが残っていても関係者の判断が揃う状態を作ることです。

そのためには、受入条件や確認観点を最初から完璧に作り込むよりも、まず議論のたたき台を用意することが有効です。テンプレートやAIを活用して受入条件の候補を整理し、それをもとに関係者で認識を合わせることで、仕様確認待ちや手戻りを減らしやすくなります。

ソフトウェアテストの課題 第3位:
品質責任の曖昧さ―QA任せによる過負荷

品質問題が発生した際に「誰が何を担保していたのか」が説明できない状態は、継続的な改善が回りにくい状態を招きます。品質責任が曖昧な体制では、最終的にQAが“最後の砦”となり、過負荷と対立が発生しやすくなります。

障害発生時の議論が「テストで検出できなかったのか」に収束し、予防や設計改善に話が進みにくくなります。一方でQAが品質を上げようとしてテストを増やすと、工数・スケジュールの観点から“やりすぎ”と見なされ、組織内で矛盾した期待が生まれます。開発とQAのコミュニケーションが、指摘と反論の往復になりやすいのも特徴です。さらに、リリース判断の権限・基準が曖昧な場合、意思決定が先送りされ、結果として「全部やる」方向へ偏り、工数問題を増幅させます。

品質を「テストで最後に担保するもの」と捉える考え方が根強いと、品質責任がQAに偏りやすくなります。さらに、変更点や既知のリスクがQAへ十分に共有されないまま回帰テストに入ると、QAは根拠を持って範囲を絞れず、網羅的にテストをしてカバーする方向に寄りがちです。加えて、「どのリスクを、誰が受け入れてリリース判断するのか」が曖昧なままでは、品質は意思決定の課題ではなく、責任の押し付け合いになってしまいます。

―観測すべきサイン
障害が起きた際に「テストが悪い」という結論に短絡する、あるいはリリース直前になって初めて「出してよいか」を議論し始める場合、判断の設計が不足している可能性があります。また、開発とQAの会話が指摘と反論の構図に寄っているときは、責任分界の曖昧さがコミュニケーションコストとして顕在化しているサインです。

―はじめの一歩
品質を誰か一人に背負わせないために、まずリリース判断を設計します。「最終判断者(責任者)」「判断材料(テスト結果・既知不具合・リスク)」「判断基準(許容するリスク範囲)」を明文化することで、QAに単独で判断責任が集中しない構造を作ることができます。

ただし、役割分担や判断基準は、一度決めただけでは現場に定着しにくいものです。必要に応じて品質管理の知見を持つ第三者を交えながら、判断プロセスを運用できる形に整えることも有効です。

▼リリース判断のRACI表

役割

Go/No-Go判断 判断材料作成 リスク受容
PM

A

C

A

開発

C

R

C

QA

C

R

C

PO C C A/R

ソフトウェアテストの課題 第4位:
テストの属人化―暗黙知を引き継げない

熟練者の経験に頼ること自体は問題ではありません。現場で培われた経験値は強い武器になります。属人化が問題になるのは、「個人の知恵」が「チームの仕組み」になっていない時であり、引き継ぎや増員のたびに品質と速度が落ち、体制の拡張性と継続性が損なわれます。

・重要観点が抜ける
・テストケースの意図が残らず保守ができない
・内容の重複や目的不明のケースが増える
・レビューが形式的、あるいは工数不足で実施されない状態になる

上記の状態が続くと、属人化は加速度的に進みます。

―観測すべきサイン
「あの人がいないとわからない」「過去に痛い目を見たからやっている」という説明が増える、担当交代のたびに品質や速度が揺れる、オンボーディングが長期化するといった兆候は、暗黙知が成果物に落ちていないサインです。また、レビューが文言・手順の指摘に偏り、検証観点の抜け漏れが議論されない場合、属人化を解消するための仕組みが機能していない可能性があります。

―はじめの一歩
最初の一手は、テストケースの網羅的な整備ではなく、重要領域からの観点の言語化と観点レビューです。PMやQAリードが場を用意し、レビュー対象を「手順」ではなく「何を検証しているか(観点・期待値・リスク)」に寄せます。

これにより、属人知を“チームの資産”へ段階的に移送でき、その後の自動化や改善の前提が整います。

さらに、蓄積された観点を再利用しやすい形で管理したり、AIで観点の抜け漏れを補助的に確認したりすることで、属人化の解消を進めやすくなります。

ソフトウェアテストの課題 第5位:
品質基盤が未整備―環境・データ・CI・自動化が回らない

品質基盤が未整備の現場では、障害調査や手戻りの会話に「環境が不安定で再現しない」「データが壊れていた」が頻繁に出てきます。これは、プロダクトの不具合以前に検証の前提が毎回揺れている状態です。さらに、環境改善の要望がいつも後回しになり、「効果がわからないから今回は見送り」で立ち消えるなら、投資判断に必要な材料(どれだけ損しているか)が揃っていないサインです。

▼典型的な事例
・テストが落ちても、バグなのか環境なのか判断できない
・データ準備に時間がかかり、テスト開始が遅れる
・自動化したのに、メンテナンスが重くて結局手動に戻る
・CIが遅い/よく落ちる/赤が当たり前になり、誰も信じなくなる
・再実行・切り分け・待ち時間に工数が溶ける

品質基盤は、改善に時間やコストがかかりやすく、立て直しが難航しやすい領域です。だからこそ課題として認識されていても手がつきにくい、という厄介さがあります。

―観測すべきサイン
「環境が原因で進まない」が定例的に発生する、再実行や切り分けに工数が溶ける、CIの赤が常態化し、失敗が“通常運転”になっている場合、基盤はすでにボトルネックです。また、改善案が出ても「効果が分からないので後で」に収束する場合、ROIの議論材料が不足しており、投資判断が構造的に止まっている可能性があります。

―はじめの一歩
最初は「環境を改善したい」「自動化を進めたい」といった施策から入るのではなく、意思決定のための材料を作ることが重要です。環境起因・データ起因で失われた時間、たとえば待ち時間、切り分け、再実行にかかった工数を一定期間だけでも計測し、検証全体にどれだけ影響しているかを見える化します。

そのうえで、全面的な自動化を目指すのではなく、壊れにくく効果が見えやすい領域から順に整備します。たとえばAPIテスト、外部システムとの連携確認、データ生成などから着手すると、メンテナンス疲弊を避けながら改善を進めやすくなります。改善対象の選定や効果測定に迷う場合は、外部の知見を取り入れることで、投資対効果を判断しやすくなります。

まとめ

解決の起点は「施策を足すこと」ではなく「判断のしかたを決めること」

本記事で挙げたトップ5は、個別の事象として見える一方で、現場では連鎖して発生しやすい課題です。

例えば、仕様の合意が曖昧なまま進むと手戻りが増え、結果としてスケジュールが圧縮されます。時間がなくなるとレビューや情報共有が省かれ、属人化が進みます。属人化が進むほど改善が回らず、環境・データ・CIなどの基盤が整わないままになり、さらに検証が遅れる—こうした悪循環に入りやすくなります。

この状態では、どれか一つだけを局所的に直しても、別の要因がボトルネックとして残りやすく、体感として「一度良くなったのに、また戻った」と感じやすいのが特徴です。

図2)課題が連鎖する因果ループ図
図2)課題が連鎖する因果ループ図

重要なのは、施策を増やすことよりも、まず誰が・何を基準に判断するかを明確にすることです。

(1) リリース可否の判断主体と判断基準
(2) 仕様の合意単位(受入条件)
(3) 圧縮が起きたときに何を削るか(優先度)
を、関係者間で先に固定します。

ここが定まると、テストは「全部やる」から「判断に必要な情報を作る」へ移行し、工数・品質・スピードのトレードオフが議論可能になります。

▼早期警戒チェック表

課題 早期発見サイン 生じる問題
①    工数問題

「テストで吸収して」「最後に頑張る」

無秩序な削減→事故/遅延

②    仕様が曖昧さ

「仕様通り」「どこにも書いてない」

手戻り増→圧縮促進

③    品質責任の曖昧さ

Go/No-Goが直前まで決まらない

全部やる→遅延/対立

④    属人化

「あの人しかわからない」

引き継ぎ不能→品質揺れ

⑤    品質基盤未整備

「環境が不安定」「再現しない」

検証停滞→さらに圧縮

 

最後に、次の一歩は大きな改革である必要はありません。まずは自チームに対して「今のボトルネックは何か」を棚卸ししてください。

・工数が純粋に足りないのか
・意思決定(合意・判断)が遅れているか
・基盤(環境・データ・CI)がボトルネックなのか

そして、“はじめの一手”をひとつだけ選んでみてください。

改善の成否は、取り組み量ではなく、検証リードタイム(変更から判断材料が揃うまでの時間) が短くなったかどうかで確認するのが有効です。

こうした改善を進めるうえでは、自チームの状況を可視化し、テスト設計や実行の進め方、品質判断の仕組みを段階的に整えていくことが重要です。SHIFTでは、品質保証のノウハウを体系化したSQF(Software Quality Framework)に基づき、こうした構造課題の整理や改善を支援しています。

また、テスト設計・実行の効率化を支援する選択肢の一つとして、AIを活用したテスト支援サービス「ネムラナイ」も提供しています。テスト設計や実行に時間がかかっている、回帰テストの負荷が高い、テスト観点の整理に課題があるといった場合は、改善の進め方を検討する際の参考情報としてご覧ください。

▶「ネムラナイ」 のサービス詳細・お問い合わせはこちら
https://contents.shiftinc.jp/nemuranai/

この記事を書いた人

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SHIFTは「売れるサービスづくり」を得意とし、お客様の事業成長を全力で支援します。無駄のないスマートな社会の実現に向けて、ITの総合ソリューションを提供する会社です。

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